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日本の焼き物の魅力
遡ること縄文時代から、1万年以上にわたる焼き物の歴史がある日本。現在でも日本各地で盛んに焼き物がつくられています。日本の焼き物の魅力は、手でつくられることで生じる不均整な造形の美しさ。厚みや手触り、色が均整でないところに自然の美しさが感じられます。また、日本各地の焼き物の産地によって独特の特徴があり、さまざまな風合いを楽しめるのも魅力のひとつ。その美しさは世界からも認められています。茶道や華道においても、焼き物はとても重要な役割を担っています。このように、日本における焼き物は、単なる“食器”としてだけではなく、芸術性や精神性を表すものとして、日々の暮らしの中にあり続けています。
陶器、磁器、炻器、土器の違い
次に焼き物の種類についてご紹介します。焼き物は大きく分けると陶器、磁器、炻器、土器の4つ。それぞれ原料や焼き上げる温度、仕上がりの質感などに異なる特徴があります。以下に、それぞれの特徴をまとめました。
主な原料:陶土と呼ばれる粘土
焼き方:釉薬をかけて1100〜1300度で焼成する
特徴:吸水性が高い、保温性が高い
叩いたときの音:鈍い音
磁器(じき)
主な原料:長石や珪石などの陶石を粉砕した石粉
焼き方:釉薬をかけて1300〜1400度で焼成する
特徴:吸水性はほとんどない、光にかざすとほんのりと透けて見える
叩いたときの音:金属のような音
炻器(せっき)
主な原料:鉄分を多く含む粘土
焼き方:釉薬をかけずに1200~1300度で焼成する
特徴:吸収性はほとんどない、陶器と磁器の中間のような特性をもっている
叩いたときの音:陶器よりも澄んだ音
土器(かわらけ)
主な原料:粘土
焼き方:釉薬をかけずに700~800度で焼成する
特徴:吸水性が高い、もろく壊れやすい
使用される原料から、陶器は「土もの」、磁器は「石もの」とも呼ばれ、炻器と土器についても広い意味では陶器の仲間とされています。釉薬(ゆうやく)は陶磁器の表面を覆うガラス質の層のこと。「うわぐすり」とも呼ばれ、釉薬をかけることでさまざまな色やツヤ、質感を表現することができます。食器などに用いられる陶磁器には釉薬が施されているものが多く、釉薬をかけない土器は植木鉢などで使われるのが一般的です。
日本六古窯(にほんろっこよう)とは?
日本六古窯(にほんろっこよう)とは、縄文から続いた焼き物の技術を継承しながら現在まで生産が続いている代表的な6つの産地(越前・瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前)の総称です。日本六古窯は、中国大陸などから渡来した技術によって始まった他の焼き物とは区別されており、生粋の日本の焼き物の産地のことを指します。
【一覧】有名な焼き物の産地と特徴
日本全国にさまざまな焼き物の産地が存在しています。その中でも特に有名なものをピックアップして、特徴をご紹介します。
益子焼(ましこやき)【栃木県】
栃木県芳賀郡益子町の焼き物、益子焼。江戸時代の終わり頃からの歴史をもつ焼き物です。笠間焼とともに、関東を代表する焼き物のひとつですが、江戸時代末期に、笠間焼の修行をしていた大塚啓三郎が、益子町で釜を築いたことから、その歴史が始まったといわれています。
益子焼の特徴は砂気が多く、粘性が少ない陶土の質感。細かい細工がしにくい質感であることから、ぽってりとした厚みのある焼き物に仕上がります。その素朴なフォルムは手に馴染みやすく温かみが感じられ、益子焼ならではの魅力になっています。また、益子焼は釉薬がのりやすいことから、白化粧や刷毛目などといった伝統技法を使い、独特で力強い作品が多く生み出されています。
九谷焼(くたにやき)【石川県】
石川県九谷地方でつくられている九谷焼の始まりは、1655年(明暦元年)。有田で陶芸を学んでいた後藤才治郎が開窯しますが、わずか半世紀ほどで廃窯。その約100年後、加賀藩城下町の金沢や小松、発祥の地大聖寺藩内の九谷や山代などで、再び九谷焼がつくられるようになりました。その後、石川県南部の各地に窯が増えたことで、九谷焼が息を吹き返したといわれています。
九谷焼の最大の特徴は、優美で鮮やかな色彩。緑色を印象的に配色する「青手」や、「九谷五彩(くたにごさい)」と呼ばれる赤・黄・緑・紫・紺青の5色の絵の具を厚く盛り上げて塗る「色絵」と呼ばれる絵付け技法が使われています。普段使いの器としてはもちろん、その芸術性の高さから、ハレの日を彩る器としても活躍しています。
美濃焼(みのやき)【岐阜県】
美濃焼の起源は、5世紀頃。朝鮮半島から須恵器と呼ばれる焼き物の製法とともに、ろくろと穴窯が伝えられたことを機に始まります。美濃焼が生産されている岐阜県の東濃地方は、日本一の陶磁器の生産地として知られており、国内シェア率はなんと5割を占めています。
伝統工芸品として指定されている美濃焼は、15種類あり、代表的なものは千利休によって確立された「織部」。古田織部の美学によってつくられ、深い緑色をした織部釉と呼ばれる緑釉が特徴的な陶器です。多種多様な美濃焼だけに、特徴がないといわれることも多い焼き物ですが、15種類もの様式が存在すること、そして、生活に溶け込みやすいことが特徴だといえます。
瀬戸焼(せとやき)【愛知県】
瀬戸焼は、日本古来の陶磁器窯のうち、中世から現在まで生産が続く代表的な6つの窯「日本六古窯」のひとつ。瀬戸焼は唯一、中世から施釉陶器が発展した産地です。釉薬を使った焼き物は素焼きに比べて耐水性に優れており、また、釉薬ならではの色や模様などが実用食器として好まれ、東日本を中心に日本全国に流通しました。
江戸時代に九州を中心に磁器の生産が始まると、瀬戸でも磁器の生産をスタート。以来瀬戸焼では、磁器を「新製焼」または「染付焼」、陶器を「本業焼」と称して呼び分けました。現在でも、磁器と陶器の両方がつくられており、これは日本の焼き物の中でも大変珍しいといえます。
常滑焼(とこなめやき)【愛知県】
常滑焼も瀬戸焼と同じく「日本六古窯」のひとつ。その中でも3,000基もの穴窯があったといわれており、当時最大規模の産地でした。もともとは、大壺などの大型貯蔵具がつくられていましたが、江戸時代になると、鉄分を多く含んだ陶土を使い、鉄分を赤く発色させる朱泥(しゅでい)製品が焼かれるようになりました。
茶碗などさまざまな製品がつくられていますが、中でも急須は、常滑焼を代表する製品になっています。土に含まれる鉄分がお茶に含まれるタンニンに反応して、お茶の苦みや渋みをまろやかにするといわれ、現代でも広く愛用されています。
信楽焼(しがらやき)【滋賀県】
滋賀県甲賀市信楽町周辺でつくられている陶磁器「信楽焼」も日本六古窯のひとつです。信楽焼の特徴は、耐火性と荒い土質。焼成することによって、ほのかな赤色に発色し、赤褐色系統の火色(緋色)が生まれます。この風合いの変化の様は“窯あじ”といわれており、焚き方や温度によって、微妙に色合いなどが変化します。
そんな信楽焼ならではの味わいや温かみが好まれ、現在では、食器や花器、タイルなど幅広い製品がつくられて、生活に溶け込んでいます。1976年には国の伝統工芸品として指定され、「陶器の町、信楽」としても親しまれています。
丹波焼・丹波立杭焼(たんばやき・たんばたちくいやき)【兵庫県】
丹波焼は丹波立杭焼ともいい、兵庫県篠山市今田周辺でつくられる陶器のことをいいます。常滑焼や瀬戸焼と同じく「日本六古窯」のひとつで、発祥は平安時代末期から鎌倉時代初期。人工的な釉薬を使用しない「自然釉」を用いた落ち着きのある緑色や鳶色の色味が特徴です。
そして丹波焼・丹波立杭焼のもうひとつの特徴として挙げられるのが、「灰被り(はいかぶり)」による独特の色と模様。窯でおよそ60時間、1300度という高温でじっくりと焼き上げる間に、器に薪の灰が降りかかり、陶土の成分や釉薬などと化学反応を起こすことで、それぞれにふたつとない模様や色合いが生まれます。
備前焼(びぜんやき)【岡山県】
備前焼は日本六古窯のひとつで、千年の歴史をもっています。遡ること古墳時代、朝鮮半島から伝わった須恵器の製法をもとに発展していった陶磁器です。そこから変化を遂げ、平安時代に生活のためのお碗や瓦などをつくったのが始まりだといわれています。
備前焼は、釉薬を使わないのが特徴。そのため、土のもつ温かみや、光沢のない素朴さが魅力の焼き物です。焼成時の窯の中の状態によって、表面の色が異なるため、同じものをふたつとつくることができません。そのため、「土と炎の芸術」とも呼ばれています。
清水焼(きよみずやき)【京都府】
京都府を代表する陶磁器、清水焼。清水寺の参道である五条坂界隈でつくられていたことから清水焼と呼ばれるようになりました。清水焼の特徴は、さまざまな技法や土を使ってつくられていることです。というのも、京都では陶土になる原料が採れないため、職人たちが各地から土を取り寄せてブレンドして使用しており、職人によって異なる特色をもっています。
また、京都には「茶の湯」などの伝統的な文化のほか、京料理や和菓子なども豊富。その歴史とともに清水焼が発展してきたといわれています。量産品が多くなった現在においても、全工程を手作業で行い、屏風絵や掛け軸を彷彿とさせるような優美で絵付けや色彩が多く用いられています。
萬古焼(ばんこやき)【三重県】
三重県四日市市でつくられている陶磁器、萬古焼。萬古焼は、江戸時代中期、桑名の豪商で茶が趣味だった沼波弄山(ぬなみろうざん)が窯を開き、始めたものです。当初より、茶碗や皿などの日用品をはじめ、壺などの芸術品もつくられてきましたが、萬古焼は耐熱性に優れていることから、時代とともに、急須や土鍋などが多くつくられるようになりました。
特に土鍋の国内シェア率は8〜9割を占めています。使えば使うほど光沢が増し、味わいが変化していく姿も楽しむことができる焼き物です。
萩焼(はぎやき)【山口県】
萩焼の歴史は江戸幕府が開府して間もない1604年頃、萩藩代藩主毛利輝元によって朝鮮から招かれたふたりの兄弟が、松本(萩市)に御用窯を開いたことに始まります。当初は侘茶の茶碗として流行した「高麗茶碗(こうらいちゃわん)」の手法がそのまま用いられましたが、後にさまざまな流派が生まれました。
萩焼は絵付けがほとんど行われないので、土を活かした素朴な仕上がりが特徴的。また、釉薬との伸縮率を利用して表面にできた細かいひび模様「貫入」と、貫入にお茶などが染み込んで味わいが変化する「七化け(ななばけ)」などを利用して陶磁器の個性を出しています。萩焼の多くが茶器として用いられ、茶道の世界では「一楽、二萩、三唐津」といわれるほどになりました。
小石原焼(こいしわらやき)【福岡県】
日常使いの器でありながら、柳宗悦らが「世界一の民陶」と評した小石原焼。小石原焼の歴史は江戸時代まで遡ります。福岡で開窯された焼き物・高取焼の初代高取八蔵の孫にあたる八之丞が、小石原地区中野で小石原陶土を発見。中野皿山に開窯し、茶陶を中心に焼き始めたことから始まりました。
その後、鉋と呼ばれる道具を器の表面に当ててろくろを回し、連続した模様を刻む飛び鉋(とびかんな)と呼ばれる方法や、刷毛や櫛を使って模様をつける方法が誕生し、小石原焼の今の姿につながっていきました。
有田焼・伊万里焼(ありたやき・いまりやき)【佐賀県】
伊万里焼と有田焼は、佐賀県有田町周辺でつくられている磁器のこと。江戸時代、有田で焼かれた磁器が、現在の伊万里川河口付近から輸出されていたことから、伊万里焼という名前が広がりました。明治時代以降になると、有田町近辺でつくられた磁器は有田焼と呼ばれるようになります。
現代では、当時の伊万里焼と現代の伊万里焼を区別するため、江戸時代につくられたものは「古伊万里」と呼んでいます。伊万里焼と有田焼は、滑らかな肌触りと、白く美しい磁肌に華やかな絵付けが特徴的。日常使いがしやすく、耐久性が高いことから、日用品として親しまれています。
唐津焼(からつやき)【佐賀県】
唐津焼は、佐賀県の唐津市でつくられている陶磁器です。16世紀頃から生産されている伝統工芸品で、茶陶器をはじめさまざまな種類がつくられています。かつては、東は「せともの」西は「からつもの」と呼ばれるほど焼き物の産地として名を馳せました。
唐津焼の特徴は、ざっくりとした粗い土を使い、素朴だけれど粗野ではない風合い、そして多彩な装飾技法です。草木や花、鳥などを描いた「絵唐津」や、黒釉と白釉を掛け分けた「朝鮮唐津」などの技法があります。強い個性や主張をもたないことから、料理や花などの器としても人気があります。
波佐見焼(はさみやき)【長崎県】
長崎県東彼杵郡波佐見町でつくられている波佐見焼。磁器として知られていますが、窯を築いて間もないころは、陶器をつくっていました。現在の染付・青磁が主流になったのは、1602年以降のことだといわれています。
波佐見焼の特徴は、透けるような白磁の美しさ、そして、呉須と呼ばれる藍色で絵付けされた繊細で美しい模様です。時代に合わせて改良を重ねながら、生活食器として庶民に親しまれ続けており、今も日用和食器の出荷額は全国3位を誇っています。
やちむん【沖縄県】
「やちむん」とは、沖縄の方言で焼き物のことを指す言葉です。その歴史は長く、沖縄が琉球王国と呼ばれていた1600年頃、朝鮮人の陶工三人が製陶技法を伝えるために訪れます。さらに、1682年に当時の琉球王国の長である尚貞王が、点在していた窯場を牧志村に集めたことが、やちむんの基礎となる「壺屋焼」が生まれるきっかけとなりました。
壺屋焼は大きく、荒焼(アラヤチ)と上焼(ジョウヤチ)に分けられます。当初は釉薬をかけず、低温焼成する荒焼でしたが、その後、紋様や絵付けを施して釉薬をかける上焼が成立したといわれています。鮮やかで躍動感あふれる模様が特徴的で、コバルトブルーや緑、茶色などが多く用いられます。
焼き物の使い始めにすること
陶器を長く綺麗な状態に保つためには、「目止め」をすることが大切です。陶器は吸水性が高いため、そのまま使用すると水が染み出したり、変色やにおい移りを起こしてしまうことがあります。「目止め」とは、それらを防ぐために表面をコーティングする作業のこと。目止めに必要なものは、米の研ぎ汁、もしくは水に小麦粉か片栗粉を溶かしたものだけ。でんぷん質が陶器の凹凸に入り込み、穴を塞ぐ役割を果たしてくれます。磁器や炻器は吸水性がほとんどないので、変色やにおい移りの対策として使い始めに目止めをする必要はありません。
2. 煮沸したら、火を止めて器を鍋に入れたまま自然に冷めるまで放置します。
3. 冷めたら器を取り出し、丁寧に洗ってぬめりを落としてよく乾かします。
2. 弱火でじっくりをおかゆをつくります。
3. おかゆができたら、そのままの状態で冷まします。
4. おかゆを取り出し、綺麗に洗って乾かし完成です。(このときに炊けたおかゆは食べられます)
陶器の種類によっては、目止めをすることで逆ににおいやカビの原因になる場合もあるため、器の取扱説明書に従うようにしましょう。
焼き物に関するよくある質問
最後に、焼き物に関するよくある質問をピックアップしてご紹介します。
焼き物にはどんな種類がある?
焼き物には大きく分けると陶器、磁器、炻器、土器の4つの種類があり、それぞれに原料や焼き上げる温度、仕上がりの風合いなどの特徴があります。それぞれの詳しい特徴はこちらの章で解説しているのでご覧ください。
陶器と磁器の違いは?
陶器と磁器の最も大きな違いは、使用している素材です。陶器は陶土と呼ばれる粘土を使用しているのに対し、磁器は長石や珪石などの陶石を粉砕した石粉を使用します。その特徴から陶器は「土もの」、磁器は「石もの」とも呼ばれています。また、素材が異なることで、製法や仕上りの風合いも異なります。軽く叩くと鈍い音がするのが陶器、金属のような硬い音がするのが磁器、という覚え方もあります。
日本の有名な焼き物は?
益子焼、九谷焼、美濃焼、瀬戸焼、常滑焼、信楽焼、丹波焼(丹波立杭焼)、備前焼、清水焼、萬古焼、萩焼、小石原焼、有田焼、伊万里焼、唐津焼、波佐見焼、やちむん他、数多くの有名な焼き物が日本にはあります。代表的な焼き物の種類と特徴、産地についてはこちらの章で紹介しているのでご覧ください。
焼き物の使い始めのお手入れ方法は?
陶器を綺麗な状態で長く使い続けるためには、「目止め」という作業が必要です。陶器はその吸水性の高さから、変色やにおい移りなどを起こすことがあり、「目止め」を施すことでそれらを防ぐことができます。方法としては、米の研ぎ汁、もしくは水に小麦粉か片栗粉を溶かしたものを陶器の器と一緒に鍋に入れて煮沸し、冷めるまで放置してからよく乾かします。詳しい目止めの手順についてはこちらの章で解説しているのでご覧ください。
知るほど楽しい、焼き物の魅力
日本の有名な焼き物について、種類や特徴、産地、お手入れ方法などをご紹介しました。焼き物は種類が豊富なため、特徴を知るほどに違いを楽しむという魅力も発見できます。
minneには他にも素敵な「焼き物」がたくさんそろっています。お気に入りを見つけて、ぜひ食卓で楽しんでくださいね。