インタビュー

【連載】わたしのHANDMADE AWARD vol.3 〜 trikotriさん「踏み出す勇気が景色を変える」

毛糸をぐるぐる巻いてつくる、ほっこりかわいい「動物ぽんぽん」で、記念すべき第1回目の「minneハンドメイド大賞」でグランプリに輝いたtrikotriさん。今回は、minneの創設者の阿部がアトリエにお邪魔し、コンテストに応募したきっかけから、受賞後の変化、目覚ましい現在のご活躍まで、たっぷりとお話をうかがってきました。

毛糸をぐるぐる巻いてつくる、ほっこりかわいい「動物ぽんぽん」で、記念すべき第1回目の「minneハンドメイド大賞」でグランプリに輝いたtrikotriさん。今回は、minneの創設者の阿部がアトリエにお邪魔し、コンテストに応募したきっかけから、受賞後の変化、目覚ましい現在のご活躍まで、たっぷりとお話をうかがってきました。

わたしのHANDMADE AWARD

作家さんの発掘・支援を目的として2015年より開催している「minneハンドメイド大賞」。今年は「minneハンドメイドアワード」と名称を変えて新たに誕生し、作品の応募受付を開始しています。応募にあたって、すこしでもみなさんの参考になればー そんな想いで、minne mag.では過去の受賞作家さんにお話をおうかがいすることにしました。今回は「ハンドメイド大賞2015」で大賞を含む2冠を受賞されたtrikotriさんと、minneの創設者、阿部との対談形式でお届けします。

プロフィール

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trikotriさん

毛糸を使用したぬくもりあふれるぽんぽんの作品を制作。「ハンドメイド大賞2015」では「森の動物たちのぽんぽんブローチ」で『大賞』『アクセサリー部門賞』を受賞。


心地いいアトリエで対談スタート

お邪魔させていただいたのは、陽の光が心地よく差し込む、trikotriさんのご自宅兼アトリエ。お気に入りのオブジェや道具に囲まれた、やさしい雰囲気あふれる空間の中で、たくさんの動物ぽんぽんたちに見守られながら対談が行われました。

阿部今年もminneのコンテストの募集を開始しました。今回で4回目になりますが、trikotriさんは第1回目のグランプリ受賞者ということで、いろいろとお話をうかがいたいと思います。よろしくお願いします。

trikotri
はい、よろしくお願いします。もうあれから4歳も歳をとったんですね(笑)。あのときをきっかけに、わたしの人生ががらりと変わったように思います。

阿部
第1回目のコンテストを開催したときは、どのくらいの数の作家さんが参加してくださるのか、どのようなクオリティの作品が集まるのか、不安と期待が入り混じっていたことを思い出します。そもそもtrikotriさんは、どのようにコンテストを知り、応募を決められたのでしょうか。

trikotri
わたしは小さいころから手芸や工作が大好きで、以前は個人的にものづくりをしながら、手芸店につとめていました。売り場に置くための見本作品をつくったり講習会の企画を考えたりと、とてもたのしい日々だったのですが、家に帰っても売り場の見本をつくりたくなってしまったり、仕事と自分のものづくりとの切り替えがうまくいかなくなってしまったんです。

阿部
職場でも家でもものをつくられていて、どちらのものづくりもたのしかったからこその悩みを抱えていたんですね。

trikotri
はい。それならばいっそのこと、まったく異なる仕事につこうと思い、5年半つとめた手芸店を辞めてアパレル販売員になったのですが、想像以上にハードで…(笑)。

阿部
僕も学生時代に接客業のバイトをしていた経験がありますが、なかでも洋服屋さんはお忙しそうなイメージがありますね。

trikotri
拘束時間も長く、家に帰ってきても疲れてしまって、ますます、ものづくりに費やす時間もエネルギーもなくなってきてしまっていました。これでは本末転倒だ、と将来に不安を感じている中で、たまたまminneのコンテストの募集を見つけたんですよ。

trikotri
でも募集を見つけてすぐに応募しよう、とは思えませんでした。それまで、ものをつくっても人にあげて終わり、というのが普通だったので、自分がつくったものを人に見てもらうことには消極的だったんです。専門的に勉強したこともなかったので、人に見せる自信もありませんでした。まわりにはSNSを使っている人も増えてきていましたが、わたしはどちらかというと……秘めるタイプなんです(笑)。

阿部
秘める!自分の中にしまってしまうんですね。どちらかというと僕も同じタイプなので、共感します(笑)。

背中を押してくれたひと言

trikotri
とても内気で、やりたいことも自分から「やりたい!」とはいえないタイプでした。ところが、ちょうどその頃に姉からいわれた言葉があって。姉はいつもやさしくて、わたしのことを応援してくれるんですけど、その姉に「応援したいけど、何がやりたいのか見ていてわからない」といわれたんです。

trikotri
はっとしました。それまでは、できない理由をさがしてしまうタイプでしたが、できるようにする方法をふつうに考えればいいんだ、と気づいたんです。そこからは、作品を人に見せよう、伝えようと思って、SNSにつくったものを載せるということをはじめて。ちょうどそのタイミングでminneのコンテストに目がとまったんです。たぶん、自分でもうすうすは、このままじゃいけないと感じていたんだと思います。そこに姉のひと言が着火してくれて、自分の進む道はちゃんと自分で選んでいきたい、と思うようになりました。

阿部
ずっと自分の中で、現状を乗り越えたいという想いがあったんでしょうね。僕もminneを立ち上げたきっかけは、弊社で新しいサービスを考える機会に、代表の佐藤からかけられた「阿部ちゃんは何かやりたいことないの?」という言葉でした。自分にバトンが渡されたとき、実際に自分から動き出そうとしたときに、人も景色も変わっていくんでしょうね。

ひらめきをカタチに

阿部
お忙しい毎日の中で、実際に応募するまではどのような日々を過ごされていたのでしょうか。

trikotri
応募してみようかな、と思いはじめていたものの、日々の忙しさに流されて、これといった作品のアイディアもなかなか浮かばないまま、時間ばかりが過ぎてしまっていました。でもそんなある朝、目が覚めたときに急に「動物ぽんぽん」の作品のビジョンが浮かんだんです。手芸店で働いていたころからぽんぽんの作品はつくっていて、動物を観察することも好きでYouTubeで動物の動画を見てたのしんでいました。当初からつくっていたシマリスなど、動物のブローチをつくって応募してみようと、そのときに決意できたような気がします。

trikotri
動物ぽんぽんはつくりはじめれば、ひとつ数時間で出来上がります。本当はライオンなど、いろんな動物をずらっと並べたかったんですが、結局、限られた時間の中で3個の動物ぽんぽんをなんとか仕上げて。募集締め切りの前日か当日の朝、仕事に出かける前に写真を撮って、かなりぎりぎりで応募に間に合いました。

阿部
間に合ってよかったです(笑)。一次審査を通過して、23,000点の中から150点に残ったときのお気持ちはいかがでしたか?

trikotri
わたしの場合は一次審査よりも前に最初の応募が通過したときから、毎日そわそわしていて、気持ちの中では常に3㎝くらい体が宙に浮いている感じでした(笑)。150点に絞り込まれたときは、ウェブサイト上に他の作家さんたちのすばらしい作品の中に自分の作品も並んでいる、というだけですごくドキドキして、感動していました。

阿部
最後の結果が出るまで、なんとなくずっとドキドキしてしまいますよね。僕もデザインコンテストに応募した経験がありますが、心ここに在らず、というような日々を過ごしていた気がします。そのドキドキを抱えたまま、授賞式を迎えたわけですね。

trikotri
はい。授賞式の思い出といえば、式がはじまって各賞が発表されていくのに、全然名前が呼ばれないので、だんだんと手が震えてきて。アクセサリー部門賞で名前を呼んでいただいて、すごくすごくうれしくて、「受賞されたかたはロゼッタを胸につけてください」というアナウンスがあったんですが、うれしさのあまり、全然聞こえていなくて無視しちゃいました(笑)。

阿部
緊張感は伝わっていましたが、アナウンスを無視するほどまでだったとは(笑)。そして、最終審査を経て大賞に選ばれたときの心境はいかがでしたか。

trikotri
大賞で名前が呼ばれたときは、もう本当に現実感がありませんでしたね。授賞式の帰りにすぐ家族に報告をしたのですが、家族もとても驚いていて最初のうちは半信半疑でした(笑)。帰宅して落ち着いてから、改めていただいたトロフィーを見たときに、「金」ではなく「木」でできていて、minneらしくて素敵だなと思ったことを覚えています

阿部
ありがとうございます。コンテスト自体もあたたかさを感じていただける場所にしたいと思い、トロフィーにもこだわりました。



受賞者に贈られた木製のトロフィー。「トロフィーも含めて、手のぬくもりを感じるものを」というminneの想いを込めています。

阿部
やはり、事前に顔のパーツ位置を計算してぐるぐると毛糸を巻きつけ、カットして顔をつくりあげていく、という技術の高さと、ありそうでないぽんぽんブローチ、という新鮮さが受賞の決め手となったと思います。素晴らしい作品でした。

trikotri
ありがとうございます。大賞をいただいたことをきっかけに、たくさんお仕事のお話をいただいて、生活がめまぐるしく変わりはじめましたね。最初のころはフルタイムで働いていたので、両立は難しいと思って、いただいた仕事を断っていたんですよ。退職を考えるようになってからも、なかなかいい出せずに悶々とした日々を過ごしていました。でもある日、エリアマネージャーの方にお会いする機会があって「実はこういう賞をもらって、いろいろな仕事をもらっているんですが断っているんです」と打ち明けたら、「今の仕事は辞めて、ぜひチャレンジしなさい!」といってくれたんです。

行動が産んだチャンス

フルタイムの仕事を辞め、ものづくりに専念できる環境となったtrikotriさんは、動物ぽんぽんの書籍の出版をはじめ、キット制作や道具セットの監修に携わるなど、幅広い活躍をされています。

阿部
minneのコンテストは作家さんにスポットライトが当たる場所をつくりたい、作家さんが次につながるきっかけとなる場所にしたい、という想いで開催したので、大賞受賞後のtrikotriさんのご活躍は僕たちにとっても励みになっています。

trikotri
光栄です。これまで本の出版やキット化など、いろいろなことに挑戦させていただきました。自分で作品をつくることと誰かにつくってもらうためのレシピをつくることは、まったく異なる作業で、苦労するところもたくさんありましたが、レシピ用につくり方を再構築する作業がおもしろくなってしまって。その過程で新しい技法も出てきて、どんどん突き詰めたくなっていった結果、新ラインの糸の商品開発に関わらせていただいたんです。

阿部
次のステップアップにつながったことがうれしいなと思っていましたが、そこからさらに素材自体の商品開発にまで関わっていくなんて、すごいですね。どのような経緯でそこにたどり着いたのでしょうか?



こちらがtrikotriさんもお気に入りの糸、iroiro(全50色展開)。「微妙なグラデーションのそろう色味や小物づくりに適した太さなど、使いやすさバツグンです。シャム猫、きなこなどネーミングがかわいいところもポイントです。色の名前は企画の方が考えてくださいました」とtrikotriさん。

trikotri
本の仕事を進める中で、こんな糸があったらもっといろいろなレシピをつくれるのにな…と日頃から思っていて、周囲の人に相談していたんです。そんな中、お仕事でお世話になっていた方に「メーカーさんに打診してみては」といわれて。それまでは自分が直接メーカーさんに打診するなど思いもしなかったのですが、しばらく悩んだ末に「DARUMA-横田株式会社-」さんのお問い合わせフォームに、私はこういう者ですけど、ってメールしたんです。そうしたら、ありがたいことに耳を傾けてくださって。糸の色味を選ぶところから参加させていただき、一緒にキットまでつくらせていただくことになりました。

阿部
パッケージからもtrikotriさんの世界観が伝わってきますし、iroiroもtrikotriさんらしさをしっかり感じられて、その完成度の高さに驚いてしまいました。ひとつの企業がひとりの作家さんの想いをここまで汲み取って形にされているなんてすごいことだと思います。このような商品開発が実現できたのも、trikotriさんがお問い合わせフォームに連絡する、という行動をされたからこそですよね。お姉さん、会社のえらい人、お仕事で関わった方。きっかけとしては、いつも誰かが背中を押してくれるけれど、そこからアクションをちゃんと起こしていることが今につながっているのだと思います。

純粋に「好き」ということ

阿部
当時を振り返ってみて、trikotriさんにとって、minneのコンテストはどのような存在ですか?

trikotri
自分がつくれるもの、ではなくて、自分がつくりたいものをつくれる、「好き」を爆発させることのできる素晴らしい機会だと思います。わたしはどうしてものづくりをはじめたんだっけ?どうしてものづくりが好きなんだっけ?わたしはどんなときにときめいたんだっけ?と、ものづくりの原点を思い出させてくれるきっかけになりました。

阿部
そういっていただけるとうれしいです。そのきっかけをもとに、ご活躍されてからも、今日の対談のようにずっと変わらずコミュニケーションができる存在でいつづけてくださることも僕はうれしく思っています。minneとしては今後、作家さんの作品をより共鳴する人に届くものにしていきたい、作家さんがたのしくものづくりを継続できる世界をつくっていきたいと考えていますが、trikotriさんが描く夢を教えてください。

trikotri
今のわたしの活動のきっかけをつくってくれた動物ぽんぽんを、これからもたくさんの方につくってもらうためにやりたいことも山ほどあるのですが、自分が自由につくりたいものをつくる時間も大切にしていきたいですね。あとは、つくることって生活とリンクしているものだと思うんです。子どものセーターに穴があいたら、ちょっとかわいくアップリケをつけてあげたり、誰かの誕生日だからその人を思い浮かべてプレゼントをつくってあげる。相手が喜んでいる姿を見て、それがモチベーションとなってまたつくりたくなる。ちゃんとそういうサイクルの中で続けていけたら最高だと思っています。素朴な回答ですみません(笑)。

阿部
作家さんがものづくりをするうえで、つくるべきものをつくる時間とつくりたいものをつくる時間とのバランスをうまくとれるような手助けもminneでやっていけたらいいですね。それでは最後に、コンテストへの応募を迷われている作家さんに向けて、メッセージをお願いします。

trikotri
やっぱり自分の好きなことを、すごくつくりたいものをつくるのがいいと思います。ハンドメイドって、みんな何らかの環境だったり出会いだったりをきっかけに好きになるわけで。最初は好きという理由だけでいい、ただ好きなものをつくる場所だったはずなんです。そのときの気持ちを思い出せたらいいですね。まったく役には立たないけれど、つくりたくてつくってしまった、とか(笑)。



trikotriさんがつくりたくてつくってしまったものたちの一例。遊びごころのあるふわふわの食べ物シリーズです。

trikotri
とにかく一歩踏み出して挑戦してみることが大切かなと思います。やれることはやった、思いきりたのしめた、ということ自体が確実に次につながる糧や自信になると思うので、せっかくならば、という気持ちで応募されてみてはどうかなと思います。

阿部
minneとしても、みなさまに気軽に応募していただけたらと思っています。ただ、過去の受賞作品を振り返ると、作品は自由な発想であっても、そこにこめた想いや魅力を作家さん自身がちゃんと伝えるということが、次のステップに進んでいくにあたっては大切なのかなと思いますね。これから、ハンドメイドアワードは10年、20年と続けていく中で、賞の大きさや重みも増しながら、作家さんの次のステップをつくることだけでなく、そのあとの支援も一緒にやっていけるものにしていきたいと思います。trikotriさんも機会があればぜひまたご参加ください。今日はありがとうございました。

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「minneハンドメイドアワード2018」エントリー作品募集中!



作家さんの発掘・支援を目的に開始した「minneハンドメイド大賞」。4回目の開催を迎える今回より、コンテスト名を新たに「minneハンドメイドアワード」として生まれ変わりました。みなさまからのたくさんのご応募、お待ちしています。

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取材・文 / 西巻香織    撮影 / 中村瑛美里

【連載】わたしのHANDMADE AWARD
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