今週の言葉
2018年4月、アートプランター作家・echidna-jinさんのご自宅にお邪魔しました。
ご夫婦で暮らされている、日当たりのいい一軒家。
リビングの壁一面に設えられた棚はマス目のように区切られていて、そのひとつひとつに寄せ植えがほどこされた不思議な作品たちが、しっくりと収められています。
「いちばん左の1列は妻の作品です」
そう言って奥さまが手がけられた造形作品も紹介してくださいました。
これまで、一緒に作品を制作されているご夫婦や、イラストと刺繍、といった具合に異なるものづくりをそれぞれに取り組まれているご夫婦とはたくさん出会ってきました。
しかしこのおふたりは、ご自宅の一室をアトリエにして椅子と椅子を隣に並べ、アートプランター作家として、それぞれの作品制作に取り組まれています。お話をうかがい、そんなおふたりの関係性をわたしはとてもおもしろいと感じました。
これからつくりたいものや展望を積極的に話すご主人、
広がるアイデアは、胸の内に秘めているという奥さま。
川まで出かけて一緒に素材を探し、道具も時間も共有しながら、それぞれの感性でそれぞれの作品に取り組むのです。
そしてご主人は、こんなことも話してくださいました。
「客観的な意見を求めて『どっちがいいと思う?』と聞くこともありますし、『彼女にはどう見えてるんだろう』と確かめたくなることもあります。自分だけの感覚で続けているとわからなくなってしまうこともあるので」
何気ないひと言でしたが、それは「ふたりでいること」の、とても大きな魅力であるように感じました。
いつもそばに、「他者の目」として作品を見つめてくれる相手がいるということ。
そして、その他者は同じ造形のプロフェッショナルであり、もっとも信頼を寄せ、分かち合えている相手であるということ。
ものづくりは時に孤独です。
わたし自身も執筆していて、暗闇の中で出口をさがすような、なんとも不安な想いで頭を抱えてしまうことが少なくありません。
「彼女の目には、どう映っているのか」。
そのお互いの目を含めた「作り手」になれていることが、本当にうらやましく、そして互いが互いの大きな刺激になれている、ということもとても幸せなことだと感じました。
素敵なおふたりのお話をうかがい、電車に揺られながらとてもうれしい気持ちで帰ったことをおぼえています。
同時に、いつも自分が書いたものをいつも読んでくれる人。さらに一歩踏み込んで、「こうするのはどうだろう?」と話してくれる人への感謝の気持ちでいっぱいになりました。
懸命に取り組む人のそばには、「見つめてくれる人」が必要なのかもしれません。
アートプランター作家echidna-jinさん「となりで生み出す、夫婦それぞれのものづくり」
”心の栄養になるような造形”をコンセプトに、奥さまといっしょに制作活動に没頭する、echidna-jinさんのアトリエにお邪魔してきました。
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来週の言葉もおたのしみに。
文 / 中前結花 イラスト / 絵と図 デザイン吉田
今週の作り手 / echidna-jin
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