インタビュー

靴職人cookliroliroさん「日常をちょっとだけ特別に演出する靴を」

気取らず、日常にとけこむような革靴、革小物を制作されているcookliroliroさん。minneハンドメイドアワードでは2年連続で最終ノミネート入りを果たしている注目の作家さんです。普段どんな想いでものづくりをされているのか、ユニークなアイデアが生まれる瞬間とは。たっぷりお話をうかがってきました。


靴職人の道を選んだ理由

東京は下町の閑静な住宅街に構えられたcookliroliroさんのアトリエ。中にお邪魔すると、1階の工房には、靴をつくるための見慣れない道具や機械がずらりと並んでいました。

「まずは2階へどうぞ」とcookliroliroさん。1階とはうってかわって広々とした事務所スペースが広がっていました。

工房も事務所もあって、素敵なアトリエですね。

cookliroliro
ありがとうございます。ここはわたしのおじいちゃんが昔、使っていた場所なんです。金属加工の仕事をしていてオルゴールなどをつくっていたそうで。

事務所のショーケースには色とりどりのオルゴールがずらりと並んでいました。

cookliroliro
おじいちゃんは裏に住んでいて、今もふらっと遊びにきて差し入れをくれます。あとは金魚にえさをあげたり、他愛のない話をしたり。お互いに職人という共通点はあるけれど、制作に関しては何もいわない。ここは静かで居心地もいいし、没頭して制作できる場所ですね。

靴をつくろうと思われたきっかけは?

cookliroliro
子どもの頃から「つくる」ことが好きで、手先の器用さには自信がありました。刺繍や編みものなど、つねに手を動かしていないと落ち着かない「ものづくり依存症」みたいな感じで。あと、ずっとファッションも好きだったので、進路を決めるときは服飾系に進もうと考えていたんですが、服のつくり方ってなんとなく想像がついてしまって。靴はどうやってカタチになっていくのかまったく想像がつかなかったので、靴をつくる専門学校に進学しました。靴職人ってなんかジブリっぽい感じもするし、いいなって(笑)。

靴の専門学校で、靴づくりに関するひと通りの技術を習得したというcookliroliroさん。卒業制作としてつくられた革靴を見せていただきました。「雨」を表現したというその作品は繊細かつ大胆な刺繍で彩られ、存在感抜群。刺繍だけで1週間、完成までは1ヶ月かかったそうです。


卒業後はどうされたんですか。

cookliroliro
婦人靴のメーカーにつとめて、靴のサンプルづくりをしていました。実際に靴をつくりはじめたら、ジブリとはほど遠い「職人」の世界でしたけど(笑)。デザインを指定された靴をつくり続けているうちに、自分がつくりたい靴をカタチにしたいという気持ちがふつふつと湧いてきて。2年つとめた会社から独立したんです。

自分のスタイルを追求

cookliroliro
独立後は、靴を売って生活したかったのですが、革靴は…高いし、なかなか売れなくて。それならまずは小物を売ろうと思って、minneで革小物を売りはじめました。

minneで人気の「えんぴつぼうし」シリーズ。本革でつくられたどうぶつのモチーフの鉛筆キャップに愛らしい刺繍がほどこされています。


cookliroliroさんの誕生、ですね。お名前の由来についても知りたいです。

cookliroliro
「くっくりろりろ」と読みます。くっくは靴のこと、りろりろは、子どものころに自分の中でブームになっていた言葉です。母から聞いたのですが、あらゆる語尾に「りろりろ」という言葉をつけていた時期があったそうで(笑)。つなげてみたらなんか不思議でいい響きだなって。小文字で書いたときの並びもかわいかったので、これでいこう!と思いました。由来を話すのはちょっと恥ずかしいですね。

革に刺繍、というのがcookliroliroさんのスタイルですね。

cookliroliro
趣味の刺繍と、本職の靴づくりを組み合わせてみました。でもまだ自分の中ではスタイルが定まっているわけではなくて。やってみたいけど実現できていないことはたくさんあります。ただ、つねにいろんなデザインに挑戦する、ということは心がけていますね。最近minneに出品させていただいたブックカバーは、普段“ぎっしり”と刺繍してしまいたくなる自分が、どれだけ“抜け感”を出せるか、に挑んだ作品です。

革への刺繍は、先に刺繍をイメージして穴を開けてから、手で縫っていくのだそう。「塗り絵のように刺繍を埋めていく作業が大好きなんです」とcookliroliroさん。

新しいデザインへの挑戦と根気のいる作業を経て生まれたブックカバーは再販を繰り返す人気作品に。見ていてたのしいカラフルな色味や、思わず触れたくなるさまざまな種類の刺繍糸、さらにはランダムなデザイン、と遊びごころがあふれています。


デザインのアイデアはどんなときに生まれるんですか?
cookliroliro
minneのコンテストや作家さんの新商品があつまる新作デーなど、目的があって制作をする際に生まれることが多いです。自分が好きなデザインだけではなく、求められるデザインとのバランスが大切。お客さまに人気のある色味を参考にしたり、自分がやってみたかった刺繍のパターンを落とし込んだり、と手を動かすうちに、新しいアイデアが生まれます。

アイデアと確かな技術力で、minneハンドメイドアワードでは2年連続で最終ノミネート作品に選ばれています。

minneハンドメイド大賞2017の最終ノミネート作品「くまちゃん靴」。見た目のかわいさだけでなく、子どもの肌にやさしい素材選びや着脱のしやすさなどこだわりがつまっています。

cookliroliro
コンテストには本業の靴で出品しています。昨年は子ども用の靴を、今年は女性に向けてメリージェーンをつくりました。期限がある中で、アイデアを突きつめて、これだ!と思ったデザイン、やりたい刺繍をカタチにできてとてもたのしい制作でしたね。わたしは没頭してつくり続けることがやっぱり好きなんだなと、あらためて思いました。

ひとつひとつの工程を「手」で

ここで、1階の工房へ移動し、実際の靴づくりの様子をすこし見せていただくことに。立ち並ぶ年季のはいった機械は、知り合いの職人さんや修理屋さんなどから譲り受けたものだそう。

工房では、同じく靴職人の彼氏、小林晃太さんと共同制作をされているそうです。cookliroliroさんの定位置は向かって左側。小林さんはご自身でたちあげた「When」というブランドで、フルオーダーの紳士靴を制作されています。


ひとつの靴が完成するまでに、どのくらい工程があるんですか?

cookliroliro
デザインからパターンをとり、靴の上の部分をつくり、それを立体にして底付けをすれば完成ですが、制作工程の中には革選びから裁断や縫製に加えて、叩く、磨くなどもあるので、数え方によって本当にさまざまで、200の工程があるともいわれています。機械や道具を使いながらもすべてが手作業。ひたすら手を動かしてつくることが好きな自分にとっては、つくりがいがあってたのしいですね。

使うほどに増す革靴の魅力

靴づくりに適した革は、厚みや硬さ、伸び具合、経年変化をたのしめるのかどうかで決まるそう。一枚革の中でも、革靴に適する、使える部分は限られた一部のみ。


機械だけでなく、手作業のための道具もたくさん。微妙にサイズやカーブが異なるので、靴のシルエットやサイズに合わせて使い分けるそう。



厳選された革を使い、手間暇をかけてつくられる本革の靴は当然、価格が高くなり、日常使いの一足にはなかなか選ばれにくいもの。でもそこを変えたいのだとcookliroliroさんはいいます。

cookliroliro
男性はスーツスタイルに革靴を合わせる方も多いかと思いますが、女性はというと、どうしてもフォーマルだったり、特別な日のものとしてとらえがちなんですよね。わたしは日常にプラスできるアイテムとして、本革の靴を提案していけたらいいなと思っています。あまりカチッとしすぎていなかったり、刺繍を入れてかわいくしてみたり。

ご自身で制作されたという革靴は、デイリーに使えそうなシンプルデザイン。黒の革に黒い糸で刺繍がほどこされています。

cookliroliro
本革の靴は、メンテナンスこそ必要ですが、靴底が本革だと通気性は抜群ですし、履くほどにツヤ感が増して経年変化をたのしむことができます。ぜひたくさんの方に履いてみて、この魅力を体感してほしいです。

作品を通して伝えたいことはありますか?

cookliroliro
わたしの革靴、革小物を日常に取り入れることで、いつもよりちょっとだけ特別な気分になってもらえたらいいですね。お気に入りの服や靴を履いていると「今日はお花を買っちゃおうかな」とか、うきうきした気持ちになりませんか。みなさんにそんな豊かな気分になってもらえたらうれしいです。

最後に今後の夢をおしえてください。

cookliroliro
靴はその場で履いてみて、サイズ感や印象を確かめたいという方が多いと思うので、いつかはcookliroliroとして靴の路面店を出したいですね。彼氏の靴のお店の端っことかでいいので。そのためにも今は新しいデザインに挑戦し続けていきたいです。

cookliroliro
革靴職人として活動。minneでは手刺繍をほどこした革小物を中心に販売。
https://minne.com/@cookliroliro
取材・文 / 西巻香織    撮影 / 真田英幸

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