400年以上前から引き継がれるもの
佐賀県の肥前で、400年以上も続く“やきもの”の技術・文化。
それぞれの背景や技法、仕上がりの特徴は実にさまざまですが、長きにわたって、いくつもの窯元で大切に受け継がれてきたものであることに変わりはありません。
中でも、唐津・伊万里・武雄・嬉野・有田の5地域が集まるプロジェクト「HIZEN5」と、minneがコラボレーションすることで、やきものの新たな可能性を検討することとなり、窯元の技術と作家さんのアイデアを掛け合わせたいくつもの共作が誕生しました。
ひとつひとつは小さな作品ですが、この融合に大きな感動と可能性を感じています。
そんな期待を胸に、この秋、はるばる佐賀の地を訪ね、いくつもの窯元さんを巡らせていただくことができました。
嬉野「224porcelain」
スタイルにとらわれることなく、新たなデザインを取り入れ、幅広い年齢層から注目を集めている嬉野の『肥前吉田焼』。
まさにそんな「型にはまらない」活躍をされているのが、「224porcelain」の辻諭さんです。
【224shop+saryo】というショップ兼カフェも営まれていて、2Fのショップでは224porcelainのプロダクトを中心に さまざまなアイテムをそろえており、1Fのsaryoでは嬉野茶と佐賀・嬉野のお菓子を224porcelainの器でいただくことができます。
ショップに並ぶ、色鮮やかで美しい器たちには、思わずうっとりさせられます。
もちろん作陶にも並々ならぬこだわりがあることが、工房からも作品からも見て取れます。
そんな工房には、なんと3Dプリンターが。
そこはいわゆる「窯元」とはちがい、パソコンや機材が並んだ整頓された空間。
今回の共作では、陶片やすでに用意のあるパーツではなく、その3Dプリンターの型作りからはじめていただくこととなりました。
コラボしたのは、アクセサリー作家のLamipasさんです。
Lamipasさんの頭の中にあるイメージにすこしでも近づけるため、2人のやりとりはデザインの詳しい設計を辻さんに伝えるところから始まりました。
そうして完成したのが、一見やきものには思えない、緻密で白が美しいケーキモチーフのブローチたち。
有田の「文翔窯(ぶんしょうがま)」
普段使いの食器から美術工芸品まで、400年以上前から幅広く生み出し続けている「有田」は、まさにやきものの名産地です。
お父様の代から使われているという「文翔窯」さんの工房にもお邪魔しました。
有田焼の技術で幅広いものづくりを手がけられています。文房具からインテリアの一部、オブジェなどラインナップはさまざま。
「文房具をはじめ、今つくっているもののほとんどは、父親がはじめたものなんですよ」と語ってくださってのは、森田文一郎さん。有田焼の美しい絵付けも手がけられています。
工房には、太さや毛質の異なる筆をはじめ、数々の道具がずらり。
幅広いカテゴリーの作品を制作されている中、そのほとんどすべての工程を一貫して自分たちで手がけられているというから、おどろきです。
特に神経を使うのが「ボールペンの生地づくり」だといいます。
これには一同納得。繊細で細やかな技術が光ります。
コンセントカバーも美しい絵付けの技術で優雅な雰囲気に。
数百年前の古伊万里の柄なども、絵付けの参考にされているのだそう。
有田「陶悦窯(とうえつがま)」
最後にご紹介するのは、複数の窯を持つ大きな窯元「陶悦窯」さん。
特別に、中をじっくりと見学させていただくことに。
多くの職人さんたちがずらりと横一列に並び、型取りなどそれぞれの作業をされています。
また、別の作業場では、美しい所作で絵付けが次々とほどこされていく様子が。
できあがった器たちを高く積み上げ、棚のようにして窯に入れます。大変な重さですから、なかなかの重労働です。
外に出て見上げると、「陶悦」と記された高い高い煙突が、わたしたちを見下ろしていました。
有田焼の複数の窯元からも、陶片をたくさん譲り受けました。
大きなものから、細かく砕かれたものまで、色も形も実にさまざまです。
簡易金継ぎでアクセサリーづくりを手がけるichiさんが、そんな陶片と天然石を金継ぎで融合させ、美しいピアスを完成させてくれました。
さりげないのに、しっかりと魅力を放つ、特別なアイテムが完成しました。
「実は、有田焼なんだよ」という会話は、間違いなくどこかで交わされることとなりそうです。
引き継ぎ、そして新たな文化をつくる
これまでの歴史と伝統を重んじ、たしかな技術と信念を引き継ぐということは、決して「このまま」を続けるということではなく、「これから」のために新たな可能性を探り続け、いつまでも活気ある産地であり続ける必要がある、ということを窯元のみなさんの姿勢に気付かされることとなりました。
これから、もっともっと「やきもの」を好きになる。
そんな予感で胸がいっぱいの旅となりました。
文 / 中前結花、堀田恵里香、西巻香織 撮影 / 真田英幸・中村紀世志
企画・ディレクション / 中村瑛美里・中前結花