応募はこちらから色を塗る、という工程
つくる現場にお邪魔して、 その制作過程を見せていただくとき、「着色」は心踊る工程のひとつです。作品の持つ佇まいのおおよそを決定してしまうからでしょうか。ちょっと、どきどきとした気分にもなります。
慎重さも大胆さも必要なんです。
というのは陶芸作家さんの言葉。その時々で、最適な塗料、最適な道具、込める力の具合も変わります。試行錯誤を重ねる中で、本来の用途とは違った使い方で活躍する道具が出てくるのも、またおもしろいもの。
今月は、そんな「塗料」や「着色」ついて掘り下げてみたいと思います。
誰もが1度は目にしたことのあるロゴと、豊富なカラーバリエーションでお馴染みの、「タミヤの塗料」が今回の主役。模型ファンはもちろんのこと、想定していた用途の枠を超え、近ごろではアクセサリーやフェイクスイーツを制作される作家さんからも支持されるブランドになっています。幅広いクラフトファンに愛されるタミヤのこれまでとこれからをうかがってきました。
「タミヤ プラモデルファクトリー」
お邪魔したのは、オフィシャルショップ「タミヤ プラモデルファクトリー新橋店」。店内には、プラモデル、RCカー、ミニ四駆はもちろん、塗料をはじめとした道具・工具類の数々、約6,000アイテムがずらりと並んでいます。
広報を担当されている山本さんにお話をおうかがいしました。
地下1階、1階にそれぞれ広がるフロア。店内は、男性のお客さまで賑わっていました。
やはり、お客さまは男性が中心ですか?
山本さん
そうですね。模型ファンにはまだまだ男性が多いですが、道具や塗料などはさまざまなクラフトで活用していただくことも多いようですし、「タミヤデコレーションシリーズ」といった、女性にも親しみやすいラインナップも拡充しているところです。
フェイクスイーツ制作に特化した塗料や粘土などを揃えた、「タミヤデコレーションシリーズ」は、ハンドメイド作品を手がける作家さんの間でも注目を集めています。
そのほか、プラバン、接着剤、ヤスリ、用途別のハサミ・ピンセットの各種など、豊富な道具・素材が所狭しと並べられています。
「タミヤの道具」と言えば「塗料」のイメージが強かったのですが、幅広い品揃えに驚きました。ものづくりが好きな方にはたまらないスポットですね。
山本さん
どれも、模型工作をたのしむための道具ではありますが、ものづくりをされる方に幅広くご愛用いただけているのは、タミヤとしても非常にうれしいですね。
はじまりは、木を削り出す模型から
終戦間もない1946年に創業し、製材業の傍ら模型教材を手がけはじめた同社(当時は、田宮商事合資会社)。その後、模型専業となりましたが、イギリスで誕生したと言われる「プラスチック製の組み立て模型=プラモデル」が海外から輸入されはじめたことで、徐々に木製模型の売れ行きは低迷していったと言います。
とはいえ創業以来、木製模型をつくり続けてきたタミヤにとって、それらを捨て、製造方法もまったく異なる、高価なプラスチック製模型の開発に手を出すことは、簡単なことではなかったのです。
山本さん
それでも、1960年代からいよいよプラモデルの製造を開始したんです。日本でも新しいホビーとしてファンが増えはじめていましたし、木を削り出してつくる木製模型と比べて、金型を使用して製造するプラモデルは、やはり細部までとても精巧でした。
その精巧さも、うけていたんですね。タミヤも「プラモデル」の販売に踏み切られた。
山本さん
そうですね。軍艦や戦車といったプラスチック製の組み立て模型を販売しはじめ、同時に道具も拡充していきました。最初は、戦車のプラモデルを塗るためにスプレー塗料を発売したんです。
自分で着色するたのしみが広がっていったんですね。
山本さん
スプレーは、同色で全体を塗装するのには向いていますが、細かいところを塗ることができませんから、次は瓶入りで筆塗りするタイプのエナメル系塗料を販売しました。80年代に入ってからは、水溶性のアクリル系塗料も仲間に加わりました。
色のバリエーションは徐々に増えていったんでしょうか?
山本さん
まさにそうですね。最初は戦車を塗るためのミリタリーカラーやレーシングカーの色がほとんどでした。ぴったりの色がない部分は、「混色の指示」が書いてあるんですよ。たとえば「XF-1とXF-7を2:3の割合で混ぜたらピンク色になります」といったような。数学の公式のようなものがずらりと。
自分で混ぜ合わせなければいけないのは大変ですね。
山本さん
人によって色が変わってしまうことも多いですし、「専用の色が欲しい」という声がたくさんあったもので、「ずばり、この色」という色を調色して、プラモデルを発売するタイミングに合わせて、提供するようになったんです。
「再現する」ことの難しさ
調合など、塗料そのものの開発にも関わられることはありますか?
山本さん
模型は自社で開発していますが、工具類・塗料類はそれぞれ専門のメーカーさんにつくっていただいています。当然「タミヤ仕様」として、プラモデルや模型をつくるのに適したものを当社の開発のスタッフも関わりながらですが。塗料一本とっても、開発には手間暇がかかっていますね。
いちばんのご苦労はなんでしょう。
山本さん
色というのは、非常に難しくて。というのも、たとえば「第二次世界大戦中の戦闘機」と言っても、当然ながら当時の新品状態の実物は現存しないんですよ。博物館にあるものは、修復されていますし、当時の写真があってもモノクロだったり、正確な色はわかりませんからね。
そうか、本当ですね…。考えが及びませんでした。そういった場合は、どうやって定義・再現されているんですか?
山本さん
文献や資料を集めて、「おそらく、この色はこうだったんじゃないか…」と調べていくしかないわけです。たとえば、ドイツなどは昔から工業製品の色の規格がしっかりしているので、カラーチップや色見本みたいなものが残っているのでよくわかったりします。そういうったものを参考にすることもありますね。
はあ、そんなところにお国柄が出ているんですね。
山本さん
もうひとつ難しいのが、本物とまったく同じ色を再現しても、72分の1スケールの模型に塗って、本物と同じように見えるかというと、必ずしもそうではありません。
72分の1サイズだと、ずいぶん遠くから引いて見た姿である必要もありますね。
山本さん
そうなんです、「模型としてのリアリティ」を考えた調色を行うことも、大切だったりしますね。ほかにも、特別な調色を行う場合があります。たとえば、マツダの『ロードスター』という車の模型があります。この車は、とても複雑な塗装をしていて、下塗りの上に銀色の層があって、赤の層があって、クリアの層があって…と反射をコントロールするための技術が駆使されているんです。何層にも重ねて着色されているからこその、深みがある。光の当たり方によって、いろんな赤に見えるんですね。そこで、本物とおなじとは言えませんが、その雰囲気を再現した「ピュアーメタリックレッド」というスプレー塗料を開発しました。それで満足できない方は、ぜひオーバーコートとして「クリヤー」を重ね塗りして磨き込んでいただけると、さらに近いイメージになると思います。
改めて、調色や着色の奥深さを感じます。
山本さん
説明書には書いてないけど、これとこれを組み合わせるとこの色になるんじゃないかな?とイメージするのも、プラモデル製作のたのしみのひとつなんですよね。
戦車からタルトまで
そんな、プラモデルへの想いにあふれたタミヤが、「フェイクスイーツ」や「スイーツデコレーション」のラインを販売されはじめたのは、なにかきっかけがあったのでしょうか?
山本さん
これは、おもしろいもので、我々が「どうですか?」と提案する前に、作家の皆さんが、プラモデルの塗料や道具などを転用してスイーツデコレーションに生かしてくださっていたんですね。それを我々が、後から知ったわけです。
実は、わたしも小学生のころミニチュアのドールハウスをつくっていて、父の部屋からタミヤの塗料をよく盗み出していたんです…。
山本さん
そうでしたか!(笑)。弊社の女性のスタッフにも、スイーツデコレーションが好きな人たちがいて。アイデアや経験を聞いていると、やはりそういう話がたくさん出たんです。
ネーミングがいいですね。
山本さん
ありがとうございます。難しいことをしたわけではなくて、ご利用いただいていることを知って、より使っていただきやすく工夫をはじめた、といったところですね。戦車を塗るための「デザートイエロー」というアクリル塗料は、「タミヤデコレーションシリーズ」では、「ミルクティ」です。
同じ色なのに、大きな違いですね(笑)。
山本さん
そうでしょう。接着剤としてご利用いただいていたものが、「スイーツデコレーションで使えば、クリームに見える」ということもある。ジオラマの「雪」を表現するための塗料も、「砂糖」になる。戦車の「汚し」に使う塗料も、クッキーやタルトのおいしそうな焼き目になる。発想を変えるだけでいろいろな表現ができるわけです。ハサミ、ピンセットなども、模型工作に必要なものは、精密で正確でストレスのない使用感のものが多いですから。模型用のツールと相性の良いクラフトは、ほかにもたくさんあったんですね。
「逆作動のピンセット」。つまむときに力を抜く、という逆作動のため、つまみ細工やビーズを扱う作業などにストレスが少なくおすすめ。
一層求められるようになったことで、徐々に、スイーツ専用の商品も増えてきたんですね。
山本さん
より便利で、「こんな道具や素材が欲しかった!」というものも提供できるようになってきたと思います。
体験と時間を提供する
これだけのラインナップですから、組み合わせや工夫次第で、自分だけのたのしみ方をいくらでも発掘できそうですね。
山本さん
そうですね。どのプラモデルも組立説明書が入っていて、「1番はこう組み立てます、2番は…」と丁寧な指示はあります。もちろん、そのとおりにつくってもたのしいですが、その手順や工程だけが正解ではないんです。極端なことを言えば、色を塗らなくたっていいわけです。その人がつくってみて、形や構造をおもしろがって、「ああ、たのしかった」と思っていただければ、それでいいんですね。満足な時間を提供できたということですから。
すべて、委ねられているんですね。
山本さん
そしてさらに、違う色を塗ってみよう、プラ板やパテを使って形を変えてみよう…、そういった創意工夫で自分なりのたのしみ方を増やしていくことが、模型、ホビーの醍醐味だとも思います。そんなときにいろいろな道具が揃っていれば、そのたのしみをサポートできる、後押しできるんです。
山本さん
子どものころの原体験って、上書きされずに、一生残るものだと思います。失敗することがあっても、そのつくる過程をたのしんで「思い描いたとおりにできた!」という体験を提供したいじゃないですか。工具や塗料は、本当に品質にこだわってつくっています。お子さんから大人まで、「タミヤのマークがついているものであれば、安心して使える」、そういう存在でいられるよう、常に努力していきたいですね。
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