インタビュー

【連載】わたしのHANDMADE AWARD vol.6 〜 FABBRICAさん「ひと針ひと針、叶えていくもの」

刺繍作家・FABBRICAさんのご自宅にお邪魔してきました。手刺繍で仕上げる、あたたかみあふれる作品の数々。お人柄がそのまま現れているような丁寧で美しい針仕事に、いま注目が集まっています。昨年のハンドメイド大賞でゲスト審査員賞を受賞した「手刺繍とアップリケのサイコロ」には、そんなFABBRICAさんにとってたいせつな日の思い出が詰まっていました。

刺繍作家・FABBRICAさんのご自宅にお邪魔してきました。手刺繍で仕上げる、あたたかみあふれる作品の数々。お人柄がそのまま現れているような丁寧で美しい針仕事に、いま注目が集まっています。昨年のハンドメイド大賞でゲスト審査員賞を受賞した「手刺繍とアップリケのサイコロ」には、そんなFABBRICAさんにとってたいせつな日の思い出が詰まっていました。

わたしのHANDMADE AWARD

作家さんの発掘・支援を目的として2015年より開催している「minneハンドメイド大賞」。今年は「minneハンドメイドアワード」と名称を変えて新たに誕生し、8月1日より作品の応募受付を開始しました。応募にあたって、すこしでもみなさんの参考になればー そんな想いで、minne mag.では過去の受賞作家さんにお話をおうかがいすることにしました。連載最終回は、昨年の「minneハンドメイド大賞2017」にてゲスト審査員・篠原ともえ賞に輝いた、FABBRICAさんのアトリエにお邪魔しています。

プロフィール

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FABBRICAさん

布小物を中心に制作。美しい縫製と手刺繍が魅力。「minneハンドメイド大賞2017」では、『篠原ともえ賞』を受賞。


ひとつずつ、かたちに

まだまだ蝉が騒がしい8月末、作家さんのご自宅に向かっていました。実は、この場所を訪れるのは2度目。以前に訪れたのは、雨の降る2月のことでした。


再びお邪魔したのは、刺繍作家・FABBRICAさんのご自宅です。

お忙しいところをありがとうございます。

FABBRICA
とんでもない、うれしくってお待ちしていました。

ついに、FABBRICAさんの「刺繍キット」が完成するんですね。

FABBRICA
そうなんですよ、届いたばかりで。出版社の方といろいろ相談しながらつくってきたので、形になって良かったです。初心者の方にもたのしんでいただきたいなあ、と思っていて。販売がすごくたのしみです。



「minne×テナライ FABBRICAさんの刺繍ブローチ」9月3日より販売中

叶えたいことが、順番に実現していきますね。

FABBRICA
そうですね。2月に取材で来ていただいたときから、ずいぶんいろんなお話がすすみました。去年までの私には考えられない変化が、たくさんあって。おかげさまで忙しくさせていただいているのが、とってもたのしいんです。

もう1度つくりたかったもの

昨年のハンドメイド大賞で、審査員・篠原ともえ賞を受賞されたFABBRICAさん。以降はメディアの取材や、キットの制作がすすみ、現在はテレビの出演も控えています。

授賞式のときは、壇上のFABBRICAさんをステージ下から見上げていました。お話されていた内容が、とても印象的で。

FABBRICA
ほんとうですか? 人前で話すのが苦手なので、もう頭がまっ白で。うまく伝わったかどうか…。

素敵でした。高校生になる息子さんの小さいころを思い出しながらつくられた、と。隣で針仕事をのぞきこんでいたお子さんを思い出しながら、ひと針ひと針つくった作品だとお話しされていて、うかがっていて胸がいっぱいになったのを覚えています。

FABBRICA
ああ、そうですね。息子が小さいころにつくったものを、もう一度つくってみたかったんですよね。その作品で賞をいただけて、本当にうれしかったです。思い出深いものだったので。

もう1度つくられたのは、どんな想いからだったのでしょう?

FABBRICA
お子さま向けの作品もたくさんつくっているんですけど、お客さまから「子どもが、とってもよろこんで使っています」なんてメッセージをいただくと、小さいお子さんいいなあ、かわいいなあ、といつも思っていて。小さいころ、隣でわたしの針仕事をうれしそうに見てくれていた息子のことを思い出してました。今はもう息子も大きくなってしまって、なかなか昔のように「たくさんお喋り」することはなくなってしまったんですが。男の子なんで仕方ないですよね(笑)。

お母さんの想いとしては、すこしさみしいかもしれませんね。そんな息子さんの小さいころを思い出しながら、当時の作品をもう1度つくられたんですね。

FABBRICA
そうですね。1歳の誕生日につくったサイコロで、すごくよろんで遊んでくれていたんですよ。転がすと、リンリン鈴が鳴るのもたのしかったんでしょうね。息子のおともだちもよろこんで遊んでくれていました。「あの作品は、みんなをたのしませることができたなあ」「たくさんよろこんでもらえたなあ」ということを思い出して。それで挑戦したくなったんです。

アップリケと刺繍で仕上げられたどうぶつのモチーフも、ひとつひとつ本当にかわいくて。あれは、お子さんのお好きだったどうぶつたちですか?

FABBRICA
そうですね。子どもに「なにがいい?」「なにが好き?」ってたずねながら、どうぶつを決めていきましたね。応募した作品は6面がすべてどうぶつだったんですけど、当時の作品のどうぶつは5面だったんですよ。

残りの1面はどうなっていたんですか?

FABBRICA
子どもの名前を、刺繍で入れていたんです。

愛情たっぷりの手づくりおもちゃ。FABBRICAさんはなつかしい日のお話を、ゆっくりとすこし照れるようにおしえてくれました。

一流のものに触れること

あたたかな色づかいと、愛らしい刺繍のモチーフたち。

そして、手にすると惚れ惚れとしてしまうような縫製の美しさも、FABBRICAさんの作品の魅力です。

「ものづくりとの出会い」はおぼえていますか?

FABBRICA
ずいぶんと昔になっちゃいますね(笑)。物心がついたときには、ミシンを踏んでいたような感じだったんです。母が、家で洋裁教室をしたり仕立て屋としてオーダーを受けていたりしたので、「ものづくり」が身近にあったんでしょうね。最初は、おもちゃのミシンを買ってもらってはじめたんじゃないかな。幼稚園生ぐらいのときには、ロックミシンを触っていましたね。

それはすごいですね(笑)。お母さまに教わりながら、いろいろつくられてたんですか?

FABBRICA
実は、あまり教わった記憶はなくて。近くで見ていて、「こうやるもんなんだなあ」って。たのしくてずっと眺めていました。

息子さんとおなじ。

FABBRICA
本当ですね(笑)。なにかをつくって完成させていく様子って、とってもおもしろかったんですよ。近くで眺めて、人形の洋服からつくりはじめてた感じだと思うんです。

見て覚えた技術なんですね。そのころの「将来の夢」っておぼえていますか?

FABBRICA
「デザイナー」になりたかったですね。洋服屋さんか、デザイナーしかない!と思っていました。その夢は、それからもずっと続きましたね。学校の作文にもそう書いてありましたから。

「アパレルデザイン科」にすすみ、卒業後はアパレルメーカーのデザイナーとしてお仕事をされていたFABBRICAさん。

メーカーでお仕事されていたときと、現在のものづくりは、まったくちがうものですか?

FABBRICA
ぜんぜんちがうかなあ。やっぱり、「大勢のひとに買っていただけるものを」というのが大前提にありますから、市場で必要とされてるものや求められているものをつくるんです。たくさんつくって、たくさん売る。「自分のつくりたいもの」というのは横に置いておかなければいけなくて。反動で、わたし自身は会社のものは着ずに、好きな洋服ばかり自由に着ていましたね(笑)。ちょっと抵抗のような気持ちもあったのかな。でも、品質は本当に大切にされていたし、尊敬できる先輩も沢山いらして、学ぶことも多かったです。

そこから、コレクションブランドのデザイナーさんに転身された。

FABBRICA
社内で配属されたブランドで、はじめて外部のデザイナーさんとコラボする機会があって。お相手が永澤陽一さんだったんですが、そのときに、これまでの仕事とコレクションブランドのデザイナーの仕事のちがいをはじめて目の当たりにして。つくりたいもの、表現したいものをつくる。わたしは、きっとこっちのほうが合ってるんだろうなあと改めて気づいて、転職を考えたんですよね。

新たな道にすすまれたんですね。

FABBRICA
デザイナーの丸山敬太さんのところで、アシスタントデザイナーをすることになりました。ずっと好きだったんです、丸山さんの洋服が。

そんな丸山さんとお仕事できるのは、すごいことですよね。

FABBRICA
そうなんです、本当にうれしかった。それまでの仕事と勝手がちがうことも多かったですし、なによりとっても忙しくて。悔しい思いもたくさんしましたけど、憧れの服に毎日囲まれて、いいものを近くで見られる幸せは本当に大きかったですね。生で見るコレクションは、もう感動でいっぱい。

幼いころから続けてきたものづくり。ひとつずつ大きな夢を叶え、一流のものに触れられる環境で身につけてこられた、たしかな技術力が、いまのFABBRICAさんの作品をつくっています。

10年間の想い

お子さんが生まれ、息子さんのためのものづくりをするように。

FABBRICA
5歳ぐらいまでは、わたしがつくった洋服を着せていましたね。おもちゃも洋服もたくさんつくりました。たのしかったですね。

デザイナーとして、企業で復帰されることも考えていたというFABBRICAさん。しかし、その想いは叶いませんでした。

FABBRICA
働きに出たい気持ちはあったんですが、実は闘病生活がはじまってしまったんです。最初におかしいなと思ったのが10年ぐらい前でした。

FABBRICA
いろんな病院行ったんですが、原因がわからず。5年前にようやく治療をはじめられたんですが、実はその間にどんどん悪化してしまっていて。そのあとに出会えた先生に診ていただいて、3度の手術をして、ようやく今みたいに元気に戻れました。

FABBRICA
小さい子どもをひとりにするのも心配でしたし、ずっと続けてきたものづくりもかなわず。何もできずにいた時間が、本当に長かった。だから、今はやれることは全部やりたくて。

長い間、お辛かったですね。お元気になられてよかったです、本当によかった。

FABBRICA
今はすっかり良くなって。去年のハンドメイド大賞も、これから頑張ろうっていう気持ちがあって。なにか変わるきっかけがあったらいいなと思って応募してみたんです。挑戦してよかった。

「いつもとちがう」挑戦

「変わるためのきっかけ」にしていただけたこと、とっても光栄です。

FABBRICA
実はその前の年も応募していたんですけど、普段からつくっているブローチをそのまま出していたんです。なので「今年はやろう」「サイコロを出そう」って決めて、つくって、写真を撮影して。

撮影は苦労されましたか?

FABBRICA
すごいいっぱい撮っちゃいました(笑)。いつもの古いカメラで、何度も何度も。木の板に乗せて撮ったり、でもなんだかちがうなあ、って納得できずに、1日中撮ってましたね。息子に「これとこれ、どっちがいいと思う?」なんてひさしぶりに聞いてみたら、「こっちがいいんじゃない?」って答えてくれたりして。

応援してくださってたんですね。

FABBRICA
そうですね。だから、一次審査の通過は本当にうれしくて。よかったあ、って。目に留めてもらえたんだっていうことが、すごいうれしかったです。文章やネーミングのセンスにあまり自信ないので、応募するにも本当に緊張して。あとから何度も「タイトルつまんなかったかなあ」なんて考えたりもしていたので、驚きました。ただ、それに出すことで、「いつもとちがうことに挑戦してる」って。そういう気分を味わうのが、すごくたのしかったんです。

授賞式の会場はいかがでしたか?

FABBRICA
当日、バスに乗る時すごいドキドキしました。ああ、これから行くんだなと思って。スタッフの方の多さや、ライトのキラキラもびっくりして。いろんな作家さんともお話しできて、夢のような1日でした。昔、デザイナーの仕事をしていたときは展示会とかも多かったですが、あんな華やかな場所に行くのも久々だったので。

大きな変化とこれから

2018年、今年はお忙しい日々がつづいてますよね。たくさんの新しい挑戦をされました。

FABBRICA
本当ですね。取材いただいたり、キットが出たり、テレビのお話があったり。「minneのハンドメイドマーケット」にもはじめて出展して、たのしかったです。

FABBRICA
大人になって、この年齢から、こんなに自分に変化があるなんて、思ってもいませんでした。元気になって、挑戦できてよかったです。ずっと働けずにいる期間、学校も出してもらって、せっかく手に職をつけたのに、両親に対しても「申し訳ない」って気持ちが大きくて。ぜんぜん活かせずに、心配しかかけてないのが辛かった。いまはそれができていて、報告できることもある。喜んでくれているので、うれしいです。

すごく親孝行だと思います。

FABBRICA
そうだといいんですけど。もっとしないといけませんね。

ひと針ひと針、これまでもたくさんの夢を叶えてこられましたが、さらに挑戦されたいことはありますか?

FABBRICA
目の前のことだと、今はワンポイントの刺繍が多いんですが、総柄みたいなデザインにも挑戦したいですね。冬に向けて華やかなものがいいかな。minneでたくさん作品を出したいですね。作品を梱包してお手紙を書いて発送するのも大好きな作業で。直接やり取りさせていただけるのが、すごくうれしいんです。もうひとつは、叶うかわからないけど、やりたいことがあって。

どんなことでしょう?

FABBRICA
だれかにおしえることも好きなんですが、わたし大勢のひとの前で話すのはやっぱり苦手なんです(笑)。なので、幼稚園のお子さんを持っているようなお母さんがつくれるような、初心者でもかんたんにできるカバンのつくり方とか、袋物のコツとか。それに加えてちょっとした刺繍とか。そんな凝ったものではないけれど、わたしがこれまでいろいろ試してきてお伝えできるようなことがあればいいなって。そういう本をつくれたらいいなと思ってるんですけど。

きっとやりましょう。やりたいですね。

FABBRICA
ありがとうございます。お子さんってお母さんがなにかつくってる姿、きっと好きだと思うんです。みなさんにそういう体験をしてもらえるといいなあって。そういうことがしたいですね。おばあちゃんになったとき、後悔ばっかりだと嫌だから。やれることをいろいろ、やっていきたいですね。がんばりたいです。



「新作です」とエプロンを着て見せてくださいました。

丁寧に、ひと針ひと針。

「ものづくり」への想いを、いつも笑顔で、とてもたいせつそうにお話してくださるFABBRICAさん。こちらまで自然と笑みがこぼれうれしくなってしまいます。

いちばんのこだわりは何ですか?

FABBRICA
とにかく丁寧に、ですね。ひと針ひと針。これは変わらないと思います。わたし自身、なにかを買うとき、とっても悩むんです。それは永く使いたいから。1回買ったら、ずっとそれを大事に使う。自分がつくったものもそんなふうに使っていただけるとうれしいなって。そのひとの生活の一部にしていただけるものをつくりたいから。そういう気持ちで丁寧に取り組んでますね。

最後に、今回の応募を考えられてる方にメッセージをお願いできますか。

FABBRICA
たくさんの方に見ていただけたり、その中ですこしでも目に留めてもらえる、選んでもらえる喜びって、なかなか味わえないものなのだと思うので、挑戦するだけでも、きっとすごく価値がありますよね。わたしは挑戦して、本当によかったです。毎日が変わりましたから。

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「minneハンドメイドアワード2018」エントリー作品募集中!



作家さんの発掘・支援を目的に開始した「minneハンドメイド大賞」。4回目の開催を迎える今回より、コンテスト名を新たに「minneハンドメイドアワード」として生まれ変わりました。みなさまからのたくさんのご応募、お待ちしています。

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取材・文 / 中前 結花  撮影 / 真田 英幸

【連載】わたしのHANDMADE AWARD
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