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【店長・山下優 連載】本屋のABC 第8回「心地いい不便さをつくる」

青山ブックセンター本店・店長の山下優さんによる連載。お店づくりや商品の売り方などと合わせて、毎回1冊おすすめの書籍をご紹介いただきます。今回は、何かと便利なオンラインの時代に、実店舗だからできることについて、その考えを綴っていただきました。

最終回を迎えました

こんにちは、青山ブックセンター本店店長の山下です。
この連載は今回が最終回です。

当店について、コロナの影響を受ける前から考え続けてきたことが、コロナによって、うっすらと輪郭をおびてきました。明確な答え、ゴールではありませんが、現時点での過程として今ある考えをお伝えして、連載を終えたいと思います。

無駄を省く時代に

このコロナで、地域によってはもちろんバラつきはあると思いますが、本に限らず、あらゆるモノを、オンラインストアで購入することが増えたと思います。
コロナだから特別にという意味ではなく、以前から想定されていたことが、想定以上に加速したという状況ではないでしょうか。

買いたい、欲しいモノが決まっている場合は、親指を少し動かすだけで、日用品も、昼食や夕食も、ありとあらゆるものが届きます。家から一歩も出ずに、1日が完結します。とにもかくにも、便利です。「無駄」な時間を省くことができます。

ある日、便利さに慣れきって、なぜオンラインストアなのに在庫がないのか、なぜ届くのが遅いのか、と苛立つ自分がいることに気付きました。

自動化、機械化が進んでいるとはいえ、モノの先に「人」がいることを忘れて、自己中心的に便利さを追求していたからです。もっと便利に、速くという期待に応え続けることは、商機のひとつだと思います。ただ、便利さの追求には、際限がありませんし、資金、資本が大きいところには敵いません。特に本屋の場合は、現時点では、amazonの存在が大きいです。

ではなぜ、わざわざ実店舗の書店である必要があるのか。その意味をずっと考え、問われ続けています。

書店だからできること

今後、間違いなく、ますます書店の数は減っていきます。電子書籍への流れも増えていくはずです。ただ、本屋は、以前からよくいわれてきたように「偶然の出会い」が起きやすい場所です。無意識を意識化できる場所でもあるはずです。

例えば、どこかで既に売れた全国ランキングが高いベストセラー本が中心ではなく、当店だからこそ届けられる本を、どれだけ多くつくっていけるか。当店に来店することが「無駄」な時間にならず、あそこに行けば何かがある、欲しい本だけではなく読みたい本が見つかる。便利さの追求にはない、豊かな感性を磨く刺激や肥しになる。そんな、便利さの追求の先とは異なる、効率の良さを超えて、あえての「心地いい不便さ」をどうつくっていけるかがポイントになっていくと思います。

全くインターネットやデジタルを活用しないという意味ではありません。コロナの影響下で、大きな声で来店を促すこともできないので、オンラインストアも速さや安さとは異なる形で、充実させていきます。

書籍が放つメッセージ

お店をつくっていく上で、明確な正解やマニュアルはありませんが、スタッフ全員が、興味関心を広く、かつ深く持とうとし続けること、お客さまにとことん向き合い続けることは間違いなく必要です。

書店は、本の流通の流れだけ追えば、最下流部のひとつに過ぎないかもしれません。が、末端だからこそ感じること、できることがあるはずです。
また、お客さまにとっては、本との大事な出会いの入り口です。単なる紙の束を売っている訳ではないので、書籍から発せられているメッセージをどう受け取っていけるかが重要だと考えています。

終わりに

当店は、たくさんのお客さま、著者、出版社のみなさまに支えられています。本当にありがたいことです。出版プロジェクトも、ロゴの刷新も本を届けていくためです。しっかりと存在し続け、返し続けていきたいと思います。

最後まで、読んでいただき、ありがとうございました。
ほぼ自由に本屋の活動や考えを書く場をいただいた「minneとものづくりと」編集部にも感謝してもしきれません。またみなさまとどこかで再会できましたらうれしいです。

今回の1冊

『広告 Vol.415 特集:流通』
出版社 : 博報堂
特集は「流通」。商品や作品が、つくり手のもとを離れてから受け手に届くまで、いったい何が起きているのか。全30記事を通して「流通」にまつわる課題や可能性を深掘り、「いいものをつくる、とは何か?」を思索するためのさまざまな視点が投げかけられる骨太な内容です。取次や運送会社、書店などを表紙に記載し、手元にとどくまでの全250種類の流通経路を可視化。段ボールを開封すると、そのまま表紙になる造本も、より一層手元に置きたくなります。
 

山下優
青山ブックセンター本店店長。1986年生まれ。2010年、青山ブックセンター本店入社。アルバイトを経て2018年11月に社員になると同時に店長に。
山下優Twitter:https://twitter.com/yamayu77
青山ブックセンター本店 公式HP:https://aoyamabc.jp/
 

書き手 / 山下優
プロフィール写真 / 植本一子
編集 / 西巻香織

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