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【今月の道具】 PADICOのレジン「UV-LEDレジン星の雫」

毎月、ものづくりに欠かせない「定番のアイテム」を1品だけご紹介する連載「今月の道具」。今回お話をうかがったのはレジンや粘土のブランド「PADICO」で知られる、株式会社パジコさんです。レジン商品の代名詞とも言える「ジュエルラビリンス」シリーズを手がけるようになった経緯やそのこだわりについて語っていただきました。ご応募いただいた方の中から抽選で特別なプレゼントも。

新しい質感、新しい立体化を叶えてくれる



作家さんのアトリエにうかがい、ものづくりの過程を拝見していると、意外な用途や意外なタイミングで登場する道具たちがあります。たとえば「レジン」もそのひとつ。


表面のコーティングや、モチーフをクリアな素材で閉じ込めるとき、またはフェイクフードやミニチュア、ジオラマなどで「液体」を表現したいとき…など、想像の限りでもたくさんの用途がありますが、制作の現場では「これもレジンでつくるんですか?」「レジンで接着されるんですか?」などと、おどろいてしまうこともしばしば。
今回は、作り手の表現の可能性を広げるため進化し続ける「レジン」の開発・販売について、株式会社パジコさんにうかがってきました。

「PADICO」



手芸店やホームセンターなど、作り手が素材を求める店頭では必ず見かける「PADICO」のブランド名。そんな馴染み深い同社に取材へ。訪れたのは、東京・原宿に構える本社です。


「実はいま、内装を工事中なんですよ、すみません」と笑顔で迎え入れてくれたのは、専務取締役・木村さん。オフィスの内装を一部、大きく変えられるそうです。
 

とても身近な商品なので、おうかがいしたいことがいっぱいです。

木村さん
必要な商品はなんでも持ってくるので。なんでも聞いてください(笑)。

粘土のパジコ


今回は、人気のレジン『ジュエルラビリンス』のシリーズについてのお話をうかがいに来たのですが、わたしは「パジコといえば粘土」というイメージが実はとても強くて。ドールハウスづくりやフェイクスイーツにハマっていたときに、とてもお世話になっていたんですよ。

木村さん
ああ、よくご存知で。そうですね、こういった素材の提供はまさに「粘土」から始まりましたからね。なにを使われてましたか?
 
「MODENA(モデナ・樹脂粘土)」もそうですし、あとは…

木村さん
ハーティ!
 
そうです!「Hearty(ハーティ・軽量粘土)」(笑)。いろんなタイプを揃えました。

木村さん
ありがとうございます、使っていただいてたんですね。おかげさまで、2019年にパジコは50周年を迎えることができましたが、こういったものづくりの素材の提供は「粘土」から種類拡充を始めましたから、長くものづくりをされている方は、そのイメージも強いでしょうね。

定番の粘土シリーズは根強い人気だと思いますが、近ごろは、レジンやレジン関連商品の充実にとても力を入れられているようにお見受けします。

木村さん
そうですね、世間の流れ、ブームの変遷ということもありますし、需要にあわせて、レジンシリーズの拡充や販促は尽力してますね。
 
できることの幅もとても広がっていますもんね。

木村さん
使い方の幅広さや安全なイメージも含めて、広げていきたいというのがありますね。

レジンシリーズが生まれるまで


「フェイクスイーツ」のブームに火がついた当時(2008年〜)、その分野では粘土だけでなく、パジコさんの「デコクリームソース」やホイップをつくる「クリーミィホイップ」がやはり非常に人気でしたよね。おっしゃっていた「ブームの変遷」という意味では、「フェイクスイーツブーム」はパジコさんが仕掛けられたものだったのでしょうか?

木村さん
いえいえ。実はそういうものをつくっていらっしゃる方がすでに一定数いて、専用の素材がないものだから、いろいろと工夫されていることに気づいたところからなんです。
 
小学生のころ、ホームセンターで購入した「壁パテ」のような補修用素材をビニールの袋に詰めて、ミニサイズのケーキをつくったりしました。

木村さん
まさにですよ。ホームセンターで、そういう目的でいろんな商品を買われている方がいらしたんですよね。さらには、その方たちはすでに「つくる」だけでなく、制作した作品を「販売する」、ということもされているようだったんです。

書籍も多数出版されています。
 
ひっそりと趣味で制作されているだけでなく、クオリティの高いものを制作して販売まで行われていたんですね。

木村さん
そうなんです。おそらく、ブライスやそういった人形に「持たせる」といったところから始まっているのかなと思いますが、そういったニーズをうかがって、専用の素材を販売し始めました。その流れで出版社さんと本を出させていただいたりして、たくさんの方に知っていただくきっかけになったんでしょうね。
 
そのスイーツに透明感を演出したり、コーティングしたり…リアリティを演出したい、という流れが「レジン」の人気につながっていったんですか?

木村さん
ところが、それはまた「フェイクスイーツ」とは違う流れだったんですよね。もちろん、現在も素晴らしい作り手さんがたくさんいらっしゃいますけれど、誰もかれもがフェイクスイーツに夢中、というブーム自体はそんなに長く続いたものではないんですよ。「じゃあ、次はなにを提供しようかな」と検討しているとき、ひょんなことから「レジン」という粘土とはちがう物性の製品開発にチャレンジすることになったんです。社内の女性の意見が大きかったと思いますよ。

レジンの開発は、社内で反対が多かった


たくさんの商品を抱えて、登場してくださった商品部の東さん。

当時をよく知る、商品部の東さんにも加わっていただきました。

東さん
実は当時、社内では「レジン」を取り扱うことにはとても慎重になっていたんですよね。というのも、「レジン」というのは換気が必要だったり、手につかないよう注意する必要があったり。粘土に比べると「安全性」といった意味で、少なからず不安要素があるものなので。そういったものを扱うのは会社としてどうか…という議論があったんです。
 
安全面の問題だったんですね。たしかに、小学生のころ海外から輸入したレジンセットは、扱うのがとても怖くて。母の目の前でしか使わせてもらえませんでした。

東さん
「レジン」って当時、そういうものでしたよね。パジコは、粘土にしても「安全性」をとても大事に考えていて、それを軸に商品展開をおこなってきたところがあるので、社内ではやはり反対もあったんです。でも、使いたい作り手の方はきっとたくさんいるはずだと思っていて。

そこを、「販売」へと踏み切れられたのには、どんな背景があったんですか?
東さん
ひとつは、作り手の方にとっての利便性だったり、実現できることが圧倒的に広がる、というメリットの大きさだったと思います。

届けられる価値も広がる。

東さん
そうなんですよね。粘土はどうしても1〜2日間、完全に乾燥するのを待たな開ければ、次の工程にはいけない。だけどレジンであれば、早いものだと数十秒で硬化させることができるんです。

木村さん
ある意味で、粘土の弱点をすごく補ってくれるものだったわけですね。もちろん、そういった仕様の粘土の検討もしてはいましたが、もしかすると、レジンで実現した方が、今後の広がりにつながるんじゃないかと考え始めたんです。危険な側面もあるけれども、たしかに作り手の方を思うとそれだけメリットが大きかった。
 
安全面さえ、クリアできれば。

木村さん
そう。きっと「造形」をたのしむひとは増えていくだろう、と考えていましたし、そういった要望を叶えたい。使い方に注意は必要だけれども、だからこそ親切に丁寧にお客さまに正しい使い方と注意点をご説明して。安全面についてしっかり検討して提供することの方が、作り手のみなさんには価値なんじゃないかと考えたわけです。
 
そこで登場したのが、『UV レジン太陽の雫』だったんですね。

東さん
そうですね。2012年にようやく発売することができました。


―― このネーミングやパッケージは、とてもキャッチーですよね。着色剤にしても、どこかコスメのような。女性も意見が反映された、というお話がよくわかる気がします。

木村さん
そこはもう、彼女たちのこだわりですよね。女性にとって親しみのあるパッケージで提供することで、きっと大きな市場を開拓できる、というのはあったので。

東さん
そうですね。『太陽の雫』は、まさにUV=太陽光で固まる液体なので、「太陽からアクセサリーが生まれる」そういった意味合いも込めて、このネーミングになりました。
 
LED対応のものは『星の雫』ですよね?

東さん
LED、つまり「光」なんですよね。これまで以上に一瞬の光で固まる、透明感が強く美しいレジンだったので、“流れ星のように速く、美しい”という意味合いを込めて『星の雫』としたんです。

女性が手に取りたくなる世界観

安全面を考慮された容器と、手に取りやすいネーミングとパッケージデザイン。「レジン」の印象がとても変わりました。

東さん
受け取られる「印象」はやっぱり意識していましたね。コスメのような世界観というのはまさに考えていたことで、「一瞬で固まる」という、“魔法”のような素材である、と。それに、中に「封じ込めることができる」というのも魅力のひとつですから、おまじない的な要素も混ぜ混んで、まずはそこをキャッチーに伝えたいと思いました。
 
当時のカタログを拝見しても、わくわくしますね。

木村さん
我々は、もともとデザインの会社だったんで。パッケージディレクションカンパニーの略なんです、「パジコ」って。クライアントさんから依頼を受けて、主に商品パッケージやロゴなどをデザインする会社だったんですよ。


1952年、『木村図案社』として開業した同社。包装紙や商品の箱のデザインから始まり、デザインカンパニーとしてさらに取り扱いと活躍の幅を広げ、やがて、紙粘土や石粉粘土、パッケージデザインを行う際に欠かせないモデリング用の粘土などを提供するようになります。
 

そういった買い手の気持ちづくりや伝え方、つまりデザインはお得意の領域だったんですね。カタログの美しさや、商材を目にしたときのこの印象も納得です。

木村さん
手に取りたくなる、ということがまずはとても大切ですからね。

本当に見られているのは「品質」


一度手にとって、さらに使い続ける、という方が非常に多い商材ですから、当然その「質」も大事になってきますよね。

木村さん
そうですね。見てくれだけではいけませんからね。品質こそ、いちばん「見られている」という意識でおりますし。自信を持ってお届けしていますね。たとえば「経年」というところにも、かなり気を遣っていて。せっかくつくった作品が、時間が経つにつれて劣化してしまうのは、すごく残念じゃないですか。時間を経ても「黄ばまない」というのも、うちのレジンの強みで。

東さん
発売前には、ずっと窓際に置いて試していたんです。しっかりとそういった実験もしたうえでご提供していて。
 
研究の成果であり、そこまで手を尽くしたうえで届けているんですね。経年変化がないのは重要なポイントですよね。

木村さん
お客さまをがっかりさせてはいけないので。

東さん
そういった意味では、「モールド(流し込んで使用する型)」にもこだわっていますね。1ミリ分厚すぎるだけでも、完成すると、可愛くなくなっちゃったりするものなので。設計の段階からかなり注意して制作しています。着色剤の容器も、1滴ずつ出すことができるノズル式を採用しています。どれも、なるべく完成品のクオリティが上がるように、作業しやすいように、手が汚れにくように…という設計で。
関連商品も含めて、中身はもちろん容器へのこだわりも徹底されているんですね。

東さん
いろんな用途で、実現したいことを実現できる商品であってほしいと思っています。

次々と新しい展開が


 
次々と新商品が発売されて、どんどん新しい使い方を試すことができたり、初心者の方でもはじめることができるようなツールが登場するのも、見ていてとてもたのしいです。

木村さん
全商品のカタログでも、この10年で34ページ分が増えました(笑)。今では、全体の半分ぐらいがレジン関連商品で構成されているような状態なんですよ。
 
それは、おどろきのページ数ですね。

これは繊細な…。球体をつくるモールドでつくられているんですね、触れなければガラスにしか見えませんね。

東さん
そうですよね、球体はやはりとても人気なんです。

球体をつくるシリコンモールドで制作されたヨーヨーのモチーフ。浴衣にぴったりです。

新発売のミニチュアサイズのフラワーベースは、お好みのドライフラワーやプリザーブドフラワーをレジンの水に活けるだけで、素敵なペンダントトップが完成します。


ほかにも、ミニチュアサイズのものがたくさん発売されているんですね。

東さん
フラワーベース以外にも、パフェやタピオカドリンクをつくることができる「ミニチュアアクリルアイテム」を発売することにしました。グラスなどの容器をモールドで自作しなくてもいいので、手軽に制作をたのしんでいただくことができますし、この商品のパッケージの台紙には、リアルなフルーツなどが印刷されているので、切り抜けばトッピングとしても使えるんです。(パジコWEBサイトからもダウンロードすることもできます)

完成品はこんなにかわいい…。トッピングまで用意されているとは。すごく丁寧な商品ですね。これなら、初心者の方でもたのしめますね。

東さん
そうなんです。もちろん、パフェのデコレーションなどは、上級者の方にもこだわって、つくり込むことをたのしんでいただけると思います。
 
新しい提案に余念がありませんね。

木村さん
レシピや使い方をこちら側からも提案しますが、作り手の方が予想もしなかった使い方や技法をどんどん見つけてくださるんですよね。その双方でここまで広がってるんだと思いますね。

叶えたいのは


このお仕事をされていて、喜びを感じるのはどんなときですか?

木村さん
たくさんありますけど、日々のことで言うと、たとえば「minne」を覗けば、うちの商品をよく使ってくださってる作家さんを見かけたり。「ああ、使ってくださってるな」って、それだけで本当にうれしいですしね。やっぱり、作品という素晴らしいかたちになってるので。
 
こだわって開発した商品が、いろんな作り手の方の個性と交わって、ひとつの作品になり。またその作品に魅了された、だれかの手に渡っていくんですもんね。

木村さん
いつも、深掘りして価値を高めてくださるのは、作り手さんですよ。

ああ…お互いに価値を拡大しあえる、というのはとても素晴らしいですね。

木村さん
素材のメーカーとして、開発・販売した商品をお客さまが何百通り、何千通りの使い方をしてくださるわけです。それは本当にありがたいことですし、そういうものが「いい素材」だと思うので。何千通りの用途で使ってもらえる素材をこれからも提供し続けたいですよね。「minneのハンドメイドマーケット」のようなイベントで実際の作品を見させてもらうと、次の開発へのモチベーションにすごくつながりますよ。

実物を見ると、またひとしおですね。

木村さん
そういった素敵な作品を見続けられるように、ぼくはいろんなクリエイターさんに喜んでいただくことができるような素材を生み出し続けられればと思いますし、その結果、お客さまのものづくりにつながって、ハンドメイドのマーケットがより活性化すればうれしい限りです。
 
本当にそうですね。我々も一緒に実現させていただきたいことです。

木村さん
minneで販売されている作家さん本当に研究熱心でいらして、いつも作品を見ておどろかされてしまって。貴重なご意見もしっかり聞いて、商品化につなげたいですしね。一層ものづくりをたのしんでいただけるよう、我々も研究を頑張りますよ。

ミニチュアパーツのキャンペーンが始まります。(2月15日〜)


東さん
実は、2月15日から対象商品を2個以上ご購入いただいたお客さまに、パジコ製品パッケージのミニチュアパーツをレジでプレゼントさせていただくキャンペーンがはじまるんです。
 
かわいい…これは、ぜひとも集めたいです。

木村さん
以前、限定的にイベントで実施した際もすごく人気だったので、創立50周年記念としてまた実施することになりました。実施店舗を確認して、ぜひ集めてみてください。

詳しくはこちら

今月のプレゼント
UV-LEDレジン「星の雫」のトライアルキットパレットやスティック、レシピとレジンが一緒になったトライアルキットを、抽選で10名様にプレゼントします。記事の感想を書いて、ぜひご応募ください。

  • ・応募締め切り 2020年3月15日

  • ・当選は発送をもって代えさせていただきます


締め切りました


 

取材・文 / 中前結花  撮影 / 真田英幸

【連載】今月の道具
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