応募はこちらから
「覆い隠す」は「貼ってたのしむ」に
「マスキング」とは「覆い隠す」こと。もともとは、塗装の際に着色したくない部分をカバーするための道具であったマスキングテープが、今やそのデザイン性や使い勝手の良さから、ラッピング、デコレーション、備忘メモ…と、さまざまな用途で使用されるようになりました。
「きれいに貼って、きれいに剥がせる」。本来の用途を超え、さらには文具好き、クラフト好きにとどまらず、日常のさまざまなシーンで必要とされるアイテムとなったマスキングテープ。
その王道とも言える「mtブランド」が今回の主役です。オリジナルデザインを生み出し続け、たくさんのファンに支持される「mt」の裏側を、ほんのちょっと覗かせていただきました。
「mt lab.」
お邪魔したのは、東京・蔵前に構える「mt lab.(エムティラボ) 」。ガラス張りの向こうに見えるのは、ずらりと壁一面に並ぶマスキングテープの数々。ひっそりと閑静な通りに面した店舗ですが、思わず浮き足立ってしまうような光景です。
ずっと、訪れたいと思っていました。
阪本さん
ありがとうございます。たくさんあるので、ぜひゆっくりご覧ください。
まだ開店前の店内で、カモ井加工紙株式会社で「mt」を担当されている阪本さんにお話をおうかがいしました。
壁一面に試験管が並ぶ実験室
それにしても見事ですね。ずらりと並んでいると、あれもこれも欲しくなってしまいます。
阪本さん
合計1,000アイテム以上あって、この壁にはとても収めきれないので、定番のものや人気のものだけを集めて並べています。以前はシリーズごとに並べていましたが、今年から色別に並べるようにしたんです。
離れて見るとグラデーションのように見えて、素敵ですね。これは、どういう仕組みですか?
阪本さん
筒と底板だけなので、下の隙間からこうしてシュッと引き抜くんです。
(やってみて、)気持ちいいですね。
阪本さん
ちょっと快感ですよね(笑)。このディスプレイツールは、lab.用につくったものなんですよ。「ラボ=実験室」らしく、「試験管」をイメージしているんです。
ああ、本当だ。カラフルな試験管に見えてきました(笑)。このlab.は、販売店としても機能しているようですが、それ以外に「実験室」のような役割も持ってるんですか?
阪本さん
まさに「実験」はよく行なっていますね。開発したばかりのアイテムを先んじて並べたり、限定販売としてまずはこのラボで売れ行きを確認したり。展示企画もたくさん実施していて、いろんな角度から「mt」を知っていただくことができる場所になっているんです。
白い壁に白い床、きれいに整頓されたテープのボックスたち。まさに「実験室」のような無機質さが演出された空間は、カラフルなマスキングテープの魅力を一層引き立てているよう。
ここでしか出会えないオリジナルアイテム
入り口近くのスペースでは、これまでに全国各地で開催されたイベントのバナー(横断幕など)を再利用してつくられたバッグを紹介する「mt バナーバッグ 展」が催されていました。※終了日未定
数ヶ月単位で、いろんな企画を実施されているんですね。
阪本さん
アイデアを出し合って実現するものもありますし、明確に挑戦したい、試したい、という企画を持ち込んで実験のように実施することもあります。新しい取り組みについて「まずは、lab.で試してみる」というのが、すこしずつ根付いてきたように感じますね。
三角形のマスキングテープははじめて見ました。これも「実験」のひとつでしょうか?
阪本さん
そうなんです。壁面は定番の流通品ですが、このテーブルに並べているもののいくつかはlab.限定品になっていて。三角形は、わざわざこの商品のためだけに芯をつくっているんですよ。
これからたくさん流通する可能性もあるわけですから、とても貴重なものに触れさせていただいているんですね。想像したこともありませんでしたが、たしかに転がってしまう心配がなくて便利かもしれません。ほかにも、変わったデザインはありますか?
阪本さん
これなんて、どうでしょう?白と赤のストライプ。
…一見は、普通のデザインに見えます。しかし、値段が他のものよりも少々高いですね。なにか秘密があるんでしょうか。
阪本さん
開店前なので、ちょっとシャッターを閉めてみましょうか。
そう言って、シャッターを閉め電気を消してしまった阪本さん。
わ!びっくりしてしまいました…(笑)。とっても明るいですね。
阪本さん
光を蓄えて光るんです。これは店内の明かりを全部消さないと見えないので、普段はスタッフしか見れない光景ですね(笑)。朝の光を蓄えて夜光る。工事現場で使えるかもしれない、と企画されたものですが、mtのユーザーさんはどんな反応をしてくださるだろうと置いてみているんです。
本来の養生テープとしての役割や目印としての役割も果たすものもある、と。
阪本さん
そうですね。特別な加工を施したものも含め、いろんなアイテムがここには集まっているんです。
この機械は何をするものですか?
阪本さん
「ミニリワインド機」と呼んでいるもので、「リワインド」というのは「巻き直す」という意味です。マスキングテープって、最初の製造過程では、丸太のように太いところから始まるんですよ
それを切断しているわけですか。
阪本さん
そう。細いサイズの芯に巻きつけて、定番のものであれば10mや7mにカットします。その巻き取りと切断を、この機械で実演することができるんです。実際の制作過程では、もっと巨大な機械を使用していますが、「ミニ」を使ってみなさんにご覧いただいているんですよ。
カットする場所によって、絵柄の出方が変わるものもありますよね。
阪本さん
そこも、おもしろいところですよね。みなさん、ここでじっくりと選ばれています。
支持され続けるデザインとは
人気の色味や絵柄には、傾向があったりするものでしょうか?季節ごとに変動があったり。
阪本さん
常に、売れ行きのランキングで動向を見ていますが、やっぱり「殿堂入り」しているような、不動の人気デザインがいくつかあるんですよ。他のものが動いても、その人気者たちは動きません(笑)。
すごく気になります(笑)。1位を伺ってもいいでしょうか…?
阪本さん
1位は、なんと「マットホワイト」、無地の“白”なんです。
驚きました、“無地”、それも“白”ですか?
阪本さん
こんなにたくさんのデザインがあるのに不思議ですよね(笑)。だけど、理由はたくさんあって。ひとつは、文字を描きやすいということ。メモやラベルとして使用されている方もたくさんいらっしゃるので。事務のお仕事をされている方は、FAXするとき、修正テープの代わりに、見せたくない箇所にだけ貼って、FAXしたあと剥がすとおっしゃっていました。
まさに、「マスキング」としての用途なんですね。
阪本さん
それに、本格的なデコレーションをされている方は、マステの「透け」を気にして、まずは「マットホワイト」を下地として貼って、その上から絵柄のものを貼るそうなんです。
そんな使い方があるとは。聞いてみないとわからないものですね。そのほかの殿堂入りはどんなラインナップでしょうか?
阪本さん
同じような理由で無地の黒、それから桜デザインのものも通年でずっと人気ですね。アルバムづくりやコラージュで利用いただいているんだと思います。
阪本さんのおすすめはありますか?
阪本さん
わたしですか?悩みますね…。メモとして使用することも多いので、白や淡い色のドット柄は重宝していますね。あとは方眼のデザインのものとか。いつも、忘れちゃいけないことをマステにメモして、PCにペタペタと貼っているんですよ。いろんな使い方があるのが、やっぱりおもしろいですよね。
1,000以上のデザインを生み出す
1,000以上のラインナップがあるとのことですが、このひとつひとつの絵柄やカラーのデザインはどのように制作されているんですか?
阪本さん
デザインはすべて、「(株)イヤマデザイン」さんにお願いしているんです。グラフィックデザイナーでアートディレクターでもある居山浩二さんの事務所で、居山さんの監修を通していないデザインは、「mt」にはほとんどないんです。
大河ドラマのビジュアルや企業のプロモーションなどたくさん手がけられていてお忙しいと思いますが、これだけのデザインを生み出し続けられているのは本当にすごいですね。カモ井加工紙さんの方から「こんなデザインをつくってほしい」とオーダーすることはあるんでしょうか?
阪本さん
我々は、ユーザーさんの声を聞く機会を持っているので、それを元にご相談したり、一緒に話しながら共同でやらせていただいているようなイメージですね。
アーティストやブランドとのコラボもありますよね?
阪本さん
そうですね。これまでに、「ミナペルホネン」や「リサラーソン」「ウィリアム・モリス」などたくさんのコラボアイテムも販売してきました。
それらも、居山さんが監修を?
阪本さん
はい、そうなんです。人気と伝統のあるブランドさんたちでもあるので、とても丁寧に扱っていただいています。居山さんのオリジナルとはまた違ったテイストなので、結果的にこれまでとは違ったお客さまにも手にとっていただけるきっかけになりました。
「mt」のはじまり
養生資材のひとつでありながら、今では女性へのちょっとしたギフトやお土産としても選ばれるようになったマスキングテープ。この変遷のはじまりは、従来の商品の「色展開」だったと言います。
阪本さん
カモ井加工紙としては、そもそも建築用と車両塗装用で展開していました。マスキングテープといえば、オーソドックスなのは、塗装のあとに剥がし忘れが起きにくい黄色や青。あとは絵を描く人は、キャンバスのフチに貼っておいて、完成後に剥がして、額が汚れないように使うじゃないですか。そういう場合は、テープの色が制作の邪魔をしないように白が使われているんです。
そこから色味を増やしていった結果、クラフト好きの方の目に止まった。
阪本さん
いえいえ。仕様は同じではあるものの、似て非なるものとして「mt」というブランドを立ち上げて、明確に文具雑貨の分野に足を踏み入れていきました。2008年のことです。
「mt」という提案をされたわけですね。
阪本さん
そうですね、ただ何をとっても初めてのことばかりで。販路がまったく異なるものですから、それを開拓しなければいけませんし、カラフルな10巻セットや2巻セットを制作して、やっぱり個包装で販売に切り替えて、などの試行錯誤が続いたそうです。
いちばんのご苦労はどんなところにあったんでしょう。
阪本さん
「マスキングテープって何?」という認知の部分だったと思います。それ自体をご存知ない方も多かったですし、知っていてもホームセンターに売られている職人さんが使うもの、画材屋さんで売られている絵を描く人が使うもの、というイメージしかなかったですから。貼って剥がせることの魅力を「壁にも貼ることができます」「持ちものをデコレーションできます」「スケジュール帳で予定が変わったときに、そのまま移せるよ」と具体的に提示していかなければいけなかったんですね。
まずは、カラフルなテープで「知ってもらう」ところからはじめて。
阪本さん
無地の20色から、ドット柄などシンプルな模様へと展開して。プロモーションイベントで好評だったアルファベット柄や葉っぱモチーフを取り入れて、徐々に増やしていきました。
ひとつの文化が生まれ、大きく育っていった11年の流れを感じ、改めて壁一面の光景にうっとりとしてしまうのでした。
使い手と一緒につくる文化
たくさんの人を惹きつけ、ファンを生み出すことができた理由はたくさんあると思いますが、特に大事にされてきたことを挙げるとするとどんなところでしょうか?
阪本さん
「mt」は、技術とデザインの2つで成り立っていると思うんです。しっかり貼れて、簡単にきれいに剥がせる、って本当はとても難しいことなんです。相反する強さを持っている。それは、カモ井加工紙が培ってきたマスキングテープの技術。そこに、イヤマデザインさんのわくわくするようなカラーや絵柄が重なって、確立できているものなんじゃないかと思っています。安心して使えるから、みなさんがいろんな用途で使ってくださる。たのしいデザインだから、いろんなシーンで選んでいただくことができる。
技術とデザインに、使い手のみなさんのアイデアや探究心が掛け合わせられて、無限大の広がりを見せているんですね。
阪本さん
まさに、使い手のみなさんが用途や使い方をどんどん見つけてくださるからこそ、これだけのアイテムが生まれたんだと思います。わたしたちだけでは到底、叶いませんでした。一緒に育ててきた、という感覚が本当に強いですね。
新しいシリーズも登場していて、今後の展開もたのしみです。
阪本さん
今は、ホームデコレーション用の「mt CASAシリーズ」を拡充しているところですね。これまでの知見を生かしつつ、和紙以外の素材でも制作していたりしています。随分と部屋の印象が変わるんですよ。みなさんのご自宅を、気軽に簡単に模様替えできるような、またたのしい文化をつくることができればいいなと思っています。
新たな提案に消費者が呼応し、一緒に「使い方」「たのしみ方」を見つけながら、ひとつの商品が人の生活に根付いていく。マスキングテープはそんな流れを辿って、こんなに身近な存在になりました。
阪本さん
今では新作をたのしみにしてくださってる方も大勢いて、本当にありがたいことですね。実験や挑戦を重ねて、今後もたくさんの方に愛される「mt」でありたいと思います。
今月のプレゼント
マスキングテープ詰め合わせ「mt lab.」限定商品を含めた、マスキングテープの複数点詰め合わせセットを抽選で10名様にプレゼントします。記事の感想を書いて、ぜひご応募ください。
- ・応募締め切り 2019年11月10日
- ・当選は発送をもって代えさせていただきます
- ・デザインは選べません、あらかじめご了承ください
締め切りました mt lab.(エムティ ラボ)
住所:東京都台東区寿3-14-5
営業時間:10:00〜12:00、13:00〜19:00
定休日:月・火曜
公式サイト:
http://www.masking-tape.jp/
取材・文 / 中前結花 撮影 / 真田英幸