目を惹く真っ白な壁が目印
板橋駅から徒歩2分。小さな白い四角い外観の建物が今回の目的地。骨董カフェ「kiki:器々」です。
白い扉を開けて、中へ入ると、店内は想像以上に広々とした空間に。シンプルな白い壁をベースに、味わいのある家具が並び、全体的に落ち着いた雰囲気がただよっていました。
来年の5月15日で10年目を迎えるという、こちらのカフェは女店主の北原香里さんがおひとりで切り盛りされています。北原さんは元国語教師。勤務先がアート系を専門に学ぶ高校だったことから、自身も美術展巡りや骨董の勉強などをしていくうちに、どんどん器の魅力に引き込まれていったそうです。
「骨董屋さんや陶器市で集めたお気に入りの器を使って、自分のお店を開いてみたい」と思うようになった北原さん。元来のカフェ好きとあいまって、教師を辞め、カフェをオープンすることに。器ありきのお店ということで、店名は「kiki:器々(きき)」に決定しました。
心地いい空間をプロデュース
「カフェ店主の仕事はトータルプロデュースのようなものだと思っています」と北原さん。人気インテリアデザイナーのchiku_niさんが手がけた内装を彩るものはすべて、北原さんの好きなもの、好きな人からいただいたもの、好きな色、好きな音楽で統一されています。自分の世界観を大切にしたいからこそ、ひとりでの運営を続けているそう。ちなみに、店内にゆるやかに流れる音楽は「Spangle Call Lilli Line」でした。
家具はすべてアンティークのもの。昔、学校で使用されていたというテーブルには懐かしさを感じさせる落書きが。
「外を歩く人と目があわないように」と窓を低めの位置につけたり、「席によって違った印象や座り心地をたのしめるように」とバリエーションのあるイスを並べるなど、お客さまへの気づかいもたくさん感じられました。
北原さんの器選び
さて、そんなこだわりたっぷりの器々ではどんな器に出会えるのでしょうか。北原さんがみずから足を運び、収集したという器コレクションの一部を見せていただきました。
アンティークもの、現代もの、西洋風、東洋風…と、種類は実にさまざま。お料理を提供する際はすべてミックスして使うそうです。「オーダーされるお料理に合わせたり、お客さまの着ている洋服の色やテイストに合わせて、器もコーディネートしています」と北原さん。
器選びのポイントは「表情があるかどうか」だといいます。「白いお皿だと、ぴかぴかしてきれいなものよりも、シミがあったり、貫入(亀裂)が入っていたり、その器ならではの表情をもっているもののほうが魅力的。そこにしかない、そこでしか手に入らないものに惹かれます」。
さて、そろそろお腹もすいてきた頃合い。温かみのある手づくりのメニュー表から人気の逸品をオーダーすることにしました。
優雅な気持ちで「いただきます」
今回オーダーしたのは、看板メニューでもある「古風なるスコン」です。器は骨董市で手に入れたというアンティークの西洋絵皿でした。絵柄は、淡い色彩で描かれる聖堂を思わせる背景と、そこに訪れたであろう人物たちが浮かびます。なんともストーリー性を想像させる一枚。ボリューミーなスコーンに、クロテッドクリーム、色鮮やかな無花果、洋梨のジャムが品良く映えます。
スコーンを口に入れると、素朴な甘みが広がりました。果肉を感じられる自家製ジャムと、お互いを引き立てているようなとてもいいバランス感。
実はこちらのメニュー、オープン当初はメニューにはなかったそう。ある常連のお客さまが「日本にもスコーンは多いけれど、イギリスの本場のスコーンを出すお店は少ないから、出してみたら?」と本場のレシピを貸してくださり、そこにオリジナルの改良をくわえて、誕生したのだそうです。
スコーンとジャムはお持ち帰り可能なので、手土産にもおすすめです。ちなみに、旬の果物などを使ったジャムは、1年を通して20種類にもなるそう。わたしは自分用に「無花果のジャム」を購入しました。
「よろしければ、こちらもどうぞ」と店主が運んで来てくれたのは今、イチ押しのメニューだという「ゴルゴンゾーラのニューヨークチーズケーキ」。
器は骨董屋さんで手に入れたという、縁のデザインがかわいい白皿です。 ひと口ひと口、たいせつに味わいたくなる雰囲気を演出してくれます。
ケーキのお味はというと、大人な苦みと酸味、クリーミーな甘みの中に、アーモンドとくるみの香ばしさと食感がたのしめる、とても贅沢な味わいでした。
季節に合わせて、イチゴやチャイ、キャラメルなどさまざまな種類のチーズケーキが期間限定で登場してきた器々の歴史の中で、この一見クセの強そうなゴルゴンゾーラのニューヨークチーズケーキが、これまでにないほど大好評なのだそう。定番メニューの仲間入りになりそうな勢いということなので、訪れた際にはぜひチェックしてみてください。
店内にはカフェの本をはじめ、雑誌や漫画もたくさんあるので、おひとりさまでふらっと立ち寄っても、おいしくたのしくのんびりと過ごすことができそうです。カフェ好きのみなさまはもちろん、すべての世代の方におすすめのカフェでした。
次回はどんな素敵な器とごちそうに出会えるのでしょうか。
乞うご期待。
取材・文 / 西巻香織 撮影 / 真田英幸
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