インタビュー

ものづくり探訪「1パーツずつ、手でつくる。オビツクオリティ」

日本には、誇るべき文化や芸術と、それにともなうたくさんの「技術」があります。逸品が生まれる、ものづくりの現場を訪れ、制作の背景やつくり手の想いに迫る「ものづくり探訪」。今回向かった先は、メイドインジャパンに徹底してこだわり続け、ドールやフィギュア界で躍進を続けている「オビツ製作所」です。

「オビツクオリティ」

今回訪れたのは、葛飾区の金町にある「オビツ製作所」。1966年創業の老舗で、ソフトビニール素材を使った“ソフビ人形”をはじめとする、精巧な玩具・製品を数多く手がけられています。

本社に入ると、多種多様なお人形がずらり。誰もが知るキューピー人形(正式名称:オビツキューピー)もすべてここ、オビツ製作所で制作されているんです。

「実はこれらの人形は、一体一体すべてメイドインジャパン、メイドバイハンドで、職人の手でつくられているんですよ」。話してくださったのは、副社長の牧有里子さん。

もともと葛飾区の地場産業だった玩具の輸出をきっかけに、製造販売をスタートされたという同社。創業当初から「メイドインジャパンにこだわる、心を込めたものづくり」を企業理念として質の高い製品をつくり続けてきた結果、今では海外にまで認知が拡大。その品質の高さは「オビツクオリティ」と呼ばれ、ドールやフィギュアなど、いわゆるソフビ人形業界をリードし続けています。


「質のいい製品と呼ばれる所以は、職人たちの高い技術力と、スタッフの厳しい品質チェックにあります。うちでは“スラッシュ成型”と呼ばれる、金型から原料のソフトビニールを引き抜いてつくる技法をメインにしているのですが、そのためには職人の熟練した技術が必要不可欠。彩色、組み立てを行ったら、スタッフが完成品をひとつひとつ、手で触り、目で見て、検品チェックをしています。パッと見ただけではわからないような小さな傷も見逃しません」。

オビツ製作所で用いられているのは、金型に原料を流し入れて硬化させて引き抜く「スラッシュ成型」。360度どこにも継ぎ目ができず、とっても滑らかです。

「すべてを美しく」。この想いが職人、スタッフ全員の心の中にしっかりと根付いているのです。


「手づくり」の価値

2代目社長の尾櫃充代さんにもお話をうかがいました。
製造業は、機械を使って同じものをつくり続けることが一般的ですが、オビツ製作所では「お客さまの声」を大切にし、要望に応え続ける中で、新しいことにもどんどん挑戦し続けてきたのだと言います。「うちはかなりアナログな方法で製品をつくっていますけれど、人の手でつくるからこそ、“どうやってつくったの?”というような前例のないデザインやかたち、特殊なこだわりにも対応できるんですよ」。

職人、スタッフの技術とプライドが生んだ、さまざまな製品の中からその一部をご紹介。

36もの関節が可動する「フル可動キューピー」。躍動感あふれる、さまざまなポージングが思いのままに。

主婦の友社発行のムック本『かぎ針で編むキューピー人形のかわいいお洋服キット』は、キューピーファンの間で「これまでにない本」と大好評。付属のオビツキューピーに加えて、かぎ針や毛糸も同封されており、さまざまなお洋服をつくって着せ替えてたのしむことができます。

他にも、透明タイプ(クリアキューピー)、二重構造タイプ、ちょんまげ、マーブルカラーキューピーなど、遊び心あふれる製品がたくさん。誰もが知っている人気キャラクターや海外アニメのフィギュアなど、OEM製品もずらりと並んでいました。これまでに手がけられた製品は数えきれないほどだそう。

「わたしは、人の手でつくるものづくり、というものはずっとなくならないと思うんです。機械は機械のいいところがあるけれど、人の手、というのはやはりどこか違う魅力があるんですね。オビツ製作所はこれからも、みなさんによろこんでもらえることを一番に考えて、新しいものづくりを続けます。“困ったことがあったらオビツに行こう”“オビツにちょっと相談してみよう”とお客さまに思っていただける会社でありたいですね」。

ここで、本社の隣に構える工場に移動し、実際に制作の様子を見せていただくことに。


加減を見抜く

足を踏み入れてびっくり。そこには、室温50度前後の空間でひたすらにものづくりに励む職人の姿がありました。原型製作から成型、彩色、組立、完成まで、すべてを一括して行うオビツ製作所。今回は、成型作業の一部を見せていただきました。

スラッシュ成型の工程は大きく分けて8つ。ソフトビニールの原型を金型に注入したら、遠心機に設置し、気泡を取り除いていきます。注意深く脱泡を見つめるのは、生産部の期待のホープ、田村駿也さん。「たとえばあまり意味のないようなパーツだとしても、そのひとつひとつにしっかり向き合って、こだわって、力を注いでつくる。そういうものづくりが好きなんです」。

不要な原料を除いたらさらに熱を加え、冷却します。

冷却時間は短すぎても長すぎてもNG。より美しく原料を引き抜けるタイミングを見計らうのも職人技のひとつ。真剣な眼差しで引き抜きのタイミングを読んでいるのは、生産部主任の廣瀬竜次さん。

「手で持った金型の重さや感じる温度、硬化したソフトビニールの感触など。成型は全身を使って作業をするようなものなので、感覚を研ぎ澄ませられるよう、自分の健康を第一に製作をしています」。

同じかたちですが、一度に大量に機械がつくっていると思ったら大間違い。オビツ製作所では、こうしてひとつひとつ、職人の手で各パーツをつくりあげているのです。


「いいもの」を

生産部のリーダーを務めるモハメド・ウラ・ワヒドさんは、海外にも出荷される工業製品を制作していました。「原料を流し入れると70度近い金型を、その日の室温や湿度のバランスを見て、よりよい角度で引き抜いていきます」。細長い絶妙なフォルムを手作業で同じような見た目、重さに仕上げていくのはまさに熟練の技。

一方こちらはローテーション成型と呼ばれる、大型成型のための回転炉。従来にない大型のドールやフィギュア、ロボットやディスプレイを製作することができます。担当する製造部 成型課の主任、鈴木政吉さんはこの道50年の大ベテラン。70歳を超えてもなお、大きな道具を軽々と使いこなし、黙々と製作されていました。

「ここはつくるものの種類が本当にたくさんあるんです。だから、大きさやかたち、厚さによって硬化や冷却の時間を調整してやる。そのへんはもう、長年の勘だね」。


ふと天井を見上げると、これまでに製作されてきた金型がずらり。ひとつひとつに、職人の試行錯誤が積み重ねられていることを思うと、一層圧巻でした。


ここからさらに、彩色、組立、その間に厳しい検品を重ねて、ようやく完成品に。1体にこんなにも人の手、時間がかけられているなんて、と驚くばかりです。

社長や4人の職人さんをはじめ、みなさんが声をそろえて仰るのは「自分たちは“いいもの”をつくるんだ、つくっているんだ」ということ。シンプルな言葉の中に、製品への惚れ込みとまぎれもない誇りを感じ、うかがったわたしたちも心底惚れ惚れとしてしまうのでした。

次回の探訪もおたのしみに。

株式会社オビツ製作所
住所:葛飾区金町4-4-11
電話:03-3600-2561
URL:https://www.obitsu.co.jp/

※「オビツ」は、株式会社オビツ製作所の登録商標です。

ハンドメイドとオビツ®️の世界
「オビツ製作所×minne」の特設ページを公開中。ぜひご覧ください。

取材・文 / 西巻香織    撮影 / 真田英幸

【連載】ものづくり探訪
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