大阪・堺市にあるお店「ふかい珈琲」
泉北高速鉄道「深井駅」を降りて、ほど近く。周りの景色を見渡しながら数分歩くと、「豆」という円形の看板とともに、まるでログハウスのようなウッディな建物が見えてきました。
名前は「ふかい珈琲」。自家焙煎にこだわった、コーヒー豆や、コーヒー豆の加工食品を販売しているお店です。
商品はよく口にしているものの、お店に訪れるのははじめて。ドアを開ける瞬間は、「ついに…」と、なんだかうれしくなってしまいました。
「はじめまして…」「あああ、本当に来てくれはったんですね(笑)」と、ご挨拶をさせてもらったのは、店主の沢埜さん。「本当に来ました(笑)」と、はるばるここまでの道のりのお話を。
出会いは、去年2月
「ああ、たくさん並んでる…!」と、まず目についたのは毎朝飲んでいるカフェオレベース。出会いは昨年の2月でした。
「ペットボトルに入った市販の無糖コーヒーにほんのすこしだけミルクを注ぐ」というのがかれこれ10年ほどの定番だった、わたしの朝食。
「ところで、カフェオレベースっておいしいのだろうか」
「コーヒーと混ぜるのとは、なにか違うんだろうか?」
と、ちょっとした興味でminneで取り寄せてみたことがきっかけでした。
この投稿がきっかけで、まわりにも「買ってみたよ」という声が増え、どのひともみんな「おいしくて、びっくりした…!」と感想を送ってくれます。
わたしはすっかりうれしくなって、「最近のおすすめは?」と聞かれるたびに「ふかい珈琲さんのカフェオレベース」と答えるようになりました。
たまに切らしてしまうと、近所のお店で、同じような「カフェオレベース」を買ってみたりもしたものの、やっぱり味が違うのです。
そんな流れで、昨年末にはこの「minneとものづくりと」の読者プレゼントのひとつとしても、「ふかい珈琲」さんのギフトセットを使用させていただきました。
そして今日、ようやく、実際のお店を訪ねることができた、というわけです。
毎朝ローストする
店内には、見慣れない大きな機械が。「これは、なんですか?」とうかがうと、「豆をローストする機械なんですよ」と沢埜さん。開店時間である午前10時までに、その日の分を焙煎されるのだそう。
「こまめに焙煎して、新鮮なやつを販売するようにしてるんですよ。minneさんで注文していただいたものも、焙煎してから1週間以内にには届くようにしていて」。
ハッとするようないい香りには、そんな心遣いが込められていたのでした。
「白い方は…焙煎する前の豆ですか?」見たことのない色味の豆です。「そうです、そうです。焙煎すると、水分が抜けてこうやって膨らんでいくんですよ」。
焙煎前は、豆が劣化せぬよう、大きな冷蔵庫の中で保管しているのだとか。
海外まで買い付けに
レジ横のカウンターには、いくつか試飲用のコーヒーが並んでいます。
「産地の方のお写真を飾っているのもいいですね」豆には、ひとつひとつに名前と風味の特徴、そして産地の生産者の方のお写真が丁寧に添えられています。
「来月(2020年2月)にも、中米のグアテマラに行く予定なんですよ」と沢埜さん。
なんと、豆の産地に自ら出向き、買い付けに同行することも多いのだと言います。
「ひとりで店をやってるものでなかなか気軽には行けないですけれど、なるべく見に行って、お話もするようにしてるんですよね」
天井を見上げれば、コーヒーの産地の地図が広がっています。
「これはブラジルのいいコーヒーが採れる地域の地図で。これも、生産者さんからのいただきもので、飾ってるんですよ」
元々は製菓のご出身だという沢埜さん。
「ずっとコーヒーも大好きで。だけど、焙煎し始めたのは8年くらい前なんです。以前から、コーヒー専門店で働かせてもらったりはしていたんですけど、ここ10年ちょっとで、農家さんからおいしい豆を直接買い付けるようになったことがきっかけで、一層惚れ込んでしまって。あれこれと混ぜられたものではなくて、“これ”というものを取り寄せて、提供できる時代になったので」。
「コーヒー豆って、本当たくさんのひとが関わってるもので。そのひとたちが、誰ひとり手を抜かずに一生懸命つくったものを、こうして届けてもらって、こうして使わせてもらってるんですよね」。表の看板からも、沢埜さんの想いが伝わってきます。
お気に入りのものだけを並べた空間
店内の隅々まで、そんな沢埜さんの想いや「コーヒーへの愛」が行き届いているような空間。ここには、沢埜さんの「お気に入りもの」しか置いていないのだといいます。
ツール系もいくつか販売されていますが、「機能面でも優れてて、ビジュアルもいいなあ、と思うものを置いてます」とのこと。
「これは切り絵ですか…?」と尋ねると、「ああ、そうなんです。焙煎の機械に、ちゃんと“ふかい珈琲”って入れていただいてるんですけど、それ、お客さんがつくってくれたものなんですよ」と言うから、おどろきです。「常連さんなんです」と、沢埜さんはにっこり。
常連さんにお仕事をお願い
実は、ショップカードや瓶のラベル、シール類に到るまで、ふかい珈琲さんの商品パッケージのデザインは、その方が手がけられているのだとか。
「どれも、すごく素敵です」とお伝えすると、「そうですよね、気に入ってて。お客さんにつくってもらってるっていうのも、なんかおもしろいかなって(笑)」。
「グラノーラは、うちのコーヒーを使って妻がつくってるんですよ。ギフトセットの中に入ってるクッキーも、うちのコーヒーを使って、近所の仲良くしてもらってるケーキ屋さんに焼いてもらってて、すごく人気です。このクリームチーズは、スプレッド屋さんにコーヒーを送って一緒につくっていて…。全部そんな感じなんです(笑)」ちなみに、持ち帰るための梱包としてコーヒーボトルを包んでくれる英字新聞も、お客さまからのいただきものだとか。
いかに、たくさんのひとに愛されているお店か、ということがとてもよく伝わるエピソードであふれていました。
自慢できるものだけを
最後に、「なにか1杯ご馳走させてください」と沢埜さん。せっかくなので、「ふかいブレンド」をいただくことにしました。
「このお店で、いちばん大切にされていることはなんですか?」とうかがうと、「そうですねえ…」としばらく考え込まれました。
そして、「やっぱり信頼関係でやっているところがあるので、自信があるものしかお出ししない、お出しできない、というのはあるんですよね」と答えられました。
「常連さんが多くて。中には、車で30分かけて毎回買いにきてくださるお客さんもいて。でも、1度でもご満足いただけないものを出してしまうと、きっとそれは続かなくなっちゃうと思うので」
コーヒーは毎日飲むもの。きっと、気に入ったものを永く選び続けたいものです。
「胸を張って出せるものしか、出さない、ということですかね。どうぞ」
「わあ、ありがとうございます」
丁寧に淹れていただいた一杯をいただきます。
鼻先でいい香りをたのしんだあとは、すこしの酸味としっかりとしたコクのある、ほっとするような味わいをゆっくりとたのしみます。
「すこしフルーツのような香りもありますけど、マイルドですごく飲みやすいですね」
「よかったです」
さすがのご自慢の一杯でした。
たくさん買いものをさせてもらい、そろそろ帰り仕度。「グアテマラ、気をつけて行ってらしてください、また来ます」とご挨拶して、お店をあとにしました。
帰り道の大通りは風が吹いて悴(かじか)みましたが、右手に持ったコーヒーがとてもあたたかくて、心がほくほくとしました。
毎朝、コーヒーを飲むたび、この素敵な時間のことを思い出します。
お近くにお立ち寄りの際には、ぜひ。
取材・文 / 中前結花 撮影 / 真田英幸