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【連載エッセイ】ちょっと、好きな色。「カメリア」

花や洋服、書店に並ぶ本の背表紙たち、おいしそうな洋菓子…、カラフルなものを目にすると心が踊り、わたしは「色辞典」を開きます。「この色は、どんな言葉で説明されているのかしら」と確かめてみる、それがわたしのお気に入りの遊びです。そんな、色に恋するわたしの、ちょっと好きな色を毎月ご紹介する連載エッセイ。2回目の今回は「カメリア」です。

【連載エッセイ】ちょっと、好きな色。:毎月、ひとつの「色」を選んで「ちょっとしたお話」と一緒にお届けするエッセイです。

執筆:中前結花  イラスト:penitto

   

今月の色は「カメリア」

そもそも「カメリア」とは。

その名前が指す色は、いわゆる「ショッキングピンク」と呼ばれるような、明るく華やかなピンク色の一種です。近しい色は、「薔薇色(ばら)」「唐紅色(からくれない)」。花々から名を取ったとおりの、パッと惹きつけるような鮮やかさが魅力です。

【カメリア】
ツバキ科の常緑樹ツバキの花の色。赤寄りの鮮やかな濃いピンク。東洋原産の椿は17世紀にヨーロッパに伝わり、19世紀後半にデュマの小説『椿姫』によって広く愛好される花となり生まれた色名。

(「色の辞典」/ 雷鳥社 より)


『椿姫』は戯曲としても愛される長編小説で、ヒロインである椿姫は「あたしを好きだって人の言うことを、一々きいてなきゃならないんじゃ、それこそご飯たべるひまだってありゃしないことよ(『椿姫』<訳>新庄嘉章 より)」と自ら話すほどの、華やかで美しい女性でした。その結末こそ悲劇ですが、この色が与える艶やかな印象と、まさに「ぴたっとくる」名前のように感じます。

春夏のファッションの主役として、秋冬には差し色としても活躍してくれる、スパイシーさが魅力。この色はわたしにとって長らく、「自分自身」とも言えるような、とても大切な色でした。


自由の象徴「ピンク」


この色が「カメリア」という名前だと知ったのは、ずいぶんと大人になってからのこと。

 

物心がつく前から、ひとり娘のわたしの身のまわりは、いつも「ピンク」であふれていました。生まれたばかりのわたしの写真も、その“お包み”はピンク色。3歳になったわたしも、5歳になったわたしも、アルバムを覗けばピンクのエプロンやピンクのワンピースに身を包み、長い髪を結ってにこにことしています。

 

お人形のように育った幼少期を過ぎても、黒や濃紺を好む母の趣味などお構いないしに、わたしはいつも「ピンク色」を選び取り、身に着けたり持ち歩いたりしました。「ピンクは女の子の色」。長い髪は、いつだって腰まで伸びていました。

ところが、やがて中学校に入学すると待ち構えていたのは「制服」です。決められた地味な洋服、それも毎日同じものを着て出かける…これは、わたしにとって息が詰まるほどの「退屈」でした。「せめて」と、いくつもピンク色のカチューシャを揃えて毎日頭に乗せました。首に巻きつけるリボンは、不人気でだれも身に着けていない「毒キノコ」と揶揄されていた柄を好んで身に着けていました。友だちに「どうして、そんなのつけるの?」と尋ねられると、「えんじ色の(リボン)は無くしたの」と答えます。目立ちたい気持ちはないけれど、「一緒じゃ、つまらないなあ」と飽き飽きしていたのです

その飽き飽きとした気持ちは、大学へ進学した途端に、もはや「爆発」のようなものを伴って解放を迎えます。ピンクのコートに身を包み、ピンクのヒールを履いて、カメリア色の「MARY QUANT」や「kate spade new york」のバッグを持って、闊歩(かっぽ)しました。「マスコミ学科には“ピンクの子”がいる」と噂され、学部でいちばんの「変わり者」とされた教授だけが「きみは、遠くからもよく見えるからいい」と褒めてくれました。

選んでいるのか、選んでいないのか


卒業後、上京したわたしの「ひとり暮らし」がはじまりましたが、もちろん部屋のインテリアはすべてがピンク色。カーテンやクッションのリネンにとどまらず、テレビ台や冷蔵庫に到るまで、その機能性には目もくれず「ピンク」のカラーを出しているメーカーやブランドだけを選びとって揃えていました。

そんなある日、「なんて、知的な人だろうか」と常々尊敬していた女性の先輩が部屋に訪れ、帰り際に「あなたは、やっぱり天才だと思う。ジョブズや松本人志と同じなのよ」と言いました。うれしくなって「どんな意味ですか?」とたずねると、「彼らは、服を選ぶのが面倒で、そんな時間があるなら創作や空想にあてたいから、同じ服ばかり着るのよ」とおしえてくれました。

 

まさか、究極のミニマリストの服の選び方と、自分の「もの選び」が同じだなんて。

しかし、その言葉には「はっ」とするものがあり、深く納得せざるを得ませんでした。当時のわたしは、ピンクであれば「もの」はなんでもよかったのです。

そのものの「素材」や「心地」、「機能」だなんて知ろうともせず、ましてや「つくられた経緯」やその裏側に思いを馳せることを、そのころのわたしは知りません。シーンを頭に描いて、「どんなものを選ぼうか」と悩むこともなく、ただただ盲目的に「ピンク色」を選び取っていた自分が、「天才」はおろか、どこまでも無自覚で、途端に恥ずかしくなりました。

わたしは、本当の意味で選んではいなかったのです。


わたしらしく、あるための色

その夜、「編み物の先生」であった母に電話でこの話をしました。その返事を、今でもよく覚えています。「今度、手芸屋さんに行ってごらん。毛糸の売り場に行って、今のあなたが、いちばん『いいなあ』と思った色をお母さんにおしえてくれる?」。後日、わたしは手芸屋さんに出かけて、「深いモスグリーンがきれいだと思った」「だけど、よく見ると、どの色も全部すごくきれいだった」と報告したのでした。半月後、丁寧に編まれたモスグリーンのスヌードが送られてきました。

そんな調子だったわたしが、いまでは「もの」がつくられた過程や想いを伝える仕事をしているから、不思議なものです。「ピンクの子」は卒業し、いまではたくさんの、吟味して選んだ「色」や「素材」に囲まれて暮らしています。

唯一、唇にだけは「カメリア」のリップを乗せています。毎日同じものを使ってもう4年になりますが、これはけっして「選んでいない」というわけではないのだと思います。「毎日、これを選んでいる」のだと胸を張って言える、お気に入りの色と出会えたのでした。

カメリアのアイテムをひとつ


Meach.(ミーチ)さんの「カルセドニーの一粒ネックレス」

せっかくなので、気になったカメリアのファッションアイテムを1作品選んでみました。カルセドニーを使ったシンプルなネックレスです。明るくビビットな印象が、これからの季節にもぴったり。「本来の力を引き出す」パワーがあるとも言われている石ですから、まさに自分らしくありたい、そんな気分のときにおすすめです。

作品を見る





 
 
来月は、どんな色にしましょう。どうぞ、おたのしみに。

penitto(ペニット)
https://minne.com/@yse

第2回の挿絵は、手刺繍、手縫い作品も手がけるイラストレーター・penittoさんにお願いしました。

普段から作品をたくさん拝見していて、艶やかで明るくポップな「カメリア」という色合いにぴったりのテイストだと感じ、お願いしました。完成したイラストを届けていただく度、胸が踊りました。本当にありがとうございました。(中前結花)
penittoさんにとって「カメリア」とは、「アイデンティティが確立していて、強く、自信に満ちた印象のショッキングピンクのなかでも、包み込むような温かさとやさしさを与えてくれる色味だと思います。わたしにとってピンクは、生き方の憧れが詰まった色です」とのこと。

【連載エッセイ】ちょっと、好きな色。
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