pottery neg.
「好き」と「心地よさ」を大切に、猫をモチーフにした作品や暮らしに馴染む器を手がける陶芸家。手にする人がふと笑顔になるような、温もりあふれる陶器をひとつひとつ生み出しています。
https://minne.com/@pottery-neg
「普段はもっと散らかっているんですよ」と笑いながら迎えてくださったpottery neg.さん。工房には、制作途中の作品や道具、そして釉薬のテストピースなどが並び、手仕事の息づかいが感じられます。
ハムスターの小さな家が、再び創作へと導いてくれた

まず、作家活動を始められたきっかけを教えていただけますか?
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活動を始めた直接のきっかけは、飼っていたハムスターのためにハウスや餌皿をつくって、それをminneさんで販売し始めたことです。
美術系の学校で陶芸を学び、焼き物に関わるお仕事をされていたというpottery neg.さん。しかし、以前のお仕事を辞めてからは、しばらくものを作る気力が湧かない時期があったといいます。
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工房は借りていたんですが、何も作る気力がなくて。時間はたくさんあるのに、どこかものを作るのが怖かったんです。そんな時にハムスターを飼い始めて、その子のために必要に迫られてハウスや餌皿を作ったことが、ものづくりを再開する大きなきっかけになりました。

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実は、minneで最初に購入してくださった方が、そのハムスターの餌皿を買ってくださったんです。そのあと、同じ方がハウスも購入してくれて、使っている写真を送ってくださいました。それが本当に嬉しかったですね。

美術系の学校で「陶芸」を選ばれた決め手は何だったのでしょうか?
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親がデザイン事務所をやっていた影響で、小さい頃から工作や絵を描くのが好きで、漠然とデザインの仕事に憧れて美術系の高校に進みました。でも、当時はデザインの実態がよく掴めなくて。学校では日本画や油絵、漆などさまざまな分野を体験するのですが、陶芸をやった時に、自分の手で土をこねて形つくっていくという作業がすごくおもしろくて、わかりやすかったんです。手を動かしてものができていくことに、とてもしっくりきました。
市場調査をしてデザインを決めるのではなく、感覚的に「こっちのほうがかわいいな」「素敵だな」と思いながら手を動かして形にしていくほうが、ご自身の性に合っているとpottery neg.さんは語ります。
「たたら作り」と石膏型のハーモニー
pottery neg.さんの作品の多くは、「たたら作り」という技法と、ご自身で制作した石膏型を組み合わせて生み出されます。「たたら作り」とは、粘土を板状にスライスし、それを貼り合わせたり型に押し付けたりして形を作る技法です。

取材当日、pottery neg.さんは猫型の作品を制作する様子を見せてくださいました。まず、粘土で紐を作り、石膏型に押し込み、作品の底面部分を制作。そのあと、別に用意した板状の粘土を型に沿わせるように被せ、先に作った底面パーツと接着していきます。

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この作品の場合、平面の板を型に押し込んでいくのですが、全体を一度に作ろうとすると形が崩れやすいんですね。なので、パーツごとにつくってあとから接着しています。

石膏型も、もちろんpottery neg.さんのオリジナル。原型を土で作り、それをもとに石膏を流し込んで制作します。

複雑な形の場合は、型が綺麗に抜けるように3つのパーツに分割するなど、細やかな工夫が凝らされています。猫の作品の耳のように、型だけでは表現がむずかしい繊細な部分は、別に作ったパーツをあとから丁寧に取り付けていくそうです。


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石膏型は大事にしたいという気持ちがあります。また型を一から作る作業は中々たいへんなので…。分割の仕方を考えるのがむずかしくて、原型に粘土で壁を立てて、一面ずつ型を取っていくんです。
以前、焼き物制作に携わっていた頃はろくろを使った作業も経験されましたが、個人で制作するには手首への負担や、削りカス(削り取った粘土)の処理がたいへんだったそう。「たたら作り」と石膏型を用いる現在の方法は、粘土の無駄が出にくく、ご自身のペースで少量多品種の作品を制作するのに適していると話します。

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泥漿(でいしょう:泥状の粘土)を型に流し込む鋳込み(いこみ)という技法もありますが、管理がすごくたいへんで。今のやり方だと、使う分だけの粘土で制作できるので、無駄が出にくいのが嬉しいですね。粘土の切れ端も、やわらかいうちに練り直してまた使えますし。

「くっついてください」と祈るような気持ちでパーツを接着し、すこし時間を置いてから型からそっと取り出す。その瞬間、可愛らしい猫の形が現れると、思わず「やったー!」という気持ちになると笑顔で語ってくださいました。

猫への愛と遊び心が生み出す、ユニークな作品たち
pottery neg.さんの作品は猫モチーフが多いですが、猫の魅力とは?
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もう、とにかくかわいくて。何をしてもかわいいんです。変な仕草も全部好き(笑)。子どもの頃から猫が好きで、見ているだけで発想が膨らむんです。

猫の何気ない仕草からインスピレーションを受けることも多いそう。
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猫が威嚇する時に見せる「やんのかステップ」って知っていますか?急に横っ飛びするようなポーズなんですけど、それがすごくかわいくて。お皿にこの形がデザインされていたらおもしろいかな、と思って作ったものもあります。あとは、猫がびよーんと伸びをする姿から、持ち手が長ーく伸びた猫のスプーンを思いついたり。

とくに思い入れのある「猫の香炉」について、もうすこし詳しくお聞かせください。
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この香炉は、活動を始めた初期からつくっていて思い入れがあります。実は、ハムスターハウスを作った時の型の上部分を再利用しているんです。ちょうどその頃、実家の猫も亡くしてしまって。その子のことを考えながら、猫の香炉を作れないかなと思いついたのが始まりです。

ユニークなのは、猫の耳からお香の煙がゆらゆらと立ちのぼるデザイン。
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ドイツのお土産で、口から煙を吐く木の人形があるのを知って、それを猫でやりたかったんです。でも、作っていくうちに口より耳から煙が出る方がしっくりきたので、耳から出すことにしました。

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煙を出すための構造には苦心しましたね。単純に穴を開ければ煙が出るわけではなくて、空気を取り込む穴も必要なんです。足と手の間をくり抜いたり、粘土の厚みを調整したりして、ようやくうまく煙が出るようになりました。
猫と台座、そしてお香立てが「うまくはまって作品として完成している感じがする」と語るpottery neg.さん。その言葉からは、試行錯誤を重ねてたどり着いた形への愛情が伝わってきます。
新作はお香立てから生まれた一輪挿し
pottery neg.さんの手から生まれる作品は、時に遊び心あふれるアイデアから新しい表情を見せてくれます。そのひとつが、人気の「ネコ香立」の新しい仲間。これまでお香立てとしてだけではなく、背中のくぼみにドライフラワーなどを飾って楽しまれていたこのモチーフが、水と一緒に生けられる一輪挿しとして登場しました。

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石膏型を使って制作しているので、まったく新しい形の新作を次々と生み出すのは、なかなかむずかしい面もあるんです。なので、今ある型を活かしながら、何か新しいバリエーションがつくれないかな、と考えることがよくあります。香箱座りのネコも、ドライフラワーだけでなく、実際に水が入れられるようになったら、もっと暮らしの中で楽しんでいただけるのではないかと思ったんです。
その想いから、形はそのままに、水を入れて季節の草花を生けられるように改良を重ねたとのこと。

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お香を焚いて香りを楽しむ時間に加えて、小さなお花をそっと飾ることで、また違った癒やしを感じていただけたら嬉しいですね。

お馴染みの愛らしい姿はそのままに、新しい役割を得て暮らしに彩りを添えるpottery neg.さんの作品。使う人の日々に優しく寄り添いながら、ささやかな喜びを届けてくれます。
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「気持ちを楽に」ものと向き合う時間
作り手として大切にされていることは何ですか?
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気持ちを楽にして作ることです。私は結構思い詰めるタイプで、ペースもゆっくりなんです。学校でも周りがいろいろなことを進めている中で、自分だけ同じことをずっとやっていたり。納得しないと次に進めないところがあって。だからこそ、あまり考えすぎずに、気を楽にして作ることを心がけています。

「手仕事自体が好き」とのことですが、陶芸の工程の中でとくに好きな瞬間は?
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型から作品をパカッと外す時ですね。形になっているのを見ると「やったー!」って思います(笑)。陶芸は焼くまでどうなるかわからないし、最後の最後でダメになることもあるので、その瞬間は格別です。

窯出しの瞬間は、「なかなか楽しみな気持ちだけで窯出しを迎えられることは少ないです。心配性なのでどちらかというと失敗していたら…という不安の方が大きいですね」と本音を漏らすpottery neg.さん。月に1〜2回行うという窯焚きは、釉薬のかけ方ひとつで仕上がりが大きく変わる繊細な作業。そのプレッシャーと向き合いながら、ひとつひとつの作品を生み出しています。


minneがくれた、作品と向き合うきっかけ
minneを始められたきっかけは何だったのでしょうか?
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作家登録する何年も前から、minneさんが運営している「minne LAB」の動画や記事をずっと見ていたんです。以前、焼き物制作に携わっていた時も、手探り状態だったので、minne LABはすごく勉強になって。ネット販売を始めるならminneさんで、と思っていました。

minneでの作家活動で、とくに印象にのこっていることはありますか?
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お客様がメッセージやレビューをくださることが本当に励みになっています。ひとりで活動しているので、反応をいただけると「ちゃんと届いたんだな」「喜んでもらえたんだな」と安心しますし、すごく嬉しいです。あとは、以前「minneとものづくりと」で猫の香炉を紹介していただいたことがあるのですが、自分では見慣れた作品が記事を通して新鮮で素敵なものに感じられて、とても勉強になりましたし、たくさんの方に見ていただけるきっかけをいただけて感激しました。
イベントでの販売とネット販売の違いについて尋ねると、「イベントは実物を見てもらえるけれど、minneは写真や文章で魅力を伝えなければいけない分、作品と深く向き合う時間が増える。その向き合わされる時間が、とても良い機会になっている」と話してくださいました。
これからも、手仕事を続けていくために

今後の作家活動で、挑戦したいことや目標はありますか?
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今年はもっとイベントに参加していきたいです。あとは、既存の作品もすこしずつ改良したり、新しい作品もつくっていけたらいいなと思っています。風鈴も作ったのですが、音の調整がむずかしくて去年は季節を逃してしまったので、今年こそは、と。
作品を通して実現したいことは何でしょうか?
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まずは、この手仕事を続けられたらありがたいなと思っています。それ以上のことは、活動を続けていく中でゆっくり見つけていけたらいいですね。

現在も制作の傍ら、焼き物に関する学びを日々深めているというpottery neg.さん。そこで得た知識や技術が、ご自身の作品にも新たなひらめきをあたえてくれているそうです。
リフレッシュ方法は、「甘いものを食べること」。とくに雪見だいふくがお気に入りで、制作の合間や窯出し前のモヤモヤした気持ちをリセットするためにも食べるのだとか。家でのんびり漫画を読む時間も大切にされています。

イベントへの参加も増え、作品もすこしずつ改良を重ねていく中で、ますますpottery neg.さんの世界が広がっていきそうですね。
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そうですね。今、窯に入っている器も、以前minneの特集で選んでいただいたものをすこし改良しているんです。選んでいただけて嬉しかったので迷いましたが、自分なりにもっとしっくりくる形にしていきたいな、と。
温かいお人柄と、作品への真摯な想いがたくさん伝わってきました。これからのご活躍も楽しみにしています!本日はありがとうございました。
pottery
neg.
こちらこそ、ありがとうございました。
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取材・執筆・撮影:真田英幸
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