3坪をたのしむ
高円寺駅の北口から徒歩1分。ちいさなちいさな喫茶店が今回の目的地「喫茶と酒場 あわいものや」です。
扉を開けて目の前に広がるのは、わずか3坪の空間。その狭さにまずは、おどろいてしまうはず。振り返って上を見上げると鮮やかなステンドグラスを眺めることができます。「ステンドグラスのあるこの物件に惹かれて、申し込みを決意したんですよ」と店主の菊池ペコさん。すこしずつ手を加えていき、2018年の8月31日に喫茶店としてオープンしました。
「喫茶店をやる、ということよりも物件との出会いが先だったので、この場所に聞いてみる感じで。どのようなお店にしていくか試行錯誤していたので、友人に手伝ってもらいながら内装も自分でつくっていきました。今もまだ途中です。壁も塗りかけのところもありますし、でもやるなら明るさがあって風通しのよい場にしていきたいと思い、日々考えながら整えています 」。
喫茶店をメインに、高円寺という場所柄を考慮して酒場としても営業。1Fはカウンター4席と、壁際に飾られた雑貨や洋服の中には購入可能なものもちらほら。「今後は壁を利用して、展示スペースとしても活用していきたいと思っています。洋服の展示会などもやっていきたいですね」。
吹き抜けの2Fはごろごろと寝転がることもできる、癒しの畳部屋に。「おひとりで自分の時間を過ごしたり、お子さんと一緒だったりする方にもおすすめです。のんびりとくつろいでほしいです」とペコさん。
ちなみに、畳部屋からは、ペコさんが心惹かれたというステンドグラスを迫力満点に眺めることができます。
漂流物でできた店
あわいものやで使用されている器はそのほとんどが「自然と手元に集まってきたもの」なのだそう。お店をはじめるにあたり、友だちや知人の器屋さんからいただいたもの、はたまた近所の『ご自由にどうぞ』と書かれた箱の中をのぞいてピンときたものなど、テイストはバラバラ。
「お店のコンセプトも使用する器のルールもない分、色味も素材もデザインもさまざまな器があるんです。とあるお客さまが『このお店は“漂流物”でできている』とおっしゃって、そうかもなと思いました」。
“このメニューにはこのお皿を”という決まったスタイルも存在しないそう。一体、どのような組み合わせのお料理が登場するのでしょうか。早速、オーダーをしたいと思います。
懐かしさを胸に「いただきます」
メニューのラインナップはきわめてオーソドックス。「ひとりで営業していることもあり、シンプルな喫茶メニューにしています。季節に合ったデザートなどは出していきたいと思っています」。
今回は、ペコさんが昔バイトをしていたご縁でレシピを引き継いでいるという、今はなき阿佐ヶ谷の喫茶室cobuの「ババロア」とモーニングの鉄板「トースト」をいただくことにしました。
運ばれてきたのがこちら。存在感のある大きなババロアはドーナツの型でつくっているそう。シンプルなプレーン味に季節に合わせたトッピングがほどこされます。この日は桃とホイップクリームでした。弾力があって食べ応えがありつつも、爽やかでやさしい味わい。器は「和の雰囲気の居酒屋」をはじめると勘違いした知人からもらったという和食器。洋風なババロアを和風の器でいただくのは新鮮でした。
分厚めのトーストには、ジャムとはちみつが添えられていました。焼き加減が絶妙で、ふんわりカリッと香ばしく、すっきりとした珈琲とも相性抜群。ジャムとはちみつを入れた変わったフォルムの器は高円寺の古道具屋さんのもの、絵柄の色使いが素敵なトーストのお皿は西荻窪のジャスミン茶専門店「サウスアベニュー」で購入したもの。いただきものだというコーヒーカップは裏に「コシノヒロコ」のネーミングが。カップソーサーは近所の『ご自由にどうぞ』の箱の中からえらんだもの。
「このばらばらな、なんでもありな雰囲気をたのしんでいただけたら、幸いです」とペコさん。
「雑多」が魅力
店名の「あわいものや」には、ほんのりとした色味である「淡い」と、古文で“あいだの空間や時間”を意味する「間(あわい)」の意味が込められているそう。「こうあるべき!こうしたい!という強い意思や方向性はなくて、どこか曖昧でどうなっていくのかは誰にもわからない、ほどよいゆるさのあるお店、ということで名付けました」とペコさん。
また、このお店は喫茶店であり、酒場であるだけでなく、ちいさな図書室でもあり、ときにはさまざまなワークショップを行う寺子屋にもなるのだと言います。
棚に並ぶさまざまなジャンルの本は、自由に読むことができます。ペコさんお気に入りの保坂和志さんの書籍をはじめ、雑誌や新聞など多様に並びます。読書会を開くお客さまもいるとのこと。
なんと占い師としての顔ももつペコさん。お店を貸し切ってホロスコープの勉強会を開催したり、完全予約制でお客さんの星回りを読んだりもするそう。店内にはホロスコープのサイコロを使った、宇宙おみくじも。
「ちいさな空間ですけれど、これからもここでいろんなことをやってみたいと思っています。基本は喫茶店ですが、雑多なよさを持ちつつ、透き通った感触のある場にしていきたいです」。
店内も器も店主のキャラクターもユニークで、まるで秘密基地を見つけたような、そんな気分を味わえるお店でした。営業日や営業時間も定まっていないということなので、足を運びたいという方は、Twitterでご確認ください。
次回はどんな素敵な器とごちそうに出会えるのでしょうか。
乞うご期待。
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