銀河鉄道の夜（宮沢賢治）

一冊の本の書きだしには、その作品のすべてがこめられている……そんな感じがします。 そういう「書きだし」を手描き文字で描いてみました。タイトルのところは、古い書体をアレンジして入れています。 サイズはポストカードで、モノクロです。厚めの紙にインクジェットでプリントしたものです。 宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の書きだしは、こんなふうです。 『「ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」 先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の図の、上から下へと白くけぶった銀河帯のようなところを指しながら、みんなに問をかけました。』 この物語は、ここですぐに「銀河」に入ります。銀河という膨大な舞台装置が学校の教室という身近な空間にきゅーんとひこまれ、ついでカムパネルラが、そして主人公のジョバンニが登場します。 ジョバンニの親友のカムパネルラはさっと手をあげるけれど、ジョバンニは知っているのに手をあげられない。そのあとすぐに、ジョバンニが最近眠くて、本を読むこともなくなったと語られ、少年なのに働かなくてはいけない状況へと続いていく……実にみごとな導入だと思います。流れがきれいで、読者は自然にこの物語の世界に気持ちを移されてしまう。宇宙という極大の世界と、子供なのに働かなくてはいけないというつらい日常の現実……そこをさりげなく結んでしまう筆の流れは、やっぱりうまいですね。