今週の言葉
2018年12月、手織り作家・あかしりょうこさんの取材記事を掲載しました。
機織り機をカタカタと動かし、ストールやバッグを制作されているあかしさん。以前から気になっていた作家さんで、編集部のスタッフ(福岡に1名ライターがいます)がご自宅にうかがい、取材してきてくれました。
とてもたのしみにしていたこともあり、吸い込まれるようにはじめて原稿を読んだ際のことを非常によく覚えています。
もとより、わたしはものづくりに夢中で取り組まれている作り手の方々に、とても大きな憧れを抱いています。
もちろんそれは「わたしには到底できそうもない」、そんな、技術やセンスやひたむきさに感じる「尊敬」や「羨望」といったさまざまな想いが重なったものだと思うのですが、この原稿を読み終わってはじめに口にした「ああ、うらやましい」という言葉には、なにやらもうすこし違った意味合いも含まれていたように思います。
何度も読むうち、わたしが強く「うらやましい」と感じたのは、あかしさんが手にされた「出会い」だったのだと腑に落ちました。
あかしさんはドライブの途中で偶然に機織りの現場と出会い、突然と惚れ込み、夢中に。そして、朝から晩までカタカタと織り進める毎日を送りはじめたのだと言います。
「そのころには『もう自分にはこれしかない!』っていうくらいの気持ちになっていましたね。
すべてと突き当たるにはあまりに短い一生で、いったいどのくらいのひとがこれほど「夢中になれる」「これだ!」と確信できるものと出会い、実際に取り組めるのだろうか、そんなことを、わたしははたと考えてしまったのだと思います。
完成するまで全貌は見えないという機織り。
「前に前にと進めていく織物は、大げさにいうと『人生そのもの』という感じ。過去は振り返れませんからね。
出会うべくして機織りと出会い、前へ前へと新たな作品を生み続けるあかしさん。その作品と手にする誰かとの出会いもまたおもしろいものだとしみじみ感じました。
とても力強い言葉です。
そしてこうして、ものづくりや作り手を通してなにかを学び、書きすすめているときの自分についても改めて考えてみるきっかけをもらいました。
悩むことはあれど、ようやくたどり着いた、わたしがいちばんたのしいと感じる仕事です。
まるでひと目惚れのように「これだ!」と確信できる出会いもあれば、「なんとか大事にしたい」とカタカタと地道に前に進めることで成就できるような、そんな出会いもあるのかもしれません。
織り成し方は違っても、それぞれにそれぞれの幸せな出会いがきっとありますように。
手織り作家・あかしりょうこさん「糸を愛する気持ちを作品にのせて」
糸を使った制作しているあかしりょうこさん。機織り機との出会いや、ものづくりへの想いについてうかがいました。
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来週の言葉もおたのしみに。
文 / 中前結花 イラスト / 絵と図 デザイン吉田
今週の作り手 / あかしりょうこ
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