紙の図書館
神田錦町にお店を構える「竹尾 見本帖本店」にお邪魔してきました。真っ白な空間が透けて見えるガラス張りの入り口が特徴的な建物です。
中に入ると、壁や床、什器もすべて真っ白で、カラフルな紙たちがくっきりと目に飛び込んできます。「ここは、紙の専門商社『竹尾』の紙を取り揃えた、ショップ&ショールームなんですよ」。案内してくださったのは、株式会社竹尾の広報をつとめる相田さんです。
「わたしたちは“ファインペーパー”を中心に、国内外の紙約9,000種類を取り扱っています。国内に数店舗ある『見本帖』の中でも、ここ『見本帖本店』は、紙の全カラーバリエーション2700種類を揃えているのが特徴です」。
店内では、紙の銘柄、色味や用途から目的の紙を探すことができ、まるで図書館の所蔵検索のよう。
「用途は決まっているけれど、どんな紙を選べばいいのかわからないという方は、お気軽に店内のスタッフにお声がけくださいね」。
紙の基礎知識
「ひとつ、いっしょにサンプル帳を見てみましょうか」と相田さん。太字で書いてある「NTラシャ」は紙の銘柄、言わばブランド名。次に、色名、次にサイズ。四六判というのは寸法で1091mm×788mmのこと。“目”というのは、紙をつくる際の繊維の流れ目をあらわします。
「Y目は横目、T目は縦目という意味です。つくるものによって、折れやすい、めくりやすい、切りやすいなどがあるので、適切な目をお選びくださいね」。ちなみに、最後の表記“kg”でわかるのは紙の重さではなく、厚さ。
紙を1,000枚重ねたときの重さが表記されており、そこから厚さを割り出すそう。この表記の仕方は日本独自のものなのだと言います。「一見、分かりにくいように思うかもしれませんが、紙を大量に扱う出版、印刷業の方は1,000枚単位でイメージするほうが、ピンとくるんです」。
表記は1,000枚単位のものですが、紙の購入は1枚からできるのでご安心を。
研究と発見
株式会社竹尾の創業は1899年。紙業界の老舗として、印刷物や文具としての紙のみならず、さまざまな企業や研究者、クリエイターと、新しい紙の開発や用途を生み出し続けています。
東京大学発のベンチャー企業「エレファンテック」、デザインオフィス「nendo」との共同開発でつくられた、紙の懐中電灯「PAPER TORCH」。市松模様部分が電気回路になっており、きつく丸めるほどに光量があがり明るく発光します。
1965年以来開催されている、国内最大規模の紙の展覧会「竹尾ペーパーショウ」の図録。グラフィックデザイナーや写真家、装丁作家などのクリエイターが紙素材の新たな可能性を提案。その展示の様子、アイデアに込められた想いなどがまとめられています。
紙の可能性はまだまだ未知であり、無限大。紙文化の今後の発展にも注目です。
「竹尾では、紙にまつわる情報をまとめた“PAPER'S”というフリーペーパーも発行していますので、よろしければぜひご覧になってください。新しい紙の使い方や、紙に関係する作家さんのご紹介、デザイナーさんに“紙”をテーマに対談いただいたり、となかなか濃い内容になっていますよ」。
店内にはバックナンバーも。気になる方はぜひチェックしてみてください。一部の記事は竹尾のホームページでも閲覧可能です。
ユニークな企画展も開催
最後に、2Fのショールームスペースを見せていただきました。「こちらにはペーパーアドバイザーが常駐しており、紙の相談などを受け付ける他、紙の新製品のご紹介、紙とデザインに関する企画の展示や、セミナーなどを随時開催しています」。
人気商品「SIKI」は、紙を「色彩豊かな四季のように味わってほしい」という想いから生まれたノート。1枚ずつ異なる色味、素材の紙をたのしむことができます。簡単に剥がせるので、カードとして使っても◎。
取材時に開催されていた展示は、2020年で15回目を迎えた人気の展示「クリエイター100人からの年賀状」展。著名な方から若手まで、国内外で活躍するクリエイターの「年賀状」を実際に手にとって眺めることができる、ユニークな内容の展示でした。
「架空の人物、竹尾紙太郎宛にということで送っていただいた年賀状です。有名なデザイナーの方の直筆の文字が見られたり、グラフィックも、干支をモチーフにしたものだけでなく、年号のタイポグラフィだったり、ご自身のお写真をメインに使われる方がいたり、と見応えのある展示になりましたね」。
そして、3月9日(月)から4月10日(金)までの期間は、ファインペーパーの中でも歴史が古くファンの多い「マーメイド」の魅力に迫る展示「Mermaid Wave」が開催されます。アートディレクターをつとめたのはデザイナーの関本明子さん。詳細は、竹尾の公式サイトをご覧ください。
営業時間:11:00–19:00
定休日:土・日・祝
※3月25日(水)は13:00まで
わたしたちの生活に欠かせない、馴染み深い素材である紙。竹尾 見本帖本店は、そんな紙に、新鮮な気持ちで触れ、眺めて癒される不思議な空間でした。紙好きのみならず、誰もが改めて紙の魅力に没頭できること間違いなしです。お好みの紙、欲しい紙にもきっと出会えるはず。ぜひ訪れてみてはいかがでしょう。
取材・文 / 西巻香織 撮影 / 真田英幸