インタビュー

【連載】つくるしごと vol.7 平川雄一朗「映画『記憶屋 あなたを忘れない』を通して、なにか持ち帰ってもらうことができれば」

『JIN-仁-』『天皇の料理番』『義母と娘のブルース』…、数々のドラマや映画をヒットに導き活躍を続ける、監督・平川 雄一朗さん。現在公開中の映画最新作『記憶屋 あなたを忘れない』について、そして、監督としてのものづくりや俳優さんをはじめとするチーム(=仲間)とのお仕事についておうかがいしました。

【連載】つくるしごと:ものづくりを手がけるプロフェッショナルに、そのお仕事との向き合い方について、お話をうかがいます。
 
今回訪れたのは、撮影所としては、なんと70年以上の歴史を誇る「角川大映スタジオ」。映画『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年1月17日より公開中)の公開を間近に控えた、平川 雄一朗監督にお話をうかがうためお邪魔しました。メガホンを取る作品を次々とヒットに導き続ける平川さんですが、その姿勢はどこまでも謙虚。最新作『記憶屋 あなたを忘れない』のお話では、「俳優さんって、本当にすごいですよね」と語ってくれました。

人気作を次々と


年始は、『義母と娘のブルース』(TBS)のスペシャル版から始まり、作品が立て続けに公開され、とてもお忙しそうですね。

平川さん
そうですね、ありがたいことに。スペシャルもたくさん見ていただいて。
 
レギュラー放送時からファンだったもので、たのしく拝見しました。あれは、続編が…

平川さん
ね。あれは、続編があるんでしょうか?(笑)

笑顔でかわされてしまいましたが、ファンとしてはとても気になるところ。
 
テレビドラマに映画に、と立て続けにたくさんの作品を手がけられていますが、平川さんにとって「テレビ」と「スクリーン」は、まったく違うものですか?

平川さん
なんたって、スクリーンはでかいですからね。画としての違いは当然ですけれど、あとはテンポ、間(ま)ですよね。
 
それは、尺の違いということでしょうか。

平川さん
それもありますが、テレビはチャンネルを変えられてしまったら、終わりじゃないですか。「ピッ」と終わってしまう。そこの違いがいちばん大きいんですよね。
 
ああ、そういうことですね。ちょっとした間が「隙」になってしまう、ということがある。

平川さん
そう、映画館は入ってさえもらえれば。じっくり見ていただけますし、入り込んでもらえる確信みたいなものもありますけれど、やっぱりテレビは「飽きさせられない」っていう気持ちはありますね。なるべく早い展開、良いテンポで飽きずに見ていただけるように。逆に映画は、丁寧に情感とかをたっぷり見せることができますし、そこで受け手の方にもいろいろと考えてもらえるんじゃないかと思います。
 
たしかに、映画は「これは、どういう表情なんだろう…」と考えたり、次の展開を予想したりしながらたのしむことが多い気がしますね。

平川さん
そうやって、じっくり見てもらえるとうれしいですよね。


改めて考えさせられる、人間の弱さや強さ


 
映画『記憶屋 あなたを忘れない』も、まさに次の展開、その次の展開…と、こちら側が先を早く知りたくなる先読みしたくなるような、ミステリー的な要素がありました。

平川さん
うんうん、「どんなやつなんだ、記憶屋は」という。そこを追いかけますよね。

ある日突然、主人公・遼一(山田涼介)に関する記憶を一切失ってしまったという恋人・杏子(蓮佛美沙子)。それに驚きと違和感をおぼえた遼一が、都市伝説として密かに継がれる“人の記憶を消すことができる怪人”「記憶屋」について、弁護士の高原(佐々木蔵之介)とともに調べはじめる、というストーリーです。


 

原作は織守きょうやさんの小説ですが、スピンオフとしての映画化。ストーリーについて、最初の印象はいかがでしたか?

平川さん
これは、ずいぶん注意しながら喋らないといけませんけれど、とにかくラストが「はあ、なるほどな」という。「この部分を大事に表現していけば、映画になるかな」という演出面を考える視点でも当然読みましたけれど、感想としては切なかったですよね。読んでいて、すごく切なかった。
 
それぞれの一途な想いであったり、抱えているものであったり。

平川さん
「記憶屋」にも背景があって。人間の弱さは、もろに出ているようなね。


山田(涼介)くんは、感情を大切にする人


 
対して、それを追う、主演の山田涼介さんの感情の動きもストーリーの中で重要な部分でしたね。山田さんとは今回はじめてご一緒された、ということですが、平川さんからご覧になって、どんな俳優さんでしたか?

平川さん
最初は事件直後ということもあって、主人公の遼一は情緒的にもすごく脆いボロボロの状態から始まるんですよね。そこも難しいと思うんですけれど。

後半に連れて、遼一の印象はとても変わっていきました。

平川さん
そうですよね。主人公の「ちょっとした成長」を、山田くんはすごくちゃんと演じてくれていましたし。背負っている責任感だとか真面目でストイックに劇中の人物に向き合いっている感じが現場でも当然伝わってきましたから。随分すごい人だなと思いましたね。
 
ディスカッションなども、多くされましたか?

平川さん
いろいろ話しましたね。こちらのイメージは伝えるけれど、彼には彼のイメージも当然あって。そこをすり合わせることが多かった気がします。ぼくの注文に、どう答えてくれるか、たのしみなところもあって。山田くんって、「感情で、どうなるかわかりません」みたいな部分もある俳優さんで。
 
想定よりも、涙が溢れ出して「泣きすぎてしまった」というご本人のエピソードもうかがいました。

平川さん
ありましたね。だけど、結局、ぼくがお願いしたテイクじゃなくて山田くんが演じたいよう感情のまま演じてくれたテイクの方を使ったりもしてるんですよ。発狂するシーンでは、そのあと呆然としていましたしね、「やりきった」というのがよくわかりました。「ああ、本当に遼一になってるんだなあ」とは思いましたから。

そんな遼一の幼馴染を演じる、芳根京子さんも、かつて「記憶を失った経験がある」という重要な役どころでした。無邪気さや、天真爛漫さが魅力でしたね。

平川さん
まさに。そこが苦しかったみたいでしたね(笑)。無邪気で明るいんだけど、過去の経験だったり、本当は別の顔も持っている。彼女はすごく真面目だから、その苦しみだったりを踏まえると、どうしても明るく振る舞えなかったりもして。複雑な感情だったと思いますけど、丁寧に演じてくれましたよね。

佐々木蔵之介さんからのアドバイス


 
俳優さんとのすり合わせは、やはり大切にされていますか。

平川さん
そうですね。今回は、佐々木蔵之介さんに脚本の面で、本当に助けていただいたんですよ。すごく感謝してますね。
 
脚本ですか。

平川さん
というのも、「記憶屋」という怪しげなテーマでありながら、見ている人が違和感なく、すっと入っていきやすく仕上がっているのは、蔵之介さんのアドバイスのおかげだと思ってるんですよね。「『記憶屋』という存在を、みんなが知っている」いう状態からお話は始まっていますが、今回、蔵之介さんが演じる高原は「知っているんだけど、疑っている」という、要は一般の人の目線や感覚を持った登場人物に仕上がっているんです。
 
ああ、言われなければ気づきませんが、佐々木さんの存在が見る側のわたしたちをリードしてくれていたんですね…。それは、佐々木さんから「自分は、そういうポジションを取った方がいいんじゃないか」というような、ご意見があったということですか?

平川さん
そうそう。「嘘だ!」って言ってる人がいる方が、自然なんじゃないかという。山田くん演じる遼一は、自分の周りで2度同じような体験をしている、という役どころなので、はじめから「記憶屋」を盲信しているところがある。
 
一方で、高原(佐々木蔵之介)は疑いつつも付き合うことに。

平川さん
逆側ですよね。そう演じてもらうことが、全体のバランスとしても、見てくださる方に入り込んでもらううえでも、とても良い結果になったと思っています。
 
映画を拝見したあとなので、すごく納得です。これは、本当にいい関係性でものづくりされているのが、とてもよくわかるお話ですね。

「監督」は、あくまで「裏方」


 
キャストの方はもちろん、スタッフの方々も含め、映画は本当にたくさんの方々が関わられていますよね。「監督」として全体指揮、リーダー、でもあると思いますが、なにかその点で、今回意識されたことはありましたか?

平川さん
うーん。「集中しやすい環境をつくる」、それだけかなあ。役者さんたちがベストなパフォーマンスをしてもらえるための準備ですよね。そういう「空気感」みたいなものが、実はとても大事だったりするんですけど、逆に言うと「それだけ」なんです。ぼくはやっぱり「裏方」ですからね。

「監督」は、「裏方」。

平川さん
もちろんです。表に出られるんだったら、ぼくも俳優をやりますね(笑)。役者・俳優って仕事は、やっぱり自分自身を晒すわけじゃないですか。それは時に、恥をかく、ということでもあるわけで。それができる俳優さんを、やっぱりぼくはすごいなと思いますし、尊敬してるんですよ。それができないから、裏方やっている、とも言えますしね。だから本当に、裏方としてできることをやる。それでいいんですよね。

「葛藤」を丁寧に伝えたい


 
今回、なにか頭を悩まされたことはありましたか?

平川さん
いちばんは、やっぱりラストの部分ですよね。詳しく言うわけにはいかないので難しいですが、見てくださる方が「記憶屋」という存在に対して、どういう印象を抱くか。「身勝手だなあ」と思われる方もいらっしゃるかもしれないけど、やっぱり共感もしてもらいたいので。見る人にも、その葛藤が伝わるようにするにはどうすればいいか。そこの伝え方やバランスには、すごく苦労しましたね。
 
いかに、ラストで納得と共感をしてもらえるか。

平川さん
そうですね。そこはやっぱり丁寧にしたかった。最後まで悩みながら、辿り着いたバランス、という感じですよね。どう出るか。

受け取り方は見る人の数だけあるようにも思いました。「自分だったら…」と、物語を引き寄せて考えたくなるような。

平川さん
うん、いっぱいありますよね。いく通りもあっていいと思うんで。「答え」や「メッセージ」がわかりやすい作品も多いですけれど、この、受け手に余韻を残せるような、考えてもらえるような。そういう作品になった気がしていて、本当に「やっと映画が撮れたかな」というかね。みなさんにしっかり考えてもらえる余地も含めて、「映画らしい映画が撮れたんじゃないかな」というのは、思ってるんですよね。

なにかひとつ「持ち帰れるもの」を


 
これから見てくださる方に、お伝えするとしたら。

平川さん
映画のチケットって、今高いですからね。お金を払った分は、なにかを持って帰れることができるものじゃないといけないと思うんですよ。たくさんの人の、いろんな感情がうごめいている中で、どこか1箇所でも琴線に触れたり、「お土産」を持って帰れるような、そんな映画になったんじゃないかと思いますので。

平川さんご自身は、この作品と出会って、手がけられて、なにを「お土産」にされましたか?

平川さん
「許す心」じゃないかなあ。ぼくは、怒りっぽいところもあるので。現場で怒ることもいっぱいある。もちろん、すべて作品をいいものにするためではあるんですが、仕事もプライベートも、もっと広い心を持てたら…と改めて。映画って「夢」なんですよね。
 
「夢」。

平川さん
「こうあれたらいいな」とか「こんな世界が素敵だな」とか。ぼくもたぶん、夢を見たくて映画を見たり、「こうありたいな」という気持ちを作品に投影することもある気がしますね。本来、人間って、やっぱり嫌な部分もたくさん持ってますよね。自分にもある、相手にもある。誰にでもあって。だからこそ「許す心」が必要で、許して前に進む気持ちだとか、そういう広い心の持ちよう、みたいなものを改めて考えさせられましたし、気づかされましたね。「こうありたい」ということも含めて。

そういう意味では「許す心」もひとつのテーマになっていますよね。ラストについても真剣に悩まれたからこそ、というのが非常によくわかります。

平川さん
みなさんにとって、「なにを」というのはそれぞれ違うと思うんですが、ぜひ劇場に足を運んでもらって、なにかひとつでも持ち帰っていただければうれしいですね。
 
『記憶屋 あなたを忘れない』
『ツナグ』『義母と娘のブルース』の平川雄一朗監督が贈る、この冬最注目の感動大作。1月17日(金)〜公開。

 
公式サイト
 
取材・文 / 中前結花  撮影 / 真田英幸

【連載】つくるしごと
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