おでかけ

時間のゆとりをたのしむ。青山の“万年筆”専門店「書斎館」

街中で見つけた、素敵なショップをご紹介します。今回訪れたのは、青山にお店を構える、万年筆の専門店「書斎館」。店内のショーケースには国内外のブランドや珍しいアンティーク品など、数々の万年筆がずらり。常設のカフェではドリンクを飲みながら、手紙を書くこともできるんです。

異空間へ誘う

青山の大通りから一本奥に入った道沿いに、まるで佇むかのようにひっそりとお店を構える「書斎館」。

庭から入り口まで足を進めると、異世界へワープしそうな1本の通路が。この通路を抜けた先に広がっていたのは......

美しい万年筆やインクが、ジュエリーのようにあちらこちらのショーケースにディスプレイされた、シックで優雅な空間でした。

「国内外の約30ブランドの万年筆を取り揃えております」。案内してくださったのはスタッフの杉田さん。書斎館は、もともと文具の卸(おろし)業を営む家庭で生まれ育ったオーナーが、多忙な日々を送る中で“時間のゆとりの大切さ”に気付き、それを万年筆を通して人々に発信したい、という想いで2001年にオープン。現在は、およそ2,500種類にも及ぶ万年筆、ペンを扱っているといいます。

インクを入れ替えて、お手入れをして、と万年筆はいわば手間のかかる道具。しかしだからこそ、落ち着いて自分を見直せる時間、しいては豊かな時間につながったりするもの。


「デジタルの目まぐるしさから、アナログがもつ心のゆとりへ」、「現実から一歩離れて」。そんな意味合いを込めて、お庭から入り口、入り口から店内へのステップも、あえて異空間へと誘うようなつくりにしたそうです。

時間を忘れて

書斎館を訪れるお客さんの滞在時間は比較的長く、気が付いたら4~5時間経っていた、という人も多いといいます。一見長く感じますが、それも納得できるほどに店内は見応えたっぷり。

インテリアや調度品は、オーナーが世界各国から集めてきたもの。「書斎館ではとにかくゆったりと過ごしてほしい、という想いから、ふと立ち止まって昔を思い出せるようなアンティーク品や、物語をイメージさせるようなアイテムが飾られています」。

店内の照明は明るすぎず、落ち着いた雰囲気に。床板はあたたかみのあるアンティークの木材を使用。

万年筆はブランド別のみならず、価格別に展開されたディスプレイも。

珍しいペンにもたくさん出会うことができます。「舞踏会」と名付けられた19世紀頃の細いペンは、実は分解するとブレスレットになる代物。

昔、舞踏会で高い人気を集めていた女性は、このブレスレット型のペンを身につけて踊り、男性からダンスの申し込みがあった際に、その場でペンを組み立てて、申し込みの順番を書き留めていたのだそうです。

「myth」は書斎館初のオリジナル万年筆。使い方がユニークで、まず、子どもが誕生した際にこのペンで子どもに向けて手紙を書き、三盆箱にペンと手紙を入れて20年寝かせます。

成人した子どもにプレゼントし、箱を開けてもらうと、スターリングシルバー素材ならではの真っ黒な変色をとげたペンが登場。それを磨くことで、空や雲、海などが浮かび上がるという仕組み。親の愛情とともに、改めて世界を見つめる、初心にかえるような気持ちが沸き起こりそうです。

その他、作家さんが手がける1点もののガラスペンや、ユニークなモチーフを元にしたデザインペンも。


眺めているだけでうっとりしてしまうような、おしゃれなインクボトルもたくさんありました。カラーインクや香り付き、暗闇で光るインクも。

万年筆の魅力

書斎館には万年筆の試し書き用スペースもあります。「通常、万年筆をお使いいただく環境は椅子に座った状態という方がほとんどだと思います。そこで、大きなテーブルを前に、椅子に腰をかけた状態で試し書きを行なっていただいているんです。よろしかったらどうぞ」。

書き味の違いが分かりやすい、日本、イタリア、ドイツの万年筆で試し書きをさせていただくことに。紙はツルッとした表面の上質紙と、すこし凹凸のあるジャンフェルトの2種を使用することができます。今回は、味わいのあるジャンフェルトをチョイス。

上から順に、日本の「パイロットカスタム74」、イタリアの「アウロラ」、ドイツの「ペリカン」の万年筆で線を書きました。その書き心地はというと、全く違っておもしろい!
硬さやなめらかさ、ペン先の沈む感じなど、その違いは歴然でした。

「それぞれの国で、『母国語を書きやすいように』と万年筆が改良されているので、種類としては同じ細字でも書き味の特徴はかなり異なりますね。アルファベットと漢字の文化の差です」と杉田さん。

ボディのビジュアルも、グリップを握った感じも、書き心地も全く異なる万年筆。さらに使い続けるうちに、手に馴染むようになるそうなので、書斎館を訪れた際には、必ず試し書きしてみることをおすすめします。

ちなみに、気になる“万年筆のお手入れ方法”や“よりよい使い方”についても聞いてみました。「水で洗浄することで長持ちする、置いておく際は横に寝かせたほうがいい、などいくつかポイントはありますが、いちばんお願いしたいのは『毎日使うこと』です」と杉田さん。


万年筆にインクを入れたら、毎日書くこと、使うことがいちばんのお手入れにつながるそう。インクの通り道に、しっかりインクを通すことで、長く美しい線を書き続けることができるのだといいます。

想いを綴る


最後に通していただいたのは、書斎館に併設されたカフェ「cafe library」。珈琲や紅茶など美味しいドリンクを飲みながら、書斎として本を読んだり、手紙を書くことができるスペースです。


調度品には、映画『プリティ・ウーマン』の舞台となったウェルシャーホテルの椅子や、ニューヨーク近代美術館永久保存モデルのテーブルが。上品で心地いい空間でした。

『週刊サンケイ』や『アサヒグラフ』など、昔懐かしい貴重な書籍も閲覧可能。

おしゃれなカードが並ぶほか、レトロな風景を切り取った47都道府県のポストカードも購入できます。

1872年製の珍しいスタインウェイ スクエア・ピアノの姿も。

このカフェは、店内で万年筆を購入された方向けかと思いきや、誰でも自由に利用可能なのだそうです。

「書斎館で万年筆やインクを購入し、珈琲を飲みながらお手紙を書かれる方もいますし、勉強をしに来られる学生さんもいます。ご自身の日記を書かれている方もいますよ。どなたでも自由にご利用ください」。

どこかノスタルジックで、落ち着いた雰囲気を持つ空間の中で、時間を忘れて数々の万年筆を眺め、手に取り、手間をかけて書く。書斎館では、日常ではなかなか味わえない上質な時間を過ごすことができます。

1年の中で最もせわしない年末年始こそ、足を運んで「ゆとりの時間」をたのしんでみてはいかがでしょうか。万年筆を片手に、大切なひとへのお手紙や、贈りものに添えるメッセージを、ここでじっくりと綴ってみませんか。

Pen Boutique書斎館 Aoyama
住所:港区南青山5-13-11 パンセビル1階
営業時間:11:00-20:00 
定休日:水曜日
公式サイト:http://www.shosaikan.co.jp/

取材・文 / 西巻香織   撮影 / 真田英幸

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