魔の山（トーマス・マン）

一冊の本の書きだしには、その作品のすべてがこめられている……そんな感じがします。 そういう「書きだし」を手描き文字で描いてみました。タイトルのところは、古い書体をアレンジして入れています。 サイズはポストカードで、モノクロです。厚めの紙にインクジェットでプリントしたものです。 トーマス・マンの『魔の山』の書きだしは、こんなふうです。 『ひとりの単純な青年が、夏の盛りに、故郷ハムブルクをたって、グラウビュンデン州ダヴォス・プラッツへ向かった。三週間の予定で人を訪ねようというのである。』 青年の名は、ハンス・カストルプ。この名は、宮崎駿のアニメ『風立ちぬ』でも登場しました。ただし青年ではなく、中年の姿になって…… ハンス青年は、アルプス山中の施療院で結核の療養をしているいとこを訪ねるのですが……自身も結核に感染したといわれ、結局三週間の滞在の予定が何年にもなってしまいます。その間に「地上」はどんどんキナ臭くなり、ついてに第一次世界大戦が…… 魔法にかけられたようなふしぎな山の療養所を舞台に、ヨーロッパの思想を背負ったかのようなさまざまな人物が登場し、語り、消えていきます。「三週間の予定で」とわざわざ書かれているところは、一種の伏線で、この遠大な物語が「時間の魔法」にすべて彩られていることを告げるものだったのかもしれません。