永く付き合えるものを
「制作のうえで、こだわりの道具はありますか?」取材で、そんな質問をよくさせていただきます。その答えは、本当にさまざま。ところが理由をたずねると、返事はとてもよく似ています。
ー ずっとこれを使っているんです。これがないと不安で。
制作活動を見守るように、いつもそばに寄り添ってくれる愛用品。それは、丈夫で永く使うことができる道具だけでなく、「ずっと手に入る」息の長い定番商品も同じこと。「一生の付き合い」ができる道具は、作り手に安心をあたえてくれる存在のようです。連載2回目の今回は、老舗手芸ブランド「クロバー」の誰もが知る「手芸用ボンド」をご紹介します。
誰もが通る、クラフトの「定番」
手芸用品店で必ず出会える、老舗ブランド「クロバー」。その創業は、なんと1925(大正14)年にまで遡り、今年で94年目を迎えます。本社や工場を大阪に構える同社。広報を担当されている田淵さんにお話をうかがってみました。
普段からクリエイターの方とお会いすることが多いのですが、お道具箱のなかを覗かせていただくと、「クロバー」の製品が必ずひとつは入っている気がします。
田淵さん
とてもうれしくありがたいことだと思っています。ボンドをはじめ、お子さまから手芸歴の長い方まで、広くお使いいただける商品も多く取り揃えているので、「みなさまにご愛用いただいている」ということは、とても励みになります。
手芸用品店で拝見すると、新しい商品もたくさん並んでいますよね。
田淵さん
新商品の開発は、常におこなっています。機能性とデザイン性のどちらにもこだわって、既存の手芸ファンの方に向けたもの、これからはじめられる方に向けたもの、さまざまな商品を開発・発売しています。
クロバーでは、課題の解決や「つくりたい」を手助けをしてくれる新商品たちが常に生まれ続けています。
その一方で、この手芸用ボンドの歴史は「43年」とおうかがいしました。
田淵さん
はい、とても長い歴史を持っているんです。
「43年」の歴史のなかで
まさに、「定番」の商品となっていますよね。
田淵さん
そうですね。正式名称は「クロバーボンド 手芸用」というんですが、1976年に発売されて以来、「幅広く使用できる手芸専用接着剤」としてたくさんの方にご愛用いただいているロングセラー商品です。
発売当初の「クロバーボンド 手芸用」。箱のパッケージカラーが現在と異なります。
容器の見た目は、43年間ほとんど変わっていないんですね。
田淵さん
そうなんです。一方で、外箱は色味が違いました、発売当初は、いかに目立たせるかを考えて黄色を使用していたそうなんですが、1983年にクロバーのコーポレートカラーであるグリーンと、清潔感のある白をベースにした現在のパッケージに変更しています。
こうして比較してみるとおもしろいですね。他にも、長い歴史のなかで変わったことはありますか?
田淵さん
「時代」ということもありますが、発売時の価格は150円(現在の希望小売価格は280円)とさらに安価でした。もちろん、粘度の改良や注意表記の追加などもおこなわれています。見た目にはあまり変わっていないこの容器も、実は改良されているんですよ。
それは気づきませんでした、どんな改良でしょうか?
田淵さん
実は発売当初、ご愛用いただいている方々から「最後まで使い切ることができない」というお声をいただいていたんです。乾燥による液詰まりなどが原因だったので、なんとか最後までしっかりと使っていただけるよう改良を重ね、液詰まりを防ぐことができる「オリジナル仕様」の容器にたどりつきました。
たしかに、使用頻度があまり多くないわたしでも、「使いたいとき」に乾燥や詰まりを感じずに使うことができていました。
田淵さん
「使いたいときに使える」ということはとても大事ですよね。改良の成果が出ていて、よかったです。
クロバーさんの工夫と努力が、この小さな小さな通り穴に込められています。
届けたいのは「安心感」
これだけ永く愛用されている、いちばんの理由はなんだと思われますか?
田淵さん
やはり、「安心感」ではないでしょうか。以前に、ベビー服やベビー帽子の縫製をおこなっている業者様から、リボンなどの布飾りの仮止め接着として長年ご愛用いただいていて、その理由は「赤ちゃんが、口にされても手芸ボンドは安全であるから」というお話をうかがいました。
成分に対する「安心」ですね。
田淵さん
そうですね。ほかにも、接着力の強さはもちろんですが、たとえば「乾くと透明になる」「布の色が変わる心配ない」といったところも、やはり「仕上がりに対する安心感」を感じていていただけているんだと思います。
「安心」に信頼を寄せて、たくさんの方が使われる、そしてその使われ続けている長い歴史や人気が、また新たな「安心」につながりますよね。
田淵さん
そんなふうに感じていただけていると、とても幸せなことだと思います。
「入り口」であり「たどりつく先」である
わたしが、このボンドを使用しはじめたのは小学校2年生のときで、とてもよく覚えているんです。小さなお人形の家をつくりはじめたときに、このボンドでコーヒーフレッシュの容器に紙粘土を詰めて「小さな鉢植え」をつくりました。
田淵さん
そんな頃から。ありがとうございます。
そのこともあって、「まずはじめに使うボンド」という印象があります。
田淵さん
お子さんでも手に取りやすい価格や使用感で、まず「ものづくりの入り口」として使用いただくことはとても多いと思いますね。
そして、プロの方にもしっかりと選ばれている、というところがやはり「定番」の強さであり、おもしろいところですね。
田淵さん
そうですね。ちりめん細工の接着に重宝していただいているお客さまや、京都のかんざし屋さんで永くご使用いただいていたりしますので、やはり幅がとても広いですね。
「入り口」としても「たどりつく先」としても、成立する商品というのは、とてもめずらしいと思います。
田淵さん
光栄ですね。これからも、たくさんの作り手の方を支えられる商品として、末長くご提供できればと思います。
今月のプレゼント
クロバーボンド<手芸用>60g
抽選で20名様にプレゼントします。記事の感想を書いて、ぜひご応募ください。
抽選で20名様にプレゼントします。記事の感想を書いて、ぜひご応募ください。
- ・応募締め切り 1月31日(木)23:59
- ・当選は発送をもって代えさせていただきます
取材・文 / 中前 結花 撮影 / 真田 英幸
【連載】今月の道具
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