はじめまして
みなさん、はじめまして。
青山ブックセンター本店の店長をつとめています山下優です。
ものづくりをされている方の中には、その先にある作品の「見せ方」や「売り方」に悩まれている方も多いのではないでしょうか。この連載では、いち書店員として、わたしなりのお店の見せ方、本の売り方などの試行錯誤、また、今後への想いを書き綴っていけたらと思っています。
まずはじめに、青山ブックセンター本店とわたしの自己紹介をさせてください。
青山ブックセンター本店は、渋谷と表参道の中間にある、ワンフロアの書店です。2016年にリニューアルをし、お店の面積自体は減少しましたが、棚が高くなったことにより、書籍の在庫数は増加しました。
実は過去に2回ほど、閉店の憂き目にあっています。
その2回目に、現在の会社でもある「ブックオフコーポレーション」に助けてもらい、子会社化、その後吸収という形で、今の運営に至っています。過去には、六本木、橋本や福岡、新宿、丸ビル、成田空港などにも店舗がありましたが、現在は本店の1店舗のみ。お客さまにとっては、六本木の深夜営業のイメージもいまだに根強いことと思います。
わたしは、そんな青山ブックセンターに2010年5月にアルバイトで入社。2018年11月に社員になるのと同時に、店長になりました。
せっかくの機会なので、わたしの自己紹介として生い立ちから振り返りたいと思います。なんだかんだ、今の仕事に通じる面があるので、どうぞお付き合いください。
アウェー感
わたしは東京で生まれたのですが、父親の転勤により、半年でイギリス・ロンドンに。5歳で日本に帰ってくるまで、現地の幼稚園、小学校(イギリスは就学が早い)に通い、5歳児なりの英語を話していたらしいです。そう、一応帰国子女なのですが、現在は、本当に最低限の英語しか話せません。自分では、エセ帰国子女と思っています。帰ってきてからは、小学校、中学高、高校(18歳まではとにもかくにもサッカーざんまいでした。)、大学と横浜で育ち、現在は都内在住です。それなりに長い期間、横浜に住んでいても、なんだか地元意識が希薄というか、地元愛も芽生えませんでした。それどころか、どこかしらのアウェー感をずっと感じていました。それは今、都内に住んでいても、どこかで感じています。
このアウェー感とエセという感覚は、当店で働き始めて、いわゆる書店員とよばれる今もあります。ありますというより、これからも無くさないように大切にしています。
書店や出版の世界は、昔からの風習がたくさん残る、かなり特殊な世界です。わたしはその特殊さに慣れたり、染まりたくもないからです。
仕事をする上で、仕組みは仕組みなので風習を理解することも大切です。ですが、書店が商売である以上、他の業種や業界で当たり前でしていることをやらない理由にはならないはずです。もちろん書店に、合う、合わないことはありますが、何もやらないで、解像度の低い言葉、「出版不況」と括られてしまうのは何なんだろうと思っています。
売れない原因から目を背けて、時代のせいだと決めつけるのも、決めつけられるのも、違うのではないかと思うのです。
書店員として
入社当時は最低時給からのスタートでした。応募するときからわかっていたこととはいえ、この土地でこの時給かと、働き出して、初めて書店の利益構造を知りました。とてもこれだけでは食べていけず、他にも夜勤を掛け持ちしていました。
しかし、東日本大震災が、腰を据えて、本屋・書店という仕事に打ち込みたいと思うきっかけになりました。
仕事はいわゆる検品と返品業務から始め、レジ業務を始めた際は、8時間勤務中7時間は、レジに立っていました。当時は、まだクレジット払い+領収書のお客さんが9割くらいいらして、毎日、張り付いた笑顔で内心「またか」と舌打ちしながら(本当に申し訳ございません…)、必死にレジ業務をやっていました。このレジ業務を通して、どんなお客さんがどういう本を買っていくのか、どういうジャンルをまたいでまとめ買いされるのか、最初は無意識に、だんだん意識的に身体に叩き込むことができるようになりました。これは10年たった今でも、いろいろ考えていく上で、間違いなく基礎となっています。
棚担当としてはデザインのアシスタントから始まり(同時にイベントの準備、撤収、受付)、洋雑誌、新書、文芸、思想と、決して本読みではなかったわたしは、洋雑誌以外はゼロベースどころか、マイナスからのスタートでした。幸いにもこだわりが全くなかったので、いろいろと覚え、吸収していく毎日は本当にたのしかったです。
棚担当を持つことができたのは、自分が偉くなったわけではなく、冒頭上記の通り、会社の体制が変化していく過程で、社員の数が減り、仕事が降ってきて、無我夢中で打ち返していた結果でした。いちばんひどいときは、8ジャンルくらい担当し、毎日店内を走り回っていました。アルバイトながらも、リニューアル時には棚の色やレイアウトアウト案を採用して(押し通して)もらうなど、なかなか得難い経験をさせてもらいました。リニューアルを機に、イベント担当として、トークイベントの開催を昔のように増やし、多くて月に25本、平均15本ほど開催。一時期、売上も上がり続け、今年2020年にはロゴの変更、出版プロジェクトの立ち上げも担当しました。
終わりに
ざっと、こんな感じで生きてきて、書店員として働いてきました。環境における、自分の年齢におけるタイミングと、自分の興味関心が当店にいらっしゃるお客さんと重なる面が多かったことが本当に幸運だと思っています。
この連載では、多様化する書店において、当店目線からのこれからの書店(青山ブックセンター)や、お店の現状・考え方(棚やスリップやイベント、ロゴの変更など)、出版の現状とこれから、とあわせて毎回、わたしのおすすめの本を紹介していきたいと考えています。
今回はここまで。最後に、わたしがお店づくりを考えていく上でとても参考になったなと感じた本を紹介して終わりたいと思います。
今回の1冊
執筆:武田砂鉄・山下賢二・小国貴司・Z・佐藤晋・馬場幸治・大石トロンボ・島田潤一郎
町にある「新古書店」について、8人のヘビーユーザーたちがさまざまな角度から話し、書き下ろした1冊です。店員やお店として愛のある指摘やそれぞれの視線で多面的に捉えられているのがとてもおもしろいです。わたし自身も学生のときに、中目黒店や渋谷センター街店でどれだけお世話になったかわかりませんが、そんな書店のたのしみ方があったのかと、これからのお店を考えていく上でもヒントがたくさんありました。ぜひ。
山下優Twitter:https://twitter.com/yamayu77
青山ブックセンター本店 公式HP:https://aoyamabc.jp/
書き手 / 山下優
バナー、プロフィール写真 / 植本一子
編集 / 西巻香織