最終回を迎えました
こんにちは、青山ブックセンター本店店長の山下です。
この連載は今回が最終回です。
当店について、コロナの影響を受ける前から考え続けてきたことが、コロナによって、うっすらと輪郭をおびてきました。明確な答え、ゴールではありませんが、現時点での過程として今ある考えをお伝えして、連載を終えたいと思います。
無駄を省く時代に
このコロナで、地域によってはもちろんバラつきはあると思いますが、本に限らず、あらゆるモノを、オンラインストアで購入することが増えたと思います。
コロナだから特別にという意味ではなく、以前から想定されていたことが、想定以上に加速したという状況ではないでしょうか。
買いたい、欲しいモノが決まっている場合は、親指を少し動かすだけで、日用品も、昼食や夕食も、ありとあらゆるものが届きます。家から一歩も出ずに、1日が完結します。とにもかくにも、便利です。「無駄」な時間を省くことができます。
ある日、便利さに慣れきって、なぜオンラインストアなのに在庫がないのか、なぜ届くのが遅いのか、と苛立つ自分がいることに気付きました。
自動化、機械化が進んでいるとはいえ、モノの先に「人」がいることを忘れて、自己中心的に便利さを追求していたからです。もっと便利に、速くという期待に応え続けることは、商機のひとつだと思います。ただ、便利さの追求には、際限がありませんし、資金、資本が大きいところには敵いません。特に本屋の場合は、現時点では、amazonの存在が大きいです。
ではなぜ、わざわざ実店舗の書店である必要があるのか。その意味をずっと考え、問われ続けています。
書店だからできること
今後、間違いなく、ますます書店の数は減っていきます。電子書籍への流れも増えていくはずです。ただ、本屋は、以前からよくいわれてきたように「偶然の出会い」が起きやすい場所です。無意識を意識化できる場所でもあるはずです。
例えば、どこかで既に売れた全国ランキングが高いベストセラー本が中心ではなく、当店だからこそ届けられる本を、どれだけ多くつくっていけるか。当店に来店することが「無駄」な時間にならず、あそこに行けば何かがある、欲しい本だけではなく読みたい本が見つかる。便利さの追求にはない、豊かな感性を磨く刺激や肥しになる。そんな、便利さの追求の先とは異なる、効率の良さを超えて、あえての「心地いい不便さ」をどうつくっていけるかがポイントになっていくと思います。
全くインターネットやデジタルを活用しないという意味ではありません。コロナの影響下で、大きな声で来店を促すこともできないので、オンラインストアも速さや安さとは異なる形で、充実させていきます。
書籍が放つメッセージ
お店をつくっていく上で、明確な正解やマニュアルはありませんが、スタッフ全員が、興味関心を広く、かつ深く持とうとし続けること、お客さまにとことん向き合い続けることは間違いなく必要です。
書店は、本の流通の流れだけ追えば、最下流部のひとつに過ぎないかもしれません。が、末端だからこそ感じること、できることがあるはずです。
また、お客さまにとっては、本との大事な出会いの入り口です。単なる紙の束を売っている訳ではないので、書籍から発せられているメッセージをどう受け取っていけるかが重要だと考えています。
終わりに
当店は、たくさんのお客さま、著者、出版社のみなさまに支えられています。本当にありがたいことです。出版プロジェクトも、ロゴの刷新も本を届けていくためです。しっかりと存在し続け、返し続けていきたいと思います。
最後まで、読んでいただき、ありがとうございました。ほぼ自由に本屋の活動や考えを書く場をいただいた「minneとものづくりと」編集部にも感謝してもしきれません。またみなさまとどこかで再会できましたらうれしいです。
今回の1冊
山下優Twitter:https://twitter.com/yamayu77
青山ブックセンター本店 公式HP:https://aoyamabc.jp/
書き手 / 山下優
プロフィール写真 / 植本一子
編集 / 西巻香織