糸玉に囲まれて
制作部屋に入った瞬間に、目に飛び込んできたのは色とりどりのモビール。ひらり the airy jewelryさんがつくる軽やかな糸玉で空間が彩られていました。
糸玉のインテリア、とっても素敵ですね。
ひらり the airy jewelry
ありがとうございます。これはイベントに出展したときに、ブースの飾り付け用につくったものなんですよ。糸玉が大好きなので、いつも囲まれながら制作をしています。
そもそも、糸玉をつくりはじめたきっかけは何だったのでしょう。
ひらり the airy jewelry
祖母が子ども服のオーダーメイドの仕事をしていて、母も趣味で洋裁をやっていたので、“自分の手でつくる”ということは幼い頃から身近にありました。ただ、わたしがハマっていったのは「紙」。折り紙を折ったり、ギフトカードをつくったり、コラージュをしてよく遊んでいました。
“手づくり”や“一点もの”が好きだというひらり the airy jewelryさんの制作部屋には、minneでも人気のnaotoogaさんが手がける「ルルさん」など、作家さんの作品があちらこちらに。
ひらり the airy jewelry
学生時代は主に、紙を切り出したモチーフアートをつくっていましたが、ある展示で直径60㎝くらいの大きな糸玉をつくって空間に吊るす、という表現をしたことがあって。そこで、紙とは異なる糸玉の“線と線の重なり合い”に衝撃を受けたんです。
ひらり the airy jewelry
もっと「糸玉をつくりたい!」と思い、そのあとでちいさくしたらアクセサリーになりそうだな、身につけられたらいいな、と考えて、結果として糸玉ジュエリーをつくるようになりました。
課題は「ちいさく」
最初につくった糸玉は、直径60㎝というとかなり大きいですね。
ひらり the airy jewelry
そうなんです。身につけるアクセサリーにするためにはとにかくサイズをちいさくしなければいけなくて。試行錯誤の連続でした。minneで販売をはじめてからも、ちいさなサイズへの挑戦はずっと続いていましたね。そう考えると、かれこれ5年間、糸をひたすら巻き続けているんだなぁ。
その間、デザインに変化はありましたか。
ひらり the airy jewelry
デザインについて悩んでいた時期もあったのですが、つくり続けてきてわかったことがあります。それは、シンプルでいいんだということ。主張しているようで主張していないところに魅力があるのかもしれない、と。そのほうが着けてくださる方の雰囲気に馴染むんです。今では意識的に、余計なことはしないよう引き算をしながらデザインを考えています。
5年間続けていると、途中で個性をプラスしたい、目立たせたい、と考えてしまいそうですが、あえての引き算なんですね。
ひらり the airy jewelry
年齢を重ねて、考え方というか人生観が変わってきたこともあるかもしれません。20代の頃は、周りの目を気にしたり、手に入れたいのに入れられないとか、そういうことにばかり気を取られて過ごしていた気がして。ずっと心の中にあった、“もっと軽やかに、自分らしく生きたい”という想いが作品にもあらわれているのかもしれませんね。
作家名「ひらり the airy jewelry」の“ひらり”には、ふわりとただようのではなく、行く先に向けてゆるやかにしなやかに進んでいく“意志”が込められています。
いちばん好きな時間
実際に制作の様子をすこし見せていただけますか。
ひらり the airy jewelry
はい。イベントなどでもよく「糸玉はどうやってつくられているの?」と聞かれるのですが、簡単に言うと、ボンドに浸した糸を風船に巻き付けて、割ることでかたちをつくっていきます。
糸の色味ごとにケースを分け、独自に配合をしたボンド液に漬け込まれた糸たち。
風船を膨らませたら、バランスを見ながらひたすら糸を巻きつけていくそう。「無心で風船に糸を巻き付ける作業は、制作工程の中でいちばん好き。地味だけど癒されるんですよね」とひらり the airy jewelryさん。
糸の巻き付けが完了したら、乾かして、目打ちで風船をパンッと割れば、糸玉のできあがり。まるで手品のように、一瞬で美しい糸玉が姿を表しました。
ひらり the airy jewelryさんの糸玉は、色味の美しさもまた、ひとを惹きつけるポイントのひとつだと思いますが、糸の色味選びのこだわりはありますか。
ひらり the airy jewelry
色味にはこだわっているのでうれしいです。糸の色はボンド液に漬けることで色落ちしたり、配合する液体の濃度でも変わってくるので、イメージ通りの色味の糸玉ができたときはとってもうれしいですね。通年で出しているモノトーンに加えて、四季に合わせて色味を調整しています。
春夏をイメージして制作されたペールトーンの糸玉たち。「いつか糸の色の開発にもチャレンジしてみたいです」。
マットな糸玉に、薄く特殊コーティングをかけることで表面に艶と弾力が生まれます。研究を重ねることで辿り着いた、強度もまたひらり the airy jewelryさんの糸玉の特徴です。
新作のひとつ「ひらり・春霞のトリプルピアス」は、ふわっと立ち込める淡い春の気配をイメージ。
ものづくりの醍醐味
制作する中で、一番気分が上がる瞬間はどんなときですか。
ひらり the airy jewelry
わたしは梱包発送をしている瞬間が一番わくわくしていますね。どんなひとがどんな風に身につけてくれるんだろうとか、届け先の住所を見て、この糸玉はこれからこんなに遠くに旅立つのかぁ、って。思いを馳せるのが好きなんです。
シンプルなようで特別感のあるラッピングも人気のひとつ。ご褒美ジュエリーとして購入するひともたくさん。
糸玉ジュエリーはひとつひとつが手作業の一点ものですから、その分だけ思いを馳せてしまうのもわかります。
ひらり the airy jewelry
ものづくりって、受け取ってくれる方がいてこそ成り立つものだと思うんです。数ある中から、わたしがつくったものを選んで、身につけてくださるということは、そのひとの生活、人生の一部になる、ということ。その分、感謝の気持ちをしっかり込めて梱包発送しています。
つくり手だからこそ味わえる醍醐味ですね。
ひらり the airy jewelry
そうですね。心を込めてつくった作品を選んでいただけることのよろこびは、何にも代えがたいと思います。わたしはこれからもお客さまの人生に寄り添えるような作品をずっとつくり続けたいです。ひとつひとつの糸玉を丁寧に丁寧に。
最後に、今後の夢をおしえてください。
ひらり the airy jewelry
糸玉は、実際に目にして触れることでさらにその魅力が伝わるものだと思うので、いつかはオンラインだけでなく、アトリエ兼ショップをもつことができたらいいですね。顔が見えないからこそのコミュニケーションも、実際に対面してのコミュニケーションも大切にしながら、大好きな糸玉の魅力をもっともっと広めていきたいです。
ひらり the airy jewelry
独自に生み出した糸玉でアクセサリーを制作する、糸玉ジュエリー作家。
https://minne.com/@tukuridou
https://minne.com/@tukuridou
取材・文 / 西巻香織 撮影 / 真田英幸