今日もひねもすチンアナゴ達は身体半分を砂底から出して煙突のように突っ立っていました。
見上げると透明な海越しに空が見えます。
カモメが一羽飛び去って行きます。
1匹のチンアナゴが言いました。
「こうやって砂底から空を見上げるのも飽きたもんだ」
「僕もそう思う」
「海の上ってどうなってるんだろう」
隣のチンアナゴ達がこたえます。
「誰か行ってみないか」
「うーん。それはどうかな」
何しろチンアナゴというのは自分から動いて餌をとることもせず、ただ突っ立ってエサが流れてくるのを待っているくらい、めんどくさがりやなので、誰もそんなことはしたがりません。
グダグダしているうちに、日は暮れ、空は一面、星にあふれた夜空になっていました。
空を見た1匹のチンアナゴが言いました。
「見上げてごらんよ。ヒトデでいっぱいだよ」
「本当だ。何のことはない。空も海と同じだ」
「これは、わざわざ行くまでのこともないな」
「その通り」
チンアナゴ達は上に行かなくても良くなったものですから、皆嬉しそうに口々にこたえます。
ふと、1匹が言いました。
「と言うことは、空の天井にも我々の仲間が、同じように突っ立っているのかしらん」
「そりゃそうだよ」
「下を見て、ヒトデを見つけて喜んでるはずさ」
「こいつは愉快だ」
「あっははは」
こうしてチンアナゴ達の夜は更けていくのでした。