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新作おしえてvol.62「照工房ノブさんの新作、祈りの蓮華袋「吹き寄せ」」

作家さんにSNSで「新作」を募集し、編集部の目にとまった素敵な作品を、制作の背景と交えてご紹介していきます。今回ご紹介するのは照工房ノブさんの新作、「祈りの蓮華袋「吹き寄せ」」です。

作り手は、照工房ノブさん
“歴史ある美しい刺繍をもっと身近に”との想いから、絹地に絹糸で刺繍を施す「日本刺繍」の技法で「祈りの蓮華袋」を制作。
https://minne.com/@teru-kobo

照工房ノブの「蓮華袋」が生まれるまで

15年ほど前、東京藝術大学美術館で開催されていた『尼門跡寺院の世界』。その展示内容からインスピレーションを受け、蓮華袋が生まれたのだそうです。

照工房ノブ
『尼門跡寺院の世界』の展覧会では、小さな菩薩さまや美しい絵の描かれた散華がたくさん展示されていました。菩薩さまに花弁をふりかけることは信仰の深さを表すそうです。わたしに特定の信仰はありませんが、幼い頃から仏門に入った皇女たちのこの小さな慈しみの世界は、深く心に残りました。

花菖蒲を薬玉文様にアレンジした、「日本刺繍/祈りの蓮華袋『花菖蒲の薬玉』」シリーズ。

照工房ノブ
その後に、この散華の形(蓮の花びらの形)をそのまま巾着袋にすることを思い付き、「蓮華袋(れんげぶくろ)」と名付けて作品の制作をはじめました。前々から、“着物を着ない方にも日本刺繍を知ってもらいたい”“手にとって親しんでもらいたい”という想いがあったので、このひらめきは運命でした!

美しい日本刺繍を知ってほしい

季節の花々を中心に刺繍された、照工房ノブさんの作品。制作においてのこだわりについてうかがってみました。

二羽の鶴に老松を合わせた、縁起のいいデザイン。
「祈りの蓮華袋『夫婦鶴』(ベージュ地)」

照工房ノブ
「日本刺繍」をご存知の方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。
日本刺繍とひと口に言ってもさまざまですが、高価な着物に施されることが多いので、着物に縁のない方には全くと言っていいほど知られていないのではないでしょうか。
かくいうわたしも初めて日本刺繍を知ったのは、20代も半ば過ぎ、本屋さんに並んだ手芸本を手に取ったことがきっかけです。程なくして運よくその技法を学ぶ機会を得たのですが、それは(この先も)長い訓練を必要とする奥深いものでした。

照工房ノブ
そして、人の手が生み出す針目の美しさにすっかり魅了され…“この美しい刺繍を、ぜひもっとたくさんの方に知ってもらいたい”“わたしが日本刺繍に出会ったときの感動をみなさまにも伝えたい!”と、ますます強く思うようになりました。

ボリューム感のある八重桜がモチーフ。
「祈りの蓮華袋『八重桜』(鶯色地)」

照工房ノブ
絹地に絹糸で刺しますので、艶々と輝くのが日本刺繍最大の特徴です。また、他の刺繍と違い、その糸にはよりが掛かっていません。繍う部分やモチーフのイメージに合わせてよりを掛けたり、よりを掛けないまま使ったりするのです。色を混ぜることもありますし、太さも自在に変えられます。ですので、作品をつくる際には糸の太さやよりをそれぞれのモチーフに合うように加減し、針目をリズミカルに整えて、絹糸の持つ輝きを最大限に引き出せるよう意識しています。

「蓮華袋」に込められた想い

吉野山のような、霞たなびく遠景の桜をイメージ。
「祈りの蓮華袋『花霞』(鶯色地)

照工房ノブ
蓮華袋は、ひとつひとつ手縫いで仕立てています。刺繍をした袋本体に口布をつけ、紐を通して結びますが、これは、着物に帯や帯締めを重ねていくことに似ていると思いませんか?
着物は、デザイン性や染織技術の素晴らしさはもちろんのこと、染め替えたり縫い直したり…形を変えながら一枚の布を何世代にもわたって使い切るという点においても、世界に誇るべき優れた文化です。

着物にも多く描かれている縁起のいい柄、「橘(たちばな)」をデザインした「日本刺繍・祈りの蓮華袋『橘(たちばな)』シリーズ。

照工房ノブ
しかし今日、着物は、庶民にとってあまりにもハードルの高いものになってしまいました。蓮華袋はとても小さなものですが、図柄には着物同様に季節感のある草花や縁起の良いモチーフを選び、着物をお召しにならない方にも着物の雰囲気をそのまま楽しんでいただけるよう工夫しています。
また、口布にはminneで購入したリサイクルの端切れを使うこともあります。手のひらサイズの小さな巾着袋ではありますが、着物文化の持つさまざまな魅力をぎゅぎゅっと詰め込んで、日本人の中にある慈しみの心のようなものを伝えていけたらいいなと、とっても欲張りに考えています。

新作は、祈りの蓮華袋「吹き寄せ」

照工房ノブ
吹き寄せ文様を取り入れた蓮華袋を制作しました。吹き寄せ文様というのは伝統的な図柄で、落ち葉の吹き寄せる秋の風情を表すだけでなく、「富貴寄せ」にかけた縁起物でもあります。

照工房ノブ
去年の晩秋、道端で目にした落ち葉の彩りに、ハッとしたことがありました。赤は思いのほか鮮やかで、黄色も、緑も美しく…コロナ禍でどこにもでかけられずにいたわけですが、足元に見つけたこの色とりどりの落ち葉に心が弾むのを感じて「来年は絶対に吹き寄せを繍う!」と心に決めていました。

照工房ノブ
カラフルに繍おう、と決めてはいたものの、小さな図案にたくさんの色を盛り込むのは大変でした。特にえんじ色の生地は、繍ってみると糸の色が違って見えるのです。茶系の糸はことごとく緑がかって見えるし、ちょっと薄い色は浮いて見え、ちょっと濃いと沈んでしまう…。
軽くパニックになっていましたが、インスタグラムで交流のある職人さんに「この生地色は難しくてわたしも苦手です」とコメントいただいて、吹っ切れました。

照工房ノブ
そうか、なら自分が悩むのは当たり前、ともかく自分の気に入るように繍ってみよう、と。また、別の方からは、「吹き寄せ文様はダイバーシティだ」とコメントいただきました。繍いながら、カラフルっていいな、力強いな、と思っていたところだったので、相通じるものを感じてとても嬉しかったです。

最後に、記事を読んでくださったみなさんに向けてメッセージをいただきました。

伝統の「尽くし文様」をアレンジし、クリスマスらしい色柄で埋め尽くした蓮華袋。
「祈りの蓮華袋『尽くし文様・聖夜』」

照工房ノブ
最後までお読みくださり、ありがとうございます。興味を持っていただき、嬉しいです。ぜひminneのショップもご覧になってくださいね。一点ものですので売り切れが多いのですが、ギャラリー代わりにそのまま展示しています。人気の柄は季節等に合わせて再度おつくりすることもございますし、これからも新作を交えてすこしずつご案内して参りますのでどうぞ気長にお付き合いくださいませ。

毎回好評の「お地蔵さんシリーズ」も新作を同時に発表。

照工房ノブ
また、インスタグラムでも制作過程を紹介したり、日々思うことなど綴っております。蓮華袋や日本刺繍をもっと知りたい!と思われましたらぜひご覧ください。それでも、写真では伝えきれないのが絹糸のなめらかな輝き…これはやっぱり、実物をご覧いただきたいです!日本刺繍は、デパート等の実演販売や各地のお教室の作品展でも見ることができますよ。(日本刺繍は、地域によっては京繍(きょうぬい)、加賀繍(かがぬい)、江戸刺繍などとも呼ばれます)針目に祈りを込める心のありようは、いにしえから今日にいたるまで世界共通のようにも思います。針仕事を愛するみなさま、これからも一緒にものづくりを楽しみましょうね。いつかみなさまと、蓮華袋をつくる喜びを分かち合えたら嬉しいです。

・日本刺繍/祈りの蓮華袋「吹き寄せ(丸)」
https://minne.com/items/33976256
https://minne.com/items/34124608

・日本刺繍/祈りの蓮華袋「吹き寄せ(積)」
https://minne.com/items/34124645
https://minne.com/items/34124716

・日本刺繍/祈りの蓮華袋「吹き寄せ(尽)」
https://minne.com/items/34124784
https://minne.com/items/34124885


連載「新作おしえて」はSNS連動企画です。minne作家のみなさんは、TwitterまたはInstagramにて「#新作おしえて」「#minneとものづくりと」の2つのタグをつけ、新作画像と作品URLをつけてぜひご投稿ください。

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文 / 堀田恵里香

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