素朴さの中にあふれる存在感
JR青梅線の二俣尾駅で下車し、自然豊かな絶景を眺めつつ歩くこと15分。趣のあるこちらの一軒家が今回の目的地。「noco BAKERY&CAFE」です。
扉を開けると、やわらかい日差しがたっぷりと差し込む、シンプルかつ開放的な空間が広がっていました。カフェを営んでいるのは佐藤さんご夫妻。今回は奥さまの、えり奈さんにお話をうかがいました。
「ここは、nocoの入口扉をつくってくださった木工作家さんが工房にしていた場所で、新しい工房をつくられるということで譲っていただいたんですよ。もともとは織物の繊維工場だったそうです。建物はそのままに、壁を塗ったり、厨房をつくったりとリノベーションをして、カフェとして5年前にオープンしました」。
木の扉は家具屋 椿堂さんのもの。温もりのある美しい木目とアシンメトリーなデザインが素敵。
織物に日を当てすぎないように、と北向きにつけられた窓。だからこそのやさしい光が心地いい。「立派な梁は繊維工場を建てる際に、東北の味噌蔵から運んできたものだそうです。古くて、かっこいいでしょう」とえり奈さん。
「統一感」を大切に
「わたしは古道具が大好きで、器とも古道具屋さんで出会うことが多いんです。nocoでいちばんたくさん使わせていただいているのは、作家・関口憲孝さんの器。国立のGARAGEという古道具屋さんでひと目惚れをしてから、nocoをオープンするまでずっと買いためていて、大切に使わせていただいています。関口さんの器の魅力はシンプルなフォルムとスモーキーな色味」。
「ほかにも西荻窪の魯山やrecitなど、器を扱う古道具屋さんが大好きで、いろんな作家さんの器を購入します。IKEAなど市販の器もありますよ。ただ、選ぶうえでひとつだけ気をつけていることがあります。それは統一感です」。
nocoで使用されているのは、ほとんどが寒色系の器たち。「自分が惹かれる寒色系の色味をもつ素敵な器であれば、ブランド名は気にしません。ベースのトーンをそろえれば、ひとつの世界観が生まれます」。
糧になるものをつくりたい
もともとご夫妻はグラフィックデザイナー。お子さんにアレルギーがあったことをきっかけに、えり奈さんは食の道へ。パン屋さんで修行を積み、nocoの開店に至ったそうです。
「毎日の糧になるもの、体をつくるものを自分の手でつくり続けたいと思い、パンに行き着きました。添加物を使わず、生産元がわかる材料で、できるだけすべてを自分でつくるようにしています。たとえば、あんパンは、あんこをキビ糖で炊くところからはじめますし、ピザはソースも自分でつくります」。
店内にはそんなこだわりのつまった種類豊富なパンがずらり。使用原料や産地も書かれているので安心です。
nocoの食パン「パン・ド・ミ」は、北海道の小麦粉と天然酵母・ルヴァンリキッドを使用。パンの香りと風味がよく、しっとり感が長く続くところが特徴だそう。
さて、美味しそうなパンをたくさん眺めたところで、そろそろお食事をいただくことにしましょう。
特別な珈琲と一緒に「いただきます」
好きなパンを選び、ドリンクをオーダーしてイートインスペースへ。nocoでは人気珈琲店・ねじまき雲さんがnocoのためにオリジナルで焙煎された珈琲をいただけるとのことで、ドリンクは珈琲に決定です。
じっくりと時間をかけてハンドドリップしてくださるえり奈さん。ぽとぽと、と珈琲が溜まり、香りが広がっていく、この「待つ時間」もしあわせ。
「どうぞ」と運ばれてきたのがこちら。
大きな旬のいちごを使ったサンドウィッチと、オリジナルの深煎り珈琲です。スモーキーな器がいちごの鮮やかさとクラシックな珈琲の雰囲気を引き立てていました。フリルのようなリムにもうっとり。
自然の甘さと酸味がほどよいいちごサンドと、すっきりとした上品な味わいの珈琲とが相性抜群でした。
「これはほかのパンも味わいたい…!」
衝動を抑えきれず、追加でnocoのおすすめのパンをオーダー。
いただいたのは、人気のたまごサンドウィッチと手のひらサイズのパンたち。
器のしっとりと落ち着いた雰囲気が、ひと口ひと口をゆっくり味わってたのしみたくなる時間を演出してくれます。
たまごサンドは爽やかな酸味の効いたたまごと食パンのしっとり感が絶妙にマッチ。たまごの歯ざわりがしっかりと感じられるところもよかったです。あんパン(あん生クリームサンド)、ピーナッツクリームパン(ピーナッツクリームサンド)は定番のようでいて、nocoのものは、とにかくやさしい自然な甘さが印象的でした。
「共有」をたのしむ
取材中も老若男女、幅広い世代の方が次々と店内へ。ご近所の方をはじめとする常連さんもたくさん。「わたしは本当に、人に恵まれているんですよね」とえり奈さん。
店内の植物は、お客さんが「こういうの好きでしょう」と持ってきてくれたものがほとんどだそう。素朴でかわいらしい雰囲気がnocoにぴったり。
「nocoをオープンするときに、青梅のマルポーという古道具屋さんで、気に入った椅子を2脚買ったんですけれど、ある日お客さまに『うちにも同じ椅子があるのだけれど、2脚使わなくなったからどうぞ』と言われて。譲っていただいたこともあるんですよ。すごい偶然、というのもあるけれど、その椅子を譲ってくださる、持ってきてくださるというご厚意がありがたいなあ、って。お店をはじめてあらためて、お客さまや周りで支えてくれる方々に感謝する日々です」。
nocoではそんな感謝の気持ちを込めて、たびたびワークショップや展示会が開催されています。半年に一度は「のこいちば」と称して、フードや雑貨、音楽ライブまでたのしめるマルシェが登場。
「美味しいものと、たのしい時間、うれしいなと感じることをこれからもみなさんと共有して、共感していけたらいいなと思っています」。次回ののこいちばは7月に開催予定だそう。店主のあたたかな人柄があらわれたお店と、そんな店主のもとに集まる人々がつくるマルシェに、ぜひ足を運んでみては。
次回はどんな素敵な器とごちそうに出会えるのでしょうか。
乞うご期待。
取材・文 / 西巻香織 撮影 / 真田英幸
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