インタビュー

ジュエリー作家・atelier mozuさん「子どもの目線で観察する」

シンプルながら生命力を感じさせる、印象的なジュエリーを手がけるatelier mozuさん。モチーフに選ぶのは「自然に生きる植物や動物の姿」。みんなが目にしている当たり前の風景を切り取り、作品に落とし込む術についてお話をうかがってきました。

ギャラリーを見る

「工夫」してつくる

お邪魔したのは、都内に構える少しレトロな建物の一室。「atelier mozu」のデザイン、制作を手がける秋田さんにお話をうかがいました。



落ち着いた雰囲気のある素敵なアトリエですね。

atelier mozu
ありがとうございます。壁は自分で色を塗って、オブジェをつくってディスプレイしました。部屋を仕切る壁もDIYでつくったものです。

ジュエリーだけでなく、身の回りのものも手づくりされているんですね。

atelier mozu
実家が下町のちいさな町工場だったんですよ。そこらじゅうにさまざまな工具があったので、遊び道具は自然と自分でつくるようになっていきました。ほしいものは自分でつくるし、何かが壊れたら自分で直す、というのが日常でした。

たとえば、どんなものをつくられていたんですか?

atelier mozu
インターネットの普及していない時代でしたから、自分で研究しては試行錯誤でいろいろつくっていましたね。板にクギを打ってパチンコをつくったり、泥で型をとって鉛を流し込んでルアーをつくったり。「よく観察して考えてつくる」とか「自分なりに工夫をしてつくりあげる」ということがたのしかったんですよね。それ自体が遊びみたいな感覚でした。小学生くらいの頃かな。

小学生で鉛を流し込んでいたとは、すごいです。

atelier mozu
いま考えると、割と器用なことしてたなぁと思いますね。でも大人になって就いた職業は「ものづくり」とは無縁の販売職や営業職でした。ただ常に、ぼんやりとどこかで「いつかは自分で何かをつくって売って暮らしたい」と考えていたんです。


挫折から作家へ



やはり、つくることがお好きだったんですね。

atelier mozu
そうですね。仕事にはしていなかったけれど、趣味で革細工をしていて。あるとき、お財布につけるちょっとした金具を自分でつくれないものかと思って、彫金の教室に通ったんですよ。そこで「これだ!」と思ったんです。

「これをつくって売って暮らしていくぞ」と。


atelier mozu
ジュエリー作家としてのイメージが直感的に広がっていきました。金属の板が立体的なかたちになっていく過程もおもしろくて、つくっていてわくわくするんですよ。ただ、1年間、教室に通ううちに、自分のレベルの低さを思い知ることになって…。自分には、決められた模様やかたちを見本通りにつくることはできない、難しいものはできない、といろいろ気付いていきました(笑)。

そこで「やめよう」とはならなかったのでしょうか。

atelier mozu
自分にもできるデザインでいこう、オリジナルでいこう!と思ったんですよ。そこで、ブランドを立ち上げることにしました。

atelier mozuのギャラリーカバー画像より

atelier mozu
「自分の技術でつくれるものを、できる範囲で、好きなデザインで」と潔く方向性を定めてスタートしたのがatelier mozuでした。ホームページに加えてminneにも登録をし、販売を始めたところ、「コットンパール特集」に作品が掲載されて。そこからすこしずつ売れていくようになったんです。

こちらがそのきっかけとなった「葉っぱとコットンパールのミックス」。街を散歩していて、ふと目にとまった街路樹をモチーフに制作されたそう。「身につけていないときも、置いてあるだけでも可愛いデザインがポイントなんです」と秋田さん。


自然は無限



atelier mozuさんの作品といえば、ボタニカルの印象です。

atelier mozu
もともと「自然」が好きで、モチーフのほとんどは植物や鳥などの生き物。モチーフが「自然」なら、そこらじゅうにあるので一番楽じゃないですか、デザインする前にじっくりと観察ができるし。

アトリエからも、四季折々さまざまな植物がたのしめるといいます。近くの窓に鳥がとまることもしばしば。

デザインに「観察」が入るというのは、幼少時のものづくり体験にルーツがありそうですね。

atelier mozu
たしかにそうですね。いろんな角度から見て、まずは観察してから、どうジュエリーに落とし込むかを考えているときがたのしいです。

デザインの元となるモチーフは、街中を散歩をしながらスケッチ感覚で描くそう。花びらの数など、厳密に観察を重ねます。

atelier mozu
図鑑や写真だと、その花の裏側とか真上から見た感じとか、大事な部分がわからないんです。自分で描くこと、その中で観察することで気づくことや見えてくるものがあるんですよね。あと毎回思うのは、いちばん美しいのは「自然に生きるそのままの姿」ということ。

お花でいうと、不均一だったり、満開ではなかったり?

atelier mozu
その通りです。同じ花でも本当にひとつずつ違いますから。atelier mozuの植物モチーフは、そこにこだわりを持ってつくっていますね。あえていびつなフォルムにしたり、咲く前のつぼみをモチーフに選ぶこともありますよ。


童心にかえる



多くの人は「満開の花」に目を奪われると思いますが、そこであえて「開く前のつぼみ」に目を向けられるのはなぜでしょう。

atelier mozu
頭の中が当たり前で埋め尽くされないように、たまに、童心にかえるようにはしていますね。

子どもの心…どのようにでしょうか。

atelier mozu
たとえば、自分が生まれ育った場所に行ってみたり、そこで景色をしゃがんで眺めたりする。地面に近い位置からいろいろ見上げると、いつもの景色が違って見えるんです。「これってこんなかたちをしていたのか!おもしろいな」って。そうやって意図的に子どもの脳にスイッチさせるようなことをすると、創作意欲も湧いてきますし、普段見ていないものに目がいくというか、あたらしい発見ができるようになる気がします。

子どもにスイッチ。おもしろいですね。

atelier mozu
あたらしい発見、というのは作品をつくり続ける中でも大切にしていて。とくに彫金は、途中で思いもよらないかたちになるところがおもしろかったりするので、工程のひとつひとつがいまだに興味深いんです。すこし作業風景をかいつまんで見ていきますか?

ぜひ、お願いします。

まず手に取ったのは、真鍮などの金属板。つくりたいモチーフの下書きをし、糸ノコや金属カッターで切断。

ガスバーナーで熱を加えて曲げたり、トンカチで叩いたりしながらパーツのかたちをつくり、接着して整えていきます。

時間、手間暇がもっともかかるのが最後の磨きの作業。あえて艶を出しすぎない絶妙な加減に仕上げます。

完成したのは人気作品のひとつ「もうすぐひらくつぼみのピアス」。エールを送りたいひとへのギフトにもぴったりの、華奢ながら生命力を感じさせるデザインです。


自然と一緒に



繊細な作品が多いので、やはりお客さまは女性が多いですか。

atelier mozu
うちは実は男性のお客さまも多いんですよ。プレゼント用に、と選ばれる方も多いですね。お花がモチーフでも、あまり可愛らしすぎないので、あげるほうもあまり気負わずにプレゼントできるのかもしれません。

ギフト需要に向けて、専用のラッピングもリニューアル。atelier mozuの世界観はそのままに、よりシックで大人っぽいデザインに。

作品がシンプルで上品なので、さまざまなタイプの女性に馴染むといいますか、よろこんでいただけそうですよね。

クリスマギフトにもぴったりの「ノースポールピアス」。粉雪が舞ったような白銀の花びらが目を惹きます。

atelier mozu
ありがとうございます。atelier mozuのジュエリーを、ご自身用にも、ギフト用にも、気に入って選んでいただけたらうれしいです。クリスマスにおすすめの新作も登場予定なので、ぜひギャラリーページをご覧いただきたいですね。

今後の夢や目標などはありますか。

atelier mozu
これからも変わらずに、植物をはじめとする「自然の魅力」を作品としてつくり続けたいと思います。目の前にある自然を観察してからつくるので、旬ではない時期に、季節外れのお花のモチーフが新作として並ぶこともあると思いますが(笑)。大目に見てたのしんでいただければと思います。

atelier mozu
植物や動物など、自然をモチーフにしたジュエリーを制作。
https://minne.com/@ateliermozu

取材・文 / 西巻香織 撮影 / 真田英幸

  • Xでポストする
  • Facebookでシェアする