「この絵には音楽がある」
稲垣吾郎さん、草なぎ剛さんとともにトリプル主演を務めたオムニバス映画『クソ野郎と美しき世界』。その劇中で、部屋に所狭しと飾られた絵を眺め、少女が「この絵には音楽がある」とつぶやくシーンがあります。その際に登場したのも、香取さんの実際の作品でした。
今回の個展で“体感”できるのも、まさに、作品そのものからあふれ出る音楽のような、熱さと魅力。昨年、パリのルーヴル美術館併設のカルーゼル デュ ルーヴルで開催された初個展「NAKAMA des ARTS」の展示作品に加え、この数年間で彼が各地で見せてくれたアート作品が集結した場となっています。
世界初の360度回転ミュージアム
開催場所は、東京・豊洲の「IHIステージアラウンド東京」。まずは座席について、オープニングムービーをたのしみますが、それは「映像を見る」というよりも、「“はじまり”を体感する」という表現がぴったりです。客席が360度回転する仕組みになっており、想像どおりの妖(あや)しさと、想像以上の臨場感を堪能することができます。
側面からもたのしんで
幕が開けて登場したのは、広いステージを存分に使って展示された作品の数々。
華やかで大胆な色使いにまず目を奪われますが、よく近づくと、ひとつひとつの作品のその繊細さに、かけられた時間と途方に暮れてしまいそうな手間を感じ、いつもながらおどろかされます。
ダンボールをキャンバスにした作品も、香取さんの個性のひとつ。真横から見ると、重ねられた絵具の厚みや、ダンボールの湾曲も感じることができます。ぜひ、正面だけでなく側面からもたのしんで。
「香取慎吾」を体感
身体性をテーマにした作品も多く、香取さん自身の「パワー」や「大きさ」を感じられるのも、実際に足を運ぶからこそ。制作中に録音したという、彼の心音を感じることができるオブジェは、この個展を象徴する作品のひとつでした。
華やかさとあたたかさと
作品全体を包む、圧倒的な華やかさとあたたかさ。それでいてどこか、収めようもない想いや悲哀のようなものを感じ、それぞれの作品が、まさに香取慎吾から生まれた、彼そのものであることをおしえてくれます。
パリの展示で話題となった作品の数々も。
身体だけでなく、その心のヒダまでアートやエンタテインメントへと昇華します。
「再会」できる、ミュージアム
この数年間、各地で作品を発表し続けた香取さん。今回の個展は、その作品たちとの「再会」できる場でもありました。
そのほか、香取さんらが立ち上げたファッションショップ「JANTJE_ONTEMBAAR(ヤンチェオンテンバール)」のオープンを飾った絵画や、年始に東京ミッドタウン日比谷の正面玄関を飾った『フリーダムガンネン』。香港の中環に登場したストリート・アート作品をイメージした壁画など、数多くの作品と「再会」できる内容になっています。
「夢」が叶う瞬間を
展示の最後に設置されたフォトスポットでは、スタッフの方が備え付けのカメラで撮影を行ってくれますので、ぜひ鑑賞の思い出に。
広々とした空間とその華やかさに、香取さんの「これから」を感じ期待がふくらみますが、今回展示されたその作品数はもちろんのこと、塗り重ねられた色の厚み、細かなアイデアが集まって生まれた作品のひとつひとつに感じるのは、香取さんが歩んで積み重ねてきた「これまで」です。地続きの想いが詰め込まれたひとつの作品のような個展でした。
わたしは2011年に制作された「宝箱」という作品が大好きです。
今回の個展について、香取さんは「一人の男の夢が叶う瞬間を見てもらいたい」と表現しました。新しいはじまりを迎え、一歩一歩着実に、大股で、夢を叶えていく姿の頼もしさ。あふれ出すパワーが、ファンのみならず、体感したひとの背中をポンとあたたかに押してくれることと思います。ひとりでも多くの方に、どうか届きますように。
BOUM! BOUM! BOUM!(ブン!ブン!ブン!)香取慎吾NIPPON初個展
会場:東京都江東区豊洲6-4-25「IHIステージアラウンド東京」
料金:一般 3500円 / 高校・中学生 3000円 / 小学生以下 2500円
※全席指定・税込
https://boum3.com/
鑑賞・文 / 中前 結花