ものづくりへの情熱のルーツ

ものづくりへの情熱のルーツ

三河地方に古くから伝わる木綿の織りの 素朴な力強さに魅せられて、 もう20年近くになります。 出会ったのは、 長男がまだ言葉を発する前の事でした。 当時、私は親戚、知人が一切いない土地で ひとりで子育てをしていました。 初めての子育て、頼れる人のいない知らない土地、 コミュニケーション能力もなく また、息子は私の心情を移しているかのように 非常に病弱な子どもでした。 夕暮れ泣きで何をしても泣き止まない息子を抱いて いっそ、このまま ベランダから飛び降りてしまおうか。 と考えたことも。 (まぁ一階でしたけど) 当時は今のようにインターネットは普及しておらず 私にとっての子育ての情報は キラッキラで直視できない子育て情報雑誌と、 居住地の広報誌のみだったのです。 その地元の広報誌で見つけたのが、 古くからの手法の機織り体験ができる講座でした。 この体験講座にどーしようもなく惹かれ 当時、超金欠だったのに夫に頼んでお金を工面し、 人見知り激しい子どもを一時保育に預け、 チャリを飛ばして45分はかかる会場まで 通い詰めました。 きっと私は育児ノイローゼだったのです。 このままでは私も息子もダメになる、 外に出て行きたかった、 のと、 非常に興味があって 何が何でもやってみたかった、 のタイミングが バッチリ合ったのだろうと思います。 いま思えば、必死でした。 私は無事、体験講座を修了し、 機織りの活動する団体に入会を希望しましたが その年は定員数に満たないため入れず、 1年待って、改めて入会しました。 1年間、私を突き動かしたナニカは冷めることなく 入会後は古くから伝わる手法の織りを 先輩から教えてもらって 仲間たちとせっせと織っていました。 それはもう、先輩方から 「機(はた)が壊れる」と揶揄されるくらいに。 (機は普通の民家で使用されてきた 100年くらい前に作られた年代ものの 古ぼけた高機(たかばた)だった) あれは、何だったのだろう。 あの情熱は一体何処から来たのだろう。 私の生家は 今でこそ普通〜の農家ですが、 まわり50軒は全部同じ苗字で親戚縁者、 信号なしの山と田んぼだけの、 絵に描いたようなド田舎の中の サラリーマン兼農家でした。 しかし、およそ150年前くらいのご先祖様は 染め物屋だったのです。 藍染を手がける、紺屋(こうや)。 きっと地域に一軒はあった染物屋だったのでしょう。 この事実を知ったのは 私が機織りを始めた後でした。 父が見せてくれたご先祖が残した ボロボロの染め見本帳に衝撃を受け、 感動したのです。 ものづくりに惹かれ、魅せられるのは なんだろう、 DNAに組み込まれたナニカだったのでしょうか。 子どもの頃、 漫画家になりたかった イラストレーターになりたかった。 絵を描くことが好きだった私は 何か絵に関わる事がしたかった。 でも、辺鄙な片田舎で農家をやってきた親は とても考え方がシビアでした。 「好きな事を仕事に出来るわけがない。 福利厚生がしっかりした大きな会社の 正社員になりなさい。 もしくは、公務員になりなさい。 大人はみんな、色んなことを我慢しながら 生活しているもの。 好きな事をして食っていくなんて そんな夢物語みたいなこと、 できるはずがない。」 親が言った言葉は呪いでした。 私は何にもなれないと思い込み、 でも飛び出したい葛藤と闘いつつも あがらうこともできず、中途半端に進路を決めました。 好きな事は趣味の範囲にとどめ、 私は地元を出て、会社員になりました。 親が私に言ったであろう年齢になった今、 それが親としては 子どもに苦労して欲しくない、 親心、愛情からの助言だったのだろうとわかります。 でも夢を潰えるには十分でしたし 子ども自身がどうしたい、何がしたい、は 二の次だったのだなぁとも思います。 軟弱な事ではありますが、 親にあがらう力と意志が 当時の私には全然ありませんでした。 でも「何かを作り出す」ことに対して 興味を持ち続けていました。 地元を離れ、結婚して子どもが生まれて 精神的にギリギリになったとき 私の気持ちを捉え、すくい上げたのは やはり「ものづくり」でした。 それが三河地方に伝わる木綿の織りであり、 また、マクラメ編みでした。 これはもう遺伝子のせいだと 諦めるより仕方ないのです(笑) きっと遺伝子に書かれているのです、 ものづくりが好きなのだと。 だから、今日も織るのです。 だから、今日も編むのです。 ご先祖からの血が流れている者として、 また偶然にも藍染の木綿糸を使用して 土着の機織りをしている者として、 「紺屋」をもじり「紺夜(こうや)」 と屋号(ショップ名)を標榜しているのです。

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伝統の織りとマクラメ編みをするものづくり作家

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