インタビュー

【連載】“場”をつくる vol.1 ー 本と出会うための本屋「文喫」

入場料を払って「本と出会う」、そんな新しいかたちの本屋があります。名前は「文喫(ぶんきつ)」。本を愛する人々の間で「もう行った?」と、しばしば話題になるお店です。本を選ぶための時間と場所を提供する、そんな当たり前のようで、愛書家たちが待ちわびていた場所。プロデュースされた、スマイルズの野崎亙さんにお話をうかがいました。

2018年、「文喫」の誕生

六本木駅から徒歩2分。昨年12月に「文喫」が誕生したのは、本好きなら誰もが知る「青山ブックセンター六本木店」の跡地です。「ああ…」と嘆いたあと、「また本屋が…?」と不思議な想いで眺めていたひとも多いのではないでしょうか。

入場料は1,500円。はじめて訪れたときは、その独自の「過ごし方」や、店内のつくり、そして何より、帰るころに自分が抱えていた本の量に驚かされることとなりました。



「Soup Stock Tokyo」や「PASS THE BATON」など、数多くの事業や店舗を展開している株式会社スマイルズで、すべてのブランディングやデザインを統括されている野崎亙さんに、この「新しい本屋」のつくり方についてうかがいました。見えてきたのは、当たり前を改めて疑いたくなるような「逆走のプロセス」でした。

考え抜かれた「居心地」と「贅沢さ」


みなさん、思い思いの過ごし方をされていて、とても居心地のいい空間ですよね。

野崎さん
ありがとうございます。おかげさまで、みなさんにとても「長居」していただいています(笑)。

「食事」をされている方も、とても多いですね。メニューにもこだわりがあるんでしょうか。

野崎さん
「本と一緒に、時間を過ごしたいもの」として、変に捻らず“どストライク”に、カレーライス・ハヤシライス・ナポリタン・ドリアをご用意しています。

前回は、ハヤシライスまでいただいて大満足でした(笑)。

野崎さん
よかったです(笑)。ハヤシライスは、ちょっと苦味があるんですよ。それがまたいいじゃないですか。スマイルズとしてプロデュースするうえで、「絶対、味はうまくなければならない」という前提もありますから。ここに来る大人の方にも、きちんと満足していただけるものを提供しているつもりです。
 

玉ねぎも大きくて。

野崎さん
「贅沢さ」というのは大切にしていますね。この店は、滞在中コーヒーと煎茶もお好きなだけ飲んでいただけるんですが、それも絶対に「自分で機械から注ぐ」ようなものにはしたくなかったんです。本と一緒に過ごしたいのは「おいしいコーヒー」です。たとえコストがかかったとしても、この場所での体験をもっと豊かにしてくれるものですから、そこは譲れませんでした。

そこは、「食」の事業も多く手がけるスマイルズさんのこだわりなんですね。

野崎さん
というのも、今って「何もしない自由な時間を3時間取ることができる」ということそのものが贅沢じゃないですか。だからこそ、ここでの食事は絶対に「残念なもの」であってはならないんですよね。「食」は、あくまでも脇役ですが、本やここで過ごす時間を活かしてくれるものでなければいけません。「本のそばに、何があったら最高なのか」ということを考えに考えたので、みなさんが長居してくださるひとつの「要因」にはなっていると思いますね。

空間のつくり方も、同じような想いを感じます。

野崎さん
「いかに狭くするか」というところは、ぼくのなかでポイントでした。「巣篭り」ではないですけど、ただ広すぎると緊張感が生まれてしまうので、狭苦しくない程度に区切られたつくりにしています。本来は不要な壁で真ん中を仕切っているのも、居合わせるひと同士の目線を切りたかったからなんです。「ちょっと狭くて、ちょうどいい空間」をたくさんつくることで、居心地のよさを感じてもらえるようにしています。
 

プライドをかけたこだわりと、さりげない気遣い。それらが集まってできあがった空間で、「そうそう、これこれ」とわたしたちは何度も頷いてしまいます。

心憎いほどの居心地のよさは、スマイルズさんの手によってどのように検討されていったのでしょうか。

はじまりは、名前から

「青山ブックセンター」の跡地で「文喫」を、というのはどのような順で決まっていったお話だったのでしょうか?

野崎さん
実は、はじまりは場所でも事業アイデアでもなく『文喫』という名前だったんです。日本出版販売株式会社(「文喫」の事業主/以下「ニッパン」)さんとの「新しい本屋をやりたい」という話の中で、「文化を喫する場所、“文喫”」というネーミングだけが、先に誕生していました。具体的な中身は、その時点ではなにも無かったんです。
 

そこから、ビジネスモデルを決めて、場所を決めて…

野崎さん
いえいえ。ぼくたちは、「ビジネスモデルから考える」ということはやりません。なぜなら、それってすごくリスキーだと思うんです。企画書の上で描いてみると、一見「なかなか良いな」と思うかもしれませんが、それが本当にお客さまにとって価値を有するものなのかどうか。収益の仕組みから考えはじめると、その先になにも無いような事業ができ上がってしまう、ということに陥りがちだと思うんです。なので、名前からゼロベースでイメージを膨らませはじめました。
 

それは、いつごろのお話でしょう?

野崎さん
2018年の5月ごろだったと思いますね。ちょうど時を同じくして、「青山ブックセンター」の六本木店が閉店する、という話が出てきました。「本屋」として象徴的な場所でもあリますし、読書を通してカルチャーやデザインの分野を育むような場所が無くなることには、ニッパンさんも危機意識を持たれていたんです。ぼくも含め、スマイルズのメンバーにとっても、思い入れのある場所だったので、すぐに「ここでやりましょう」となりました。
 

偶然とはいえ、「なるべくして」という感じがしますね。

野崎さん
チームのメンバーで「どんなタイミングで、本を読む?」なんて話からはじめました。「本+カフェ+イベントスペース」のような構想ももちろん考えましたが、途中から「本と向き合うことから逃げるのはやめよう」という話になったんです。
 

「逃げる」ですか。

野崎さん
つまり、お客さんを呼ぶためにステーショナリーや雑貨のような「なんとなく本以外のもの」を置くことや、関係のないもので収益を得ようとすることですね。それは内装に関しても同じことで、「飾りの本は置かない」というルールも決めました。

たしかに、店内に「ディスプレイ」としての本はありませんね。

野崎さん
そうなんです。本は、すべてアクセシブルなものにする。手の届かない場所に「インテリア」のように本を置くことはしないし、本をモチーフにしたロゴやデザインも行っていません。そういうことは安易にやらないようにしようと決めてしまったんです。あくまでも、「本と触れ合う」という前提を大切にしよう、と。それは「青山ブックセンター」の跡地であることも、どこかでつながっているかもしれませんね。

逆走のプロセス

「名前から決める」というのは、スマイルズさんにとってめずらしいことではないんですか?

野崎さん
そうですね。「名前」が決まると、なんとなくアウトラインが見えてくるじゃないですか。「それを目指そう!」というイメージの共有にもなりますし、そこからまたイメージが膨らみますよね。一旦、具象化されるというのがいいんだと思います。結果的に、その名前でそのままでオープンするかどうかは、どうでもいいわけです。

他のお店の名前も、ユニークなものが多いですよね。最近は「二階のサンドイッチ」というネーミングが素敵だなと思いました。

野崎さん
ありがとうございます。「Soup Stock Tokyo」や「PASS THE BATTON」「giraffe」「100本のスプーン」「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」「PAVILION」。どれをとっても、やっぱりロジックやビジネスモデルからは考えていないんですよね。イメージを膨らませてくれたり、意味をつくってくれるような「名前」。これは、非常に重要だと思っています。
 

その言葉の持つイメージとか響きみたいなものが、その後の広がりにつながっていくんですね。

野崎さん
まさにそうですね。受ける印象や語感。名前やロゴからつくりはじめることも多いです。

ロゴもですか。「一般的」という言葉も危険ですが、「一般的な事業のはじめ方」があるとすると、まずは「コンセプト」を決めるところからはじまって、ビジネスモデルや提供価値を詰めて、全体のデザインから細かなデザインを考えていく、そして最後にそこから導き出された「名前」を決定して、「ロゴ」をつくる、という流れがとても多いと思うんです。

野崎さん
ロゴや店名からはじまって、「つまり『本と出会うための本屋』だ」と定義づけるような言葉(コンセプト)になったのは、最後の最後でした。そういう意味では、ぼくらがやっていることは「逆走」かもしれませんね(笑)。
 

これは、とてもおもしろいです。

野崎さん
というのも、たいていの場合は「コンセプト」を絞るところからはじめると思うんですけど、それについて、ぼくは否定的なんですよ。

「イメージ」で可能性を引き連れていく

野崎さん
コンセプトよりも、ぼくは「イメージ」の方が圧倒的に大事だと思ってるんです。市場のことやロジックではなくて、「ぼくの」「あなたの」実体験や実感からくる、シーンのイメージです。個人的な思い出や思い入れで構いません。個人的なものでも何人かで持ち寄れば、多義性を帯びてくるじゃないですか。「完全に理解できないもの」もあれば、「わかる!」というものも出てくる。シーンのイメージは写真や語ることで共有できますし、「だったら、こういうこともあるかも」「こういうことが起きるかも」と、イメージがさらに膨らんでくる。膨らませることが大切で、逆に可能性を排除してしまうような、何かを縛る「コンセプト」はスタート時点では不要だと思っています。
 

「コンセプトから外れるもの」がこぼれ落ちてしまう危険性があるんですね。

野崎さん
そうなんですよ。縛りがかかって、いろんなことを検討できる可能性を排除してしまうことがありますから。特にこういう新しい業態を考えるときは、極力可能性を排除したくない。ギリギリまですべての可能性を引き連れて行きたいんですよね。

「可能性を引き連れて行く」というのはおもしろい表現ですね。

野崎さん
みんなでアイデアを出し合いますが、基本的にそれをまとめようという発想はないんですね。ある意味で、すべてドーン!と捨てちゃってる、とも言えるかもしれませんが(笑)。たとえば、講演会なんかを聞いたあとに、二言三言、心に残ってる言葉ってあると思うんですよ。それらはすごく大切なんです。大切なんですけど、その時点ではまだ琴線に触れてない何千何万の言葉たちも、もしかしたらあとになってから効いてくる可能性もある。最初に心に残ったものをトリガーにして進めはするけれど、「こいつらもいるぞ」って、最後にもう1度全体をおさらいをするんです。そのときに見えてくる、また違った絵姿があると思うんですよね。

なるほど、最初に「コンセプト」を掲げてしまうと、そういった振り返り方は難しいかもしれませんね。

野崎さん
自分の中に何かが身についたり、造詣や思考が深まってから見たときの景色は違うはずなので。この「文喫」に関しても、名前やイメージからはじまって、最後の最後に生まれたのが「本と出会うための本屋」という言葉。そのとき、それまで検討してきたものがすべてつながって、「これでよかったんだ」と思えたんですよね。そういうものは、最初に決めるんじゃなくて、検討の先に決まっていくものなんじゃないかな、と思います。

自分のなかのデータベース

「文喫」という名前以外に、イメージづくりを助けてくれたものはありましたか?

野崎さん
あるとき、リサーチがてら国会図書館に行ったんです。そのとき『落ち葉図鑑』というものに出会って。その名の通り、落ち葉がたくさん載ってる図鑑なんですけど、写真ではなくてすべて手描きされたものなんです。「なにこの本?」って思うじゃないですか。だけど、すごく情緒的でワクワクするものだったんですよね。

そういう本との出会いってありますよね。

野崎さん
そうなんですよ。そこから、学生時代に旅行先のロンドンの本屋で出会った「デザインビジュアルブック」のことを思い出しました。振り返ってみると、そういう出会いって「心の余裕」と「充分な時間」の2つがすごく重要だな、と。この2つはすごく密接な関係で、充分な時間があるから心にも余裕があるのかもしれませんね。焦っているときに、新しい本との出会いなんてないでしょうから。そういう自分自身の経験から、「余裕」というのはすごく重要なポイントになる、と。なので、文喫は「時間制」にはせず、1日中居ていい場所にしたかった。余裕のなかで出会えた、という自分自身の経験があったからですね。
 

『落ち葉図鑑』との出会いが、ご自身の「原体験」を引っ張り出して、「文喫」という名前とつながっていったんですね。

野崎さん
そうですね。経験のなかにあった気づきと感覚をすごく大切にしながら、輪郭づくりをしていきましたね。過去の経験は、「確実にあったもの」ですから。自分のなかのデータベースを探しに行く、というのが何より大事だと思っています。

「思いつきは論理より先立つ」

そういったトリガーをもとに検討されて、半年間程度ですべて完成させた、というのはとてもスピーディに感じます。

野崎さん
すべてが「同時に検討」「同時に制作」だったんですよ(笑)。まだ、内容が固まる前から、ロゴや空間をつくっていて。ぼくらとしては、よくあることなんですけれど。
 

それは、このプロジェクトのスケジュールがタイトだったから、ではなく?

野崎さん
もちろん、それもあるにはありますが、具象を考えながら同時に抽象も考える。逆もまた然り。全部同時にやっていくのは、なかなかいいと思ってるんですよ。そうすると、より輪郭がハッキリしていくことが多くて。内装について詰めながら、その次のミーティングでロゴを決めて、そのあとはビジネスモデルの検証を行い、さらに空間の話をして、みたいなのをぐちゃぐちゃぐちゃっと混ぜながらやっていくんです。

スピードが求められるなか、コンセプトやなにかを縛るルールがないことで、困ることはないんでしょうか?たとえば先ほどの「本はディスプレイに使わない」といった、これはやる、やらないのジャッジメントの基準が欲しくなるときがありますよね。

野崎さん
そこは、冗談でもなんでもなく「なんか嫌だよね」ということなんです。この「好き」とか「嫌だ」という感覚は、その時点ではただの思いつきのように思えるかもしれません。ただ、我々は「思いつきは論理より先立つ」と考えています。そしてその思いつきには、実は必ず論理があるから嘘ではないと思うんです。
 

「なんかいいよね」という感覚で選んでいるけれど、実はそれは理由やロジックをもとに自分自身で振り分けている、ということでしょうか。

野崎さん
そうです。「説明できないけど、こっちがいいと思ってる」というものが集積した結果、ようやくロジックがわかるんです。それは「気づいてなかっただけで、実はこう思っていたんだ」というような。結果的に、後付けて説明ができればいいわけです。そうやって導き出されたロジックって、すごくユニークな説得力を持ってると思いませんか。なぜなら、自分の感性とか経験に裏打ちされてるから。「なんとなく好き」であることを否定することはできないですもんね。この後付けの論理は絶対嘘じゃないんですよ。理由がなきゃ「嫌だ」「最高だ」なんて思わないですもん。

自分自身の体験から得たイメージや、「これは嫌だ」「これがいい」という感覚を集めていった結果、チームのみなさんのなかで「同じもの」が徐々に浮かび上がってくる、ということですね。それが「輪郭」。

野崎さん
そう、最初は理論が説明できないだけで、答えはきっとそこにある。「ああ、こういうふうに思ってたんだ、自分」と気づくまで、頑張って意味を追いかけに行く。そうすると、ボヤ〜っと見えてくるものがあるんです。そのプロセスが一番たのしいっすね。

委ねるための、余白や隙間

認識をそろえて、浮かび上がらせていくには、たくさんの「イメージの共有」が必要ですよね。

野崎さん
「文喫」の内装については、チームで上海に行ったのもよかったと思います。ぼくの好きな建築家が上海にいて、その「感覚」のようなものをスタッフにも味わってほしいと、これもまた感覚的に思ったんですよ。それは、ネリ&フーという2人組のデザイナーによる『ウォーターハウス』というホテルなんですけど。その空間を体験することで、「こういうものを大事にしたいんだ」というのを伝えたくて。
 

その時点では「こういうもの」というイメージの共有なんですね。

野崎さん
結局、それは何だったかというと、そのホテルは、違和感をおぼえるような空間の分断をしていて、そのなかに微妙な余白や隙間があるんですよ。これが、「文喫」にも必要だと思ったんです。
 

分断や隙間ですか?

野崎さん
そう。この場所は、もともと青山ブックセンターがありましたが、さらにその前にもレストランのような別の業態が入ってたんです。ガバッと内装を剥がすと、そのレストランの床だとか、青山ブックセンターのときには見えなかった窓や壁が出現してきたんです。今回、あえてそういうものを隠さず、埋めず、残してあるんです。

今回の改装で出現した「窓」は、埋めず、すこし手前に壁が立ててあります。

見つけたひとは、なにか「意味」を探りたくなってしまいますよね。

野崎さん
事実としては、「この“文喫”という新しい空間」と「青山ブックセンターの余韻」、そして「さらにその前に、実はここにあったお店の名残」がここにある、ということだけなんです。バラバラのものですが、そこに文脈を足してつなげるのはお客さま自身。
 

わたしたちが、自分の文脈で感じ取っていいわけですね。

野崎さん
そうです。それが、ここで行われていることのすべてだとも思うんです。たとえば、ふらふらと店内を回遊して、ザッピングするように本を選び取っていくじゃないですか。そこで3冊手に取ったとします。きっと著者もジャンルもバラバラだと思うんです。端から見ると、なんらつながりがない。その3冊を選んだ理由は自分以外わからないし、たぶん自分でもすぐには説明がつかないでしょう。後々、「ああ、あのとき」ってロジックを実感することはあるかもしれません。「自分の感覚で、自分だけの編集を行なっていい」。まさに、この場所は、その3冊が積み重なったような空間だと思うんです。

野崎さん
「余白」って言っちゃえばすごく単純なんですけど、そういうものをいくつも残しておきたかったんです。ぼくはずっと、「デザインって、いったい誰がするんだろう」と考えたときに、もう世に出た瞬間、それは受け手の仕事だと思っているんです。たとえば階段があったとして、そこに座った瞬間に「あなたは、椅子としてデザインした」ってことでしょうし、ガラス窓の前で髪をいじった瞬間に「あなたは鏡としたデザインした」ってことだと思うんですね。本質はそうだとぼくは思っています。放たれた瞬間に、それはもう生活者のものですから。この店の内装もそう、ここでの時間の過ごし方も、本の選び方もすべてがそうですね。

たしかに、すごく委ねられてる感じがします。本選びはもちろん、食事をしてから、また本を読んで、テーブルでちょっと仕事しようかな、なんて方も多い。自分なりに時間を編集して使われているんですね。

野崎さん
それが最高ですよね。案内の文字やサジェストも、店内の言葉数は極力少なくしています。自由に受け取って、自由に編集してほしい。この店が、そういった空間になりつつある気配をしっかり感じるので、それが一番うれしいですよね。

「直感」は侮れない

受け取り方や、使い方は受け手に委ねられていますが、たくさんのホスピタリティや考えるテーマを与えてくれる場所だと感じます。走り出しから半年間でオープンされたすごさを、お話をうかがって改めて実感しました。

野崎さん
逆に充分に時間があればあるほど、新しいことをはじめるのは難しいかもしれないですね。どうしても慎重になって、ありがちなプロセスを経てしまうと思うので。アジャイル開発のように、短い期間で出して、直して、なんてことをできればいいですけど、店舗の場合、そういったこともできませんからね。一発正解を出さなきゃいけない。だからこそ、すべての可能性を捨てちゃいけなくて、だけどすべてを信じてもいけない。「全部があり得て、全部がなしになる」っていう前提でもって、順序を経るんじゃなくて、すべて同時にすすめていく。確信に近い「なんかいい!」「これは嫌だ、やりたくない!」を繰り返しながら、輪郭を掴んでいく。ぼくにとっては、理想的なすすめ方ができたんじゃないかなと思っています。

すすめるほどに、みなさんの直感もそろってくるでしょうから、後半にかけて勢いは加速しそうですね。

野崎さん
そうなんですよ。輪郭やロジックがどんどん見えてくるので、それが本当におもしろい。
 

「感覚」や「思いつき」は侮れませんね。

野崎さん
むしろ、それがすべてに近いかもしれないですね。直感って、偉大だと思います。だから「これがいい!」って自分が思うものを、どうか信じてもらいたいんですよね。「これでいい」だと、たいしたことないんだけど、「これがいい!」と言えるものには、絶対に理由があります。適当っていう適当はなくて、必然しか無い。ものを生み出す人たちが「なにが、いいか」「なぜ、いいと思うのか」を徹底的に考えることは、日々の中でもすごく大切なことだと思います。そうすれば、選び取るなかで、あらゆることが決めずとも、決まっていく。「文喫」という名前からはじまったこのお店も、この場所も、すべて必然しかないって、今、ちゃんと言い切れるんですよね。

 
取材・文 / 中前 結花  撮影 / 真田 英幸

文喫 BUNKITSU | 本と出会うための本屋。
住所:〒106-0032 東京都港区六本木6-1-20 六本木電気ビル1F
電話:03-6438-9120
営業時間:9:00~23:00(L.O.22:30)
定休日:不定休
URL:http://bunkitsu.jp/

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