みんなで使おう
猛暑だった8月のある日。日本の伝統工芸品に特化した動画コマースサイト『CRAFT STORE』を運営するニューワールド株式会社さんから「minneさんへ」と杉の木でつくられたおべんとう箱が届きました。開けるとほのかに薫る、杉の木のいい匂い。
いいなあ。ちょっと、みんなで順番に使ってみませんか?
そんなこんなで、この連載がはじまり、今日で5回目となりました。「あの人のおべんとう」は今回が最終回です。これまで、聞き手・書き手としてみんなのおべんとうを覗いてきた「わたし」である、「minneとものづくりと」編集部の中前が思いを込めて詰めてみました。
さて、どうしよう。
これまでに4回お届けしてきた、連載「あの人のおべんとう」。ついに最終回が訪れ、ついにわたしにお鉢、ではなく、わっぱのおべんとうが回ってきました。
ー さて、どうしよう。
旬の食材を使った「メザシべんとう」や、思い出がたくさん詰まった「牛丼べんとう」。スパムのおむすびや、人参のラぺ… 個性豊かで素敵なおべんとうたちをたくさん見てきました。はたして、わたしにあんな作品をつくることができるでしょうか。
ひとまず、大好きな「厚揚げ」を買ってきましたが、どうしたものか。
いつも通りがいちばんだ。
うんうんと悩んでいても、おべんとうは埋まらないまま。朝の時間は、おどろく早さですすんでいきます。
ー よし。いつも通り、煮ましょう。
お水もお酒もお砂糖も、なにもかも目分量。大したものはつくれないけれど、「あっという間にできる」を大切にした、わたしらしい「ずぼらべんとう」をご紹介することに決めました。
意外な結果
と思って、なんとかこしらえて持ってきたんですけれど。
意外と、ちゃんとできてしまいました。
なんとか間に合いました…
だって本当に最終回ですから。
煮物は忍耐
順に、わっぱに詰めていきます。まずは、味の染みた大根から。
煮物が好きなんです、達成感があるでしょう。
わたし、のんびりしてるくせに気持ちはとっても「せっかち」で。生まれの関西だと「いらち」って言うんですけれど、なかなか待てないの。味が染みていくまで、じっくり面倒を見ることができたら、おいしい煮物が完成するから。
そうなんです(笑)。
たまごを切ったとき、ちゃんと黄身が半熟だとすごくうれしいよね。これも好き。
茹でる前に穴を開けるといいらしくて、最初はあんまり上手くできなかったんですけど、最近は成功率がすごく高くなってきました。
緑色は「えだまめの天ぷら」。夜はお酒をいただくことも多いので「おつまみ」としても、重宝しています。
これはね、買ったものなんです(笑)。最近のお気に入り。ビールにも合うんですよ。
炒め物は中華風。今回は奮発して、好物を「すこし多めに」入れてみました。
大きいエビもいいけど、桜海老も本当に大好き。中華風の炒め物をつくるとき、いつもちょっとだけ、塗(まぶ)すんです。今日は撮ってもらうから、いっぱい入れてきちゃった。
色合いもいいよね。
こだわりの「いつものごはん」
最後に、上の段の仕上げに取りかかります。
いつも冷蔵庫にしまっている、大事なガラス瓶も持参しました。山梨で育った小梅たちです。
まず、黒ごまをかけます。
そして、カリカリ梅を一粒。いつも、これを選ぶのがたのしいの。
ひとつひとつ、よく見るとぜんぜん違って。真ん丸なのもいいし、歪(いびつ)なのも、またかわいい。
こうやって、乗せると…
白ごはんは、いつもこうしてるの。毎日変わるおかずと、いつも変わらないごはん。慣れっこになって、3秒でできちゃう仕上げです(笑)。
よし、できた。
コレクションしている「おべんとう包み」。このなかから選ぶのも、毎朝のたのしみです。
今日はこれ。散りばめられた「コーヒー豆」がかわいい、naccioさんのランチクロスです。
よし、完成しました。
忙しない「ずぼら弁当」
そしてお昼になりました。
よいしょ。
自分でこしらえて、自分で詰めたおかずたち。それでもやっぱり、ふたを開けるときには。うれしい。
やっぱりそうなんだ。いいよね、中身を知っててもわくわくしちゃう。
名前を決めなきゃいけないですね、どうしよう。「ずぼら弁当」。いや、これは…「“いらち”弁当」にしようかなあ。
そうなんだけど、このおかずは、煮物を煮ている15分の間に全部つくったんです(笑)。大根を強火で煮て、たまに掻き混ぜながら、炒め物とソテーを大急ぎでつくっちゃった。
上の段に入ってるのは、ごはんと、プチトマト、見えないけど下にはもやし炒めとサンチュが入ってます。メインは、鶏肉をカレー粉とパン粉とオリーブオイルでソテーしたもの。
最近、「カレー塩」にはまっていて。このチキンも、仕上げに使いました。
下の段はさっき詰めたばっかりだけど、煮物とえだまめの天ぷらと、中華炒めです。
実際に食べてみると…
… いただきます。
みんな、これまでよく協力してくれたね、本当に。つくるのも大変ですけど、パシャパシャ撮られながら食べるもの、すごく大変だ(笑)。
…なんだか申し訳ないことをしたね。
好物を好きなだけ詰めて、おいしく食べる。その、おべんとうの「当たり前の魅力」を、しっかりと噛み締めていました。
おべんとうを詰める、ということ
普段、使っているのも「わっぱべんとう」なんです。だけど深めの1段だから、あまりなにも考えずに、ほいほいと詰めていました。
「どこに、なにを詰めよう」って考えるのが、すごくおもしろかった。見栄えも考えながら、小さいキャンバスを埋めていく感じがすごくたのしいですね。
本当にね。それもうれしいですね、最後までこんなにいい香りだなんて。
わたしにとって、おべんとうは、ちょっと「バロメーター」みたいなところがあって。いつもすこし自分を試してるのかも。
そうだね。朝の忙しない時間のなかで、15分〜20分集中して、おかずを仕上げてしっかり詰めることができる、というのは、体も心も調子がよくて「がんばって働くぞ」って思えてる印だと思うんです。
だからこそ、完成するとすごくうれしい。「ああ、今日も1日がんばれそうだなあ」って思うから。
ずぼらでもせっかちでも、「今日もおべんとうを詰めることができた自分」に「よかったなあ」と安心して、ちょっぴり誇りに思う毎日です。
それもあって、この連載が好きでした。みんなすごくたのしそうに話してくれるし、お話を聞きながら、「きっと、この人は今日、いっぱい頑張れるなあ」って思うんだよ。
そうだよね。わたしも書いてて、詰めてくれた人のことが、いつも「ますます好きになっちゃう」の。本当にたのしかった。「おべんとうっていいなあ」って思うしね。だからね、連載名の「詰めるよろこび『あの人のおべんとう』」っていうのが、やっぱり改めてすごくいい名前だと思うんだよなあ。
それはね…わたしです!(笑)。
たくさんのご感想を本当にありがとうございました!
きっと、また会える日まで。
ごちそうさまでした!
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取材・文 / 中前結花 撮影 / 真田英幸