『夜の贈りもの』ちいさなおはなし

『夜の贈りもの』ちいさなおはなし

火葬が終わって棺を開けたら、骨のほとんどは形を留めず崩れていた。 箸で触れた先から砂糖みたいにほろほろとこぼれていく。 ただ、まるい頭のてっぺんだけが小さなアーチを描いてきれいに残った。 みんなそれを黙って覗きこんだ。 骨にほんものの月と同じ凸凹としたクレーターが浮いている。 昼の空に浮かぶ白い月。 いつだったか、窓から一緒に見た。 ……夜の忘れもの。 ひらりと舞った言葉、その表情は僕からは見えなかった。 「月になったんだ」 胸のうちにつぶやいたつもりが、かすれた声を発していた。 「月だな」 「月ね」 「月か」 「月にねえ」 父、母、叔父、祖母……近しい親族たちは、貝が次々開くように声を漏らた。 妹は、はるか遠く静かに佇むうつくしい月にあこがれ、願い叶えて月になってみせた。 僕らは顔をあげて、腫れあがった目を落としそうになりながら、ほんのりと笑った。 ____ 作・かくら こう 2022年5月15日

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