400年続く大切なもの
佐賀県の肥前で、400年以上も続く“やきもの”の技術・文化。
どれも同じように長きにわたって、いくつもの窯元で大切に受け継がれてきたものですが、その背景、そして技法・仕上がりは、地域によって実にさまざま。
どのやきものにも、それぞれに美しい個性があり、それぞれに窯元の職人たちの想いが込められています。
伝統を重んじながらも、これまで以上に多くの人の目に触れるよう、今後の発展にも力を注ぎたいものばかりです。
そんな魅力の発信と、さらに伝統技術に新たな感性を掛け合わせることで可能性を開拓するプロジェクト「HIZEN5」は、佐賀県が提案するやきものブランド。
今回、唐津・伊万里・武雄・嬉野・有田の5地域が集まるこのプロジェクトと、minneがコラボレーションすることで、やきものの新たな可能性を検討することとなりました。
伝統技術と、新たな感性を掛け合わせる
たとえば、本来であれば窯元で廃棄してしまう「陶片」を譲り受け、異なる素材と組み合わせてデザインした、サステナブルなものづくりが、まったく新しい魅力を持ったアクセサリーとして息を吹き返したもの。
コンセプトから作家さんがしっかりと練り上げ、0からのものづくりに取り組んだものも。
伝統ある窯元の陶片素材を削り、作家さんが窯で焼いた新たな陶器と組み合わせたものや、窯元にお願いし、今回のためのオリジナルの「型」を制作してもらってつくり上げた作品も誕生しました。
話し合いを重ね、窯元の貴重な素材や技術と、作家さんの新しいアイデアと技術を掛け合わせてつくられた、特別なアクセサリーたち。
ここでは、完成した作品の、その一部をご紹介します。
唐津(白華窯) × What a Fantastic Rose!さん
茶の湯の名品として茶人に愛されてきた「唐津焼」。土の風合いを活かした素朴さも魅力のひとつです。
そんな「唐津焼」の、本来であれば捨てられてしまう陶器の欠片「陶片」を窯元から譲り受け、さらに細かくカット。
天然石やステンドグラス、チェーンなど、異なる素材との組み合わせをふんだんに取り入れ、モダンなアクセサリーを制作してくれたのは、作家・What a Fantastic Rose!さんです。
普段から「金継ぎ」をほどこした作品を制作されていますが、その「金粉」を使って、陶片をドット柄にアレンジするなど、まさに新たな感性を掛け合わせたものづくりとなりました。
制作を通して、「長く触れるほどに愛着が湧く、唐津焼の独特の素材感や柄に魅力されてしまいました」と話してくれます。
男性用には、タイピンやカフスの用意も。さりげなく身につけられて、「あら」と目を奪うような絶妙な仕上がりになっています。
「唐津焼の上品な趣きを邪魔せず、より引き立てるようなデザインを」というのも、今回のコンセプトだそう。
What a Fantastic Rose!さんの作品は、どれもすべて1点もの。お気に入りをぜひ探してみてください。
伊万里(鍋島 虎仙窯) × Nolismさん
佐賀藩の御用窯として高度な技法を受け継いできた、伊万里の「鍋島焼」。
そんな「鍋島焼」との組み合わせで、新たな作品づくりに取り組んでいただいたのは、陶磁器で生み出すアクセサリーを制作されている、Nolismさんです。
伊万里焼=幕府へのご献上品である「鍋島焼」と定義したうえで、 食器としてつくられていた伊万里焼の魅力を、アクセサリー全体でどう表現するか…そこに、Nolismさんにしか実現できない、アイデアと工夫を凝らしていただきました。
佐賀県でやきものを学び、長崎でご自身も陶磁器で制作活動をされているNolismさんですが、「まったく別の素材と組み合わせることはあっても 同じやきもの(それも、高価で格式高い伊万里焼)とのコラボはこれまでに考えたことすらありませんでした」とのこと。
鍋島焼ならではの「鍋島青磁(なべしませいじ)」の色味、その表情の幅広さを届けたい、というのも今回のコンセプトだったそう。
青磁の釉薬は伊万里焼以外でも広く使われるものですが、 伊万里焼には、国内で伊万里でしか産出できない天然の「青磁原石」が使われているため、これほどまでに美しい色が表現できるのだそう。
その「鍋島青磁」とご自身で型づくりから制作された陶器パーツを組み合わせ、800度の熱で焼成され完成したのが、このピアスたち。
伝統と格式あるやきものと、新しいやきもののこれまでにないコラボレーション。
「この作品をきっかけに、佐賀県に行ってみたい…と考えてくださるような方との出会いがあれば幸せですね」と語ってくれたNolismさん。
そんな引力をも持つ、素晴らしい作品が完成しました。
武雄(東馬窯・綿島康浩陶工房・康雲窯) × KAKAPOさん
日本各地だけでなく海外にも輸出され、陶土の風合いが美しい「陶器」と、白さが輝く「磁器」の、そのどちらもが愛され続ける「武雄焼」。
「武雄焼」と掛け合わせ、新たなものづくりに取り組んでもらったのは、トレンドを意識しながらも独自の視点で新たなアクセサリーを生み出し続ける、作家・KAKAPOさんです。
「今とこれからのスタイルにあう、陶器のアクセサリー」をテーマに4種類の作品を手がけていただきました。
「時代を超えても長く愛せるように、そして陶器の美しさを損なわないように、シンプルなカラーとすこしの個性を大切にしました」とのこと。
陶器のパーツとレザーの組み合わせは、その質感のコントラストがおもしろく、新たな魅力と可能性を感じる仕上がりとなりました。
「美しく絵付けされたお皿や壺だけじゃない、やさしい土の質感や釉薬の色合いの美しさは、実物に触れてはじめて感じるものだと思いました」とKAKAPOさん。
思いも寄らなかった異素材との組み合わせや、独特のスパイスを効かせたものづくりが、今回の取り組みを象徴してくれているようなラインナップとなっています。
嬉野(224porcelain)× Lamipasさん
スタイルにとらわれることなく、新たなデザインを取り入れ、幅広い年齢層から注目を集めている嬉野の『肥前吉田焼』。
その「肥前吉田焼」の窯元と一緒にものづくりを手がけてくれたのは、きらきらと宝石のようなモチーフに思わず心奪われるアクセサリーをいくつも制作されている、Lamipasさんです。
コンセプトを考えるうえで注目されたのは、『嬉野』という地名から想起する『嬉しい気持ち』。
「ケーキがあると嬉しくなる。嬉しいときにケーキがある。」をテーマに据え、窯元さんには、オリジナルの型づくりをお願いしました。
Lamipasさんがつくる作品サンプルをもとに、ブローチの土台となる陶磁器をつくるところからのスタート。
「本当に、窯元さんの技術力無くしては完成しえなかった作品ですから、完成した陶磁器のパーツに、スワロフスキーのパールと、ビジューをセッティングし、ブローチに仕上がったときは、感激しました。試行錯誤の苦労も大きかったぶん、喜びも嬉しさもひとしおです」とLamipasさん。
手に乗せたときの、しっとり、ひんやりとした静謐(せいひつ)な心地。そして、その真っ白な美しさ。
Lamipasさんご自身が感じた、その大きな感動も投影された、特別な作品となっています。
つけ心地もとても軽い仕上がりなので、コートのような厚手のものはもちろん、ぜひニットやシャツ、いろいろなもの身につけて、陶磁器を嬉しいお出かけのおともにしてみてください。
有田 (文翔窯・陶悦窯)× ichiさん
最後にご紹介するのは「有田焼」。
普段使いの食器から美術工芸品まで、400年以上前から幅広く生み出し続けている、まさにやきものの名産地です。
そこで生まれた「有田焼」と掛け合わせ、新たな作品を制作してくれたのは、「だれでも手に取りやすい金継ぎ作品を」と、簡易金継ぎでアクセサリーづくりを手がけるichiさんです。
ピアス、ブローチ、リング…といくつものバリエーションを展開いただきましたが、窯元で生まれた陶片と天然石を組み合わせる今回のものづくりには、深い想いをお持ちでした。
「金継ぎは、割れてしまったから捨てる、仕方なく繕う、というのではなく、“より美しく”生まれ変わらせることができる美しい日本の文化だと思っています。捨てられるはずだった陶片や歪(いびつ)な形の天然石も、こうして作品にできたことを本当にうれしく思います」
陶片そのものの良さをしっかりと活かしながらデザインを組まれたブローチは、古き良き風合いと、ドーナツ型の組み合わせが、新しく美しい仕上がりに。
「身につけてくださる方にも、以前はお茶碗だったのかな?それとも花瓶?…と想像しながら、生まれ変わった欠片たちへの想いを深めていっていただきたいですね」とichiさん。
どの作品も耳もと、指先、胸もとにすっと馴染んで、大切なものを受け継いでいるような、あたたかな気持ちに満たされます。
「HIZEN5」のアカウントも登場
さらに、制作された作品の中から、各地域の資産を磨き上げて全国に佐賀県の魅力を発信する「地域プロデューサー」の方に選んでいただいた作品を、「HIZEN5」のminneアカウントでも販売中です。
セレクトショップのような特別なギャラリーも、ぜひ覗いてみてください。
引き継ぎ、文化をつくる
長く引き継がれる伝統と技術。
その形をそのまま丁寧に大切に残しておきたい、という考え方もある中で、もうひとつ、さらにこれまでにない試みと掛け合わせることで、新たなファンとの出会いや、可能性を広げ、文化をさらに創造しながら継続させていきたい…、そんな愛の詰まった柔軟な想いが「HIZEN5」にはあります。
作家さんの視点と窯元の技術が重なって誕生した、今回だけの特別なアクセサリーたち。
数ヶ月を経て完成した伝統と革新の協奏が、どうかさりげなく、軽やかに、胸もとや耳もとや指先を彩ってくれますように。
まだまだ他にもたくさんの作品が生まれています。
ぜひ、新しいものづくりの一場面に立ち会ってみてください。
文 / 中前結花 撮影 / 真田英幸・中村紀世志
企画・ディレクション / 中村瑛美里・中前結花