「切り出す」という作業
紙や布、アクリルや革など、作家さんが取り扱う素材はさまざま。それぞれの特性を活かした仕上がりの風合いを求め、いくつもの加工に取り組んでおられます。
日々、ものづくりの現場にお邪魔し取材させていただくなかで、「同じ作品をいくつもつくる大変さ」や、「同じ形状のものをパーツをいくつもこしらえる苦労」について、わたしたちはたくさんお話をうかがってきました。そこには、かけられる手間や時間だけでなく、「同じ気持ちで取り組むことの難しさ」という心情に関わる問題も横たわっていました。
今回は、そのなかでも特に「下準備」として時間を要してしまうことも多い「素材を切り出す」という作業について、なにかお手伝いできることはないかと考えてみました。相談したのは、ミシンやプリンターなどものづくりに関わる機器も多く取り扱われている、ブラザー工業株式会社さんです。
「切る」を自在に操るスキャンカット
ブラザーさんでは、素材をカットする「カッティングマシン」も多数、開発されています。しかし、作家さんが「手」を使って切り出されているのは、複雑な形状や、「手で描く下絵」の風合いをを活かしたもの、多様な素材…。機械で均一に切る、だけでは解決できない問題が多いように感じます。
ー そういうことでしたら、スキャナー機能が搭載されたカッティングマシンがあります。
と、提案してくださったブラザーさん。パソコンでつくったデータはもちろん、手描きの原稿をこの機器でスキャンし、その「型」でさまざまな素材を切り抜くことができると言います。
そして、「実際に試してみませんか?」と心配りいただき、『ScanNCut(スキャンカット)DX』という機材を数台お借りすることができました。
さっそく、数名の作家さんに使用いただくことに。
「紙」から花びらを切り出す
https://minne.com/@figpolkadot
まずご協力いただいたのは、手描きイラストをモチーフに数多くの紙作品を制作されているfigpolkadotさんです。以前にも、カッティングマシーンを使用されたことがあるそう。
今回は、手描きの原稿をスキャンして「型」を制作。色紙を使うのではなく、水彩で直接色付けしたペーパーを用意して、制作した「型」で切り出してみます。「色味の濃淡がたのしめるようにしたいので」とfigpolkadotさん。
あとは、画用紙からぺりっと剥がすだけ。見事なカットに「すごい!」と感嘆の声が。
そのあとの制作に、時間をかけられるのがうれしいですね。
花びらの重なりが美しい、メッセージカードとブックマークが完成しました。水彩ならではの色の濃淡と手描きならではのやさしい曲線がマッチしています。
たくさんのパーツが、あっという間に完成することで、新たな作品の検討やイラスト制作に力を入れることができる、といううれしい発見がありました。
「プラ板」から花びらを切り出す
なんと、カットできる素材は紙だけではない、ということで他の素材でも試してみることに。
https://minne.com/@yu19850213
ご協力いただいたのは、「季節を持ち歩く」をテーマにプラ板を使った作品を制作されているfraise02さん。スキャンカットを使って、プラ板からモチーフを切り出してみます。
紙同様、ぺりっと剥がすだけで、いくつものモチーフが完成していきます。
着色をして加熱。立体的なチューリップの花びらが完成しました。
そのほか、いくつもの花びらが重なる美しいフラワー作品がたくさん誕生しました。
作品の魅力が、いっそう増すような工夫を見つけることもできました。
「革」から花びらを切り出す
最もおどろいたのは、「革」の切断でした。
ご協力いただいたのは、革素材を使った繊細な作品を手がけているnoxonさん。革を裁断する専用機の導入も検討されたことがあるそう。
たった数秒で、こんなに細かな素材がいくつも切り出されました。一同「ああ…!」と声が漏れます。
美しい革の風合いはそのままに、花びらの枚数や切り込みの数を増やすことができ、一層、可憐で女性らしいデザインの作品が完成しました。
素材の魅力が咲き誇る
3名の作家さんに制作いただいた「春の花」が集まり、まるで花壇のようです。異なるそれぞれの、魅力的な素材たち。それらでつくる花びらが見事にカットされる様子に、作家のみなさんは「わっ」とおどろきの声を漏らしましたが、それ以上に、完成した作品の数々に「わっ」と我々がおどろかされました。
大切な時間を、丁寧に短縮する
この世に一点しかない、というハンドメイドの魅力。最もこだわりたい「わたしにしかできない手仕事」に想いや時間を込めるため、下準備の手間を短縮する、というのはひとつのアイデアかもしれません。デザインや素材について「機械に頼るためにあきらめる」のではなく、「短縮することで、一層こだわることができる」、そんな選択を手伝ってくれるアイテムだと感じました。
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取材・文 / 中前 結花 撮影 / 真田 英幸