おでかけ

素敵な器でいただきます。vol.11「日本橋の料理店、ハシノクチ」

食事をするとき、その器が素敵だとおいしさも倍増するような…とってもしあわせな気持ちになりませんか。目でみてたのしめる、味わってたのしめる、そんな豊かな「いただきます」の時間を堪能できるお店をご紹介します。第11回目は、日本橋にある料理店「ハシノクチ」にお邪魔してきました。

「縁」こそすべて

水天宮前駅から徒歩3分。大通りからすこし入った静かな場所に、今回の目的地「ハシノクチ」はあります。

店内はカフェのようなシンプルな佇まい。営むのは橋之口夫妻です。「ハシノクチはご縁で成り立っているお店」なのだといいます。

「お店で使っている肉や野菜の仕入れ先は、会社員時代に参加していた朝活でのご縁を通じて、紹介いただいたところです。震災後のボランティアを通じて知り合った方が、お店をはじめるにあたり水産会社さんを紹介してくださったこともあります」。

「こだわりをもって、いい素材、食材を生産している方々に出会えたことで、その“いいもの”を損なうことなく、きちんとした食事としてお客さまに届けたい、と思うようになったんです」。

お店をオープンして5年。いいものをつくっている生産者がいると知れば、自らの足で会いに行き、想いを共有してこだわりの素材、食材を仕入れさせていただく。そうして過ごすうちに、ハシノクチには美味しい季節のお野菜や貴重な肉、希少なワインなど、全国から“いいもの”が集まるようになったそう。

各産地の旬のものが届くため、メニュー表は日々、書き換えられています。「このお店はノンジャンルと言っていいと思います。つくられる料理は多種多様。足を運んでくださった方が、思い思いの食卓としてたのしんでいただければうれしいです」。


きっかけをつくる

“いいもの”を届ける。それは、器にも当てはまることなのだそう。

「うちはいろんな作家さんのすばらしい器を使わせていただいています。ここで出会った器を気に入られた方がいれば『これは誰々さんの作品なんですよ』と紹介をして、その作家さんの個展に行くきっかけをつくることもありますし、『こんな風に使うんだ』という発見につなげてもらったり。それもまた、作家さんの器をお店で使わせていただいている者の役目だと思っているんです」。

店内の棚には、作家・鹿児島睦さんの陶器や、陶芸家・森岡希世子さんの白磁など、ファン必見の作品が並べられていました。

鹿児島さんの作品に至っては、珍しい立体のオブジェも。

「たまたま訪れた個展で、偶然この子と目が合って。それからずっと鹿児島さんの作品は購入しているので、初期作品も多数、手もとにあります。鹿児島さんの作品集に、飲食店として唯一掲載されるくらいなので、もうコレクターと言ってもいいかもしれません。鹿児島さんの器を見たい、という理由でお店にいらっしゃる方もいますから」。

鹿児島さんの作品に限らず、無類の器好きという2人がこれまでに集めた器は数え切れないほど。作家ものや民芸品など、お皿だけでも200枚ほどにのぼり、自宅には食器棚が3つもあるのだそうです。


直感の器選び

器を選ぶ基準は、「自分の中に引っかかるか否かのみ」と語る2人。「お皿との出会いもまた、ご縁」と、大きさや形を気にせず購入するため、お皿を重ねるいわゆる“スタッキング”がまったくできずに収納に困っているのだそう。

今回は、お店で実際に使われている器の中から、お気に入りをいくつか見せていただきました。

陶芸家・増渕篤宥さんの器たち。手作業とは思えないほどの繊細な線や文様にうっとり。細やかな技術が詰まった作品です。

ユニークな葉のようなフォルムの器は、陶芸家・秋谷茂郎さんの作品。手に持ちやすく、使いやすいところもポイントなのだそう。しっとりと落ち着きのある色味も美しい。

陶芸家・長田佳子さんの器は「練り込み」と呼ばれる技法で制作されたもの。異なる顔料を混ぜた粘土を重ねて層にしスライスして成形したあと、焼いて磨くという、手の込んだ逸品です。

独特の風合いがかわいい鹿児島睦さんの海老皿は、滅多にモチーフにしないレアもの。「同じモチーフでもそれぞれタッチや構図が異なり、印象が異なるところがおもしろいんですよね」。

お皿を眺めながら、何の料理を添えようかと想いを巡らせる時間もたのしみのひとつだそう。

本日、そんなハシノクチさんでいただく料理は、今イチオシだという煮込みメニューに決定です。

「今日は鹿児島さんの器と、福岡の小石原焼の器を使いたいなと思います。2017年の豪雨被害に負けずに制作されている柳瀬本窯元の作品です。応援の意味を込めて」。


器を愛でながら「いただきます」

オーダーからほどなくして、店内に美味しい香りが漂ってきました。

運ばれてきたお料理は「築地宮川砂肝の柔らか煮 ポルトガル風」と「自家製パン」。砂肝の柔らか煮は、夫妻が旅行でポルトガルを訪れた際に、あまりの美味しさに衝撃を受けたメニューを日本人向けにアレンジしたものなのだそう。自家製パンは、こねずにつくるというオリジナルレシピで誕生した、定番の人気メニュー。

素朴でかわいらしいデザインの器が、煮込み料理のほっこりあたたかな雰囲気にぴったり。パンを引き立てる鹿児島さんのシックな青もアクセントになっていて素敵です。

柔らか煮をひと口いただくと、砂肝とは思えないふわふわの柔らかさと、やさしいお出汁のような味わいに舌鼓。スープの味が染み込んだキャベツも最高で、パンとの相性も抜群でした。

「年末には長蛇の列ができる、築地の人気の鶏肉店から仕入れた鮮度の良い砂肝を使い、圧力鍋で1時間以上煮込んでいます。味付けは日本人の舌に合うようにアレンジしています。パンは低温長期熟成でつくったものなんですよ」。

食後に「よろしければ、こちらもどうぞ」と差し出していただいた、ラムを使った自家製クッキーと、お店の近くにあるガムツリーコーヒーカンパニーの深煎りコーヒーも絶品でした。

料理のひとつひとつに、食材へのこだわりや調理の手間暇、いいものをいい状態で、という想いがたっぷりと詰まっています。「このメニューがご来店の際にあるかどうかは、わたしたちにもわからないので、そこだけはご了承ください」とご主人。

ハシノクチを訪れる際には、その日そのタイミングでのメニューラインナップをたのしみに、素敵な器とともにご堪能ください。お料理も器も満足できること間違いなしです。お酒のラインナップもかなり豊富なので、お酒好きの方にもおすすめ。

さて、次回はどんな素敵な器とごちそうに出会えるのでしょうか。
乞うご期待。

ハシノクチ
住所:中央区日本橋蠣殻町1-19-3-1F
電話:03-6331-1647
営業時間:18:00~23:00
定休日:日・祝日
 
取材・文 / 西巻香織 撮影 / 真田英幸

【連載】素敵な器でいただきます。
  • Xでポストする
  • Facebookでシェアする