素材から「切り出す」工程に
紙や布、アクリルや革などの素材から、いくつも同じ形を切り出す作業。日々、ものづくりの現場にお邪魔し取材させていただくなかで、「同じ形状のパーツをいくつもこしらえる苦労」について、これまでわたしたちはたくさんお話をうかがってきました。
ところが昨年、ブラザー工業株式会社さんの「スキャンカット」を使用した作品づくりを実際に作家さんに見せていただき、「下準備の手間は、短縮することができる」ということを目の当たりにしました。特に「苦労していた革の切り出しが、30分の1以下の時間でできました」と驚かれている革物作家さんの様子は、とても印象的なものでした。
そんな体験を経て、今年も3名の作家さんにご協力いただき、“春”にちなんだ新作を、「スキャンカット」を使用して制作してもらうことに。
液晶パネルで手軽に操作
パソコンでつくったデータはもちろん、原稿をスキャンすれば、手描きのイラストを「型」として素材を切り抜くことができるスキャンカット。横幅は50cmにも満たないほどのサイズ感で、プリンターのように液晶パネルで簡単に操作できるので、機械操作に慣れない方でも安心して使用できるのがうれしいポイント。
型抜きされた素材が出てくる様子は、隣で何度見ていても「わっ」と、はしゃいでしまいます。
手描きイラストが、立体的な「ミモザ」に。
まずは、下絵づくりです。丁寧にモチーフのデザインやサイズを決めていきます。「図案データは、やっぱり“あたたかみ”を大切にしたいので手描きで」というこだわりです。
専用のマットに貼り付けて、そのままスキャンすると、このイラストがデータ化されます。
あっという間に、若草色の画用紙にリーフの型の切り込みが。これを手でパリパリと剥がしていきます。オート機能で、型を繰り返すように設定すれば、素材を無駄にせず、1度でたくさんの型抜きが可能です。
着色を重ねて、土台に貼り付けると、まさに「春の木漏れ日」を思わせる素敵なブローチが完成です。
そして作業はさらに細かいものに。
さらに、春に咲き誇るブルーの「ネモフィラ」をイメージしたピンブローチも、切り出した紙を重ね、立体的なデザインに。
プラ板を剥がし取るときの心地よさ
紙よりも、厚く硬い素材だとどうでしょう。
ご協力いただいたのは、繊細なデザインのプラ板作品を手がけることの多い、yuu119iさん。普段は、手作業で行う工程をはじめてスキャンカットで試してくださいました。
出てきたプラ板をペリペリと剥がすのは、すこし心地のいい作業です。
表面にヤスリをかけ、チョークで淡く着色していきます。
オーブンで焼き上げ、2枚を重ね、花柱のパーツを取り付けていきます。春に満開になるアネモネの、ぱっと明るい華やかさ。プラ板作品ながら、ちょっとマットな仕上がりがカラフルな色味を可憐に見せてくれるのが、おもしろいデザインです。
象りの美しい「革」の花びら
そして、さらに厚みと弾力のある「革」の裁断にも挑戦いただきました。
たった数秒で、細かな素材がいくつも切り出されました。
完成したのは、まさに「ブーケ」のような、一輪一輪がぎゅっと集まった素敵なデザインのブローチです。
ほかにも、「西洋サクラソウ」をイメージしたブローチ、そして「バコパ」のハットピンが完成しました。
それぞれの素材の魅力を活かして
細かな型を切り出したあとは、それぞれの工程を経て、春らしい作品がいくつも完成しました。花びらや葉の重なり合う繊細なデザインがどれも見事です。
スキャン機能で手描きのデータを取り込むことができるため、「味わい」や「風合い」を最大限諦めることなく、「素材の切り出し」という下準備の手間を短縮することができるスキャンカット 。着色に時間をかけたい、という作家さんの希望を叶えることができたことは、とても印象的でした。
デザインの幅や制作数の可能性を広げるだけでなく、たとえばキットの販売やワークショップの準備に用いれば、活動や活躍の場を広げることもできるかもしれません。
手間をかけたい工程に手間をかける、新しい提供のかたちを考えてみる、そんなきっかけになってくれる心強いアイテムのひとつです。
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取材・文 / 中前 結花 撮影 / 真田 英幸