作品の物語
minneが誕生したのは2013年のこと。たくさんの作家さんに恵まれ、想いを込めた作品のひとつひとつが集まって、このたびminneの公開作品数が1,000万点を突破しました。
多くの作品が日々生まれていく中でも、はじめて制作した作品、転機となった作品など、作家さんにとっての特別な作品があるに違いありません。そこでSNSにて作家さんにとってのかけがえのない「1,000万分の1作品」を募集。その作品にまつわるエピソードを語っていただきました。
まるぺさんの
「手帳型スマホケース」
半年かけてやっと、
— まるぺ プレ企画開催中! (@pmaruru88) 2019年6月18日
作る事ができた手帳型ケース。
資材の提供を何件も断られる中、出会った印刷会社さん。資材を分けてくれるだけでなく印刷技術まで教えてくれた。
「もう作れないかも」何度も思った作品は沢山の方の支えで実現しました。
https://t.co/0DKACP8pH7 #ミンネ1000万分の1作品 pic.twitter.com/fqfrHId0lX
結婚を機に退職するまで、デザインひと筋で働いてきたわたし。最後に勤めたのは洋服につけるボタンなど、付属品を生産する町工場でした。そこは、自社でいちから「もの」をつくり上げる“一貫生産”を軸としていて、デザインや企画に携わる中でわたしは「ものづくり」のたのしさ、奥深さを知り、虜になっていました。
だからこそ知っていた「たのしい」だけで成立する世界ではないということ。ところがなぜか夫は自信満々の様子で「やるならとことん。印刷機を買おう!」と言うのです。
たのしそうに提案してくれる夫の横で、わたしの「本当につくれるの?」という不安は徐々に「もう一度ものづくりをたのしみたい」という気持ちに変わっていきました。
ところが、その道のりは想像以上に困難なものでした。手帳型の真っ白な良質なベースを、安定した量確保するために、スマホケースの印刷を請け負っている企業に片っ端から電話をかけては、断られる日々。ネット上のほぼすべての企業に電話をかけ終えてしまい諦めかけたとき、偶然にも「印刷ベースの制作を試行錯誤しながら行っている」と紹介している、とある印刷会社のブログを見つけたのです。
作品はひとりで考え、生み出すものだと思っていたけれど、たくさんの人と人の繋がりが叶えてくれるものづくりもあります。「まるぺさんの手帳型ケースが欲しいんです。何年でも待ちますよ」とあたたかい声をくださったお客さま、前職で培った「ものづくり」への姿勢、印刷会社社長さんのやさしさと励ましのおかげで、諦めずに作品を完成させることができました。再びものづくりのきっかけを与えてくれ、完成までを見守ってくれた夫にも感謝です。
最近は、子どもが生まれたことをきっかけに新たな機械を導入し、子育てママさんに寄り添える作品をつくりはじめました。ベビー服やスタイ、一緒にお出かけをたのしめるようなミニバッグ、親子でお揃いコーディネートができる幅広いサイズ展開のTシャツなど。これからも失敗を繰り返しながら技術を身につけ、いろんな人と繋がりながら「ものづくり」をたのしんでいけたらと思っています。
まるぺさんにとって「手帳型ケース」は、たくさんの人の支えがあったからこそ実現できた、かけがえのない作品でした。
Your Side Doorさん
「蝶番のレザーブックカバー 」
こっそり作ってました。
— Your Side Door (@Your_Side_Door) 2019年6月24日
蝶番のレザーブックカバー Brown(https://t.co/8IBVlDlxx8)です。
最初は6年前。革で蝶番を作るアイデアにワクワクしていました。
ですが、おいそれと研究に使えない高級素材。
そんな中友人が門出として半頭分の革をプレゼントしてくれたんです。#ミンネ1000万分の1作品 pic.twitter.com/TZfjcGJxBi
充実した時間を過ごせたセミナーも1年で終了。それから間もなくして、わたしは緊急入院をすることになってしまったのです。そして医師から病の特徴や生存率について聞かされるうち、「定年後のたのしみと思っていたことを、今すぐやろう」と決意することとなりました。
東京から故郷である那須に戻り、療養と革作品の制作の日々がはじまりました。
「何かおもしろいものをつくりたいな」と日々、思考をめぐらせる中で、心がときめくある企画を思いつきました。それは「決まった素材のものを革でつくってみる」ということ。以前にもサイコロや腕時計ベルトのコマを革でつくったりしていたわたしが、そのときひらめいたのは「革の蝶番で開閉するブックカバー」のアイデアでした。とはいえ、求める強度の革は簡単に手に入るものではなく、また、試作分と作品分という量を準備することも難しく、アイデアはあるものの実際には一歩踏み出せずにいました。
寒さがもっとも厳しい2月のある日、セミナーで出会ったあの友人から「転居祝い」が届きました。それは牛の半頭分、半裁(はんさい)と呼ばれるサイズの大きな貴重な革だったんです。「こんな作品をつくりたいけれど、素材の調達が難しくて」と伝えていたわけでもないのに、です。まさかのプレゼントに驚いてしまいました。そのときのうれしさは忘れられません。
自分の中で「もっともっとたくさんの作品を永くつくっていきたい」という欲も生まれ、体力づくりも課題にしながら制作するようになりました。
今は、革細工のキットづくりにチャレンジしています。“はじめてでも、忙しくても、道具がなくても始められる”を心がけたミニチュアの靴やカバンのキットです。会社員の頃のわたしたちのような人にもたのしんでもらえるよう、工夫をしながら制作に励んでいます。
Your Side Doorさんにとって「蝶番のレザーブックカバー」は、友人からの門出のプレゼントがあったからこそ完成した、奇跡の作品でした。
ひとつひとつの作品に、まつわる物語があります。Twitterでハッシュタグ「#ミンネ1000万分の1作品」で検索をすると、さまざまな作家さんの「作品」に関するエピソードをご覧いただけますのでぜひ、チェックしてみてください。
取材・文 / 西巻香織