【瓶詰めの御話】材料を探す旅【3/5】

【瓶詰めの御話】材料を探す旅【3/5】

「HONEY DROPS」「UNDINE CRYSTALS」に使われている材料を探す旅の御話です。 ~「HONEY DROPS」を探す旅~ 「美しい橙色」をした「花畑のような優しい花の香り」のする蜂蜜、少ない情報ではあるものの心当たりがあった私は、岩場の多い北の山へ歩を進めました。 目的地は森の奥地。それも地面に近い場所なので、空中からでは発見することすらできない場所。 拓けた場所まで箒で行きあとはひたすら歩くのみです。 一晩森の中で野営をし、翌朝、北を確認しながらさらに森の奥へと進むと、木々が鬱蒼と茂り岩壁がどこまでも続く場所へたどり着きました。 岩壁に沿って進むと直線に切り取られた岩が斜めに重なり合う、高さ1mも無い三角形の穴が空いた岩壁を見つけることができました。 この場所こそが探し求めていた目的地の入り口、『ドワーフの村』です。 ドワーフは小人族のいわゆる妖精の類。手先が器用で工芸技術が飛びぬけていることで知られています。 「その中でもこの村の長はとても聡明な方だから、材料探しなら当たってみなよ。いいのが出来たら私にもおくれよ?」と、噂好きの魔族から行き方を教えてもらったのです。 途中つかえつつもなんとか身をよじりやっとの思いで穴から抜け出すと、巨木の根に沿って小さな家々が並んでいました。 木の根を屋根代わりにした小さな家々には苔が生え、ずっと昔から自然と共に生きてきた種族なのだと見てとれました。 鍛冶屋なら村に詳しいだろうと思い、たて掛けられた看板横の扉を開けると、長い髭をたくわえたドワーフが「珍しいのが来たな」と目を丸くしています。 事情を話すと、「村の中心にある巨木"神樹"の根元の大きな室に長がいる。案内してやろうか?」と親切に教えてくれました。 仲介してもらえるのはこちらとしても助かるのでお願いし、鍛冶屋のアンヴィルと共に長へ会いに行きました。 蔦が丁寧に編み込まれた椅子に揺られて気持ちよさそうにウトウトしている顔全体に大髭をたくわえた長に、アンヴィルは「客人だぞ!!!」と大声で呼びかけました。 「ホホッ珍しいのぉ……してお主、探し物かのぉ?」長の声は深く、とても穏やかな声でした。 この瓶詰の蜂蜜が何か知りたいと瓶を手渡すと、目を細めながら「橙色と茶色の蜂が、春の花が芽吹く特定の期間だけに集めた希少な蜂蜜」だと教えてくださいました。 しかしこの蜂は戦争で全ていなくなった、と懐かしむように長は仰いました。 ――ある戦争の終戦前、力のある魔法使いたちは国を確固たる勝利へ導かせるためにと戦地に召集された時代がありました。 魔法界は隔てられた場所にあるため人的被害はありませんでしたが、瘴気にあてられた精霊や一部の生物・植物は絶滅したのです。 特に蜂は植物になくてはならない存在。瘴気で多くの蜂が消え、その影響で消えた植物も多いのです。 その中にいた蜂が、「Little Bee(幼な蜂)」という種類。 この蜂はミツバチの1/2程の大きさで、元はドワーフたちが養蜂していたと教えてくださいました。 少しずつ数を増やして育て、やっと村の全員に分けられる収穫量まできたところだったそうです。 しかし瘴気によって蜂は絶滅し、受粉が出来なくなった春の花も次の年には消えてしまった。 「魔女のお嬢さんや……その蜂蜜をなぜ探しておる……」 「……亡き師匠の残したものだから、です」 最初は興味本位だった材料探し。 ドワーフの話で過去を知り、想いを受け継ぎたいと強い気持ちへ変わりました。 村の長はアンヴィルに「あれをここへ」と指示すると、アンヴィルは室の奥からカゴを手に取り長へ渡しました。 「これはの、わしが育ててきた蜂での……」 カゴの中へ手を入れた長の指には、1cmにも満たない小さな蜂がとまっていました。 「Little Beeの子孫じゃ……これをお嬢さんに託そう」 ついさっき絶滅したと聞いた蜂の子孫。 どうしてと口を開こうとしたとき 「もうすぐわしはの、木になるのじゃ」 だからの……、そう言って私の手に蜂を乗せ リーゼ、君がこの蜂を育てなさい。春の花を探して、どうかまた琥珀色の美しい蜂蜜をこの村に届けておくれ――…… ――帰りの支度をしていると、もう一つの瓶詰に気づいた長が「これは見たことがあるのぉ……」とつぶやきました。 「空で待つといい、きっと会えるはずじゃ」 そういって、蔦が丁寧に編み込まれた椅子に揺られて村の長は気持ちよさそうに眠りました。 また会いに来ますね。 Riese

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