雑貨デザイナー・minimumsさんにお話をうかがいました。
minimums
「小さな世界」をコンセプトに、レーザー加工機で切り出した木や革、アクリルなどを組み合わせて、回転木馬やサーカステントといったインテリア雑貨を制作。https://minne.com/@minimums2018
コツコツと組み立て貼り付ける
8月の太陽の照りつくある日。minimumsさんが活動されている愛知県のアトリエへminne編集部がお邪魔しました。
今回の主役は、赤いサーカステントに観覧車や気球など、見るだけでわくわくする世界観の作品を手がけるminimumsの西野圭一郎さん。「暑い中、遠いところまでありがとうございます」と、奥さまの陽子さん、相棒のパグ助が一緒に出迎えてくださいました。
今日はインタビューをお引き受けいただき、ありがとうございます。
圭一郎さん
こちらこそありがとうございます。minneは2018年にminimumsがネット販売を開始してから、ずっとお世話になっています。アトリエが愛知県にあることもあり、なかなか取材にまで来ていただけることは少ないのでとても嬉しいです。
それはそれは。わたしも以前からminimumsさんにお会いしたいと思っていたので、今回インタビューをすることができてとても嬉しいです。さっそくですが、制作途中の作品がたくさん並んでいますね。圧巻です。
圭一郎さん
これは階段をメインにしたドールハウスの作品です。1/12スケールなのでミニチュアやフィギュアとよく一緒に飾っていただいています。
minimumsの世界観に好きなミニチュアやフィギュアを飾れるのは贅沢ですね。
圭一郎さん
おかげさまで7月にminneでも実施した受注販売会ではたくさんご注文いただいたので、今は受注した作品の制作を黙々と進めているところなんです。
ネットでも制作の様子を拝見しましたが、なかなか地道な作業ですよね。
圭一郎さん
そうなんです。レーザー加工機で木や革をカットしたあとは、手作業で組み立てや貼り付けをするので、本当にコツコツとした地道な作業の連続です。制作できる数も限りがあるので、お客様にはお届けまですこしお待ちいただくのですが、できる限りのご注文を受けているというところです。日々コツコツ制作するための根気と集中力の継続が一番大変です。夜な夜な制作を手伝ってくれる奥さんにはとても助けられています。
陽子さん
わたしは細かい作業が好きなんです。ドールハウスの階段の板を貼っていったり、チケットブースという作品では、看板の金具を取り付けたり。
圭一郎さん
すごくちまちました工程なんですよ。逆にわたしはそういう細かい作業が苦手で。大雑把に組み立てて革を張る方が好きなんですよね。
それは意外でした。笑
圭一郎さん
「器用ですね」なんて言われることも多いのですが、実は大雑把な方で。お互い得意なものと不得意なものがあって、例えば彼女は掃除と洗濯が好きなのですが、わたしは料理と皿洗いが好きで。仕事でも生活でも上手く分担できてるんです。
そういった相性のよさは、ふたりで活動していくうえでとても大切なことですね。
レーザー加工機との出会い
レーザー加工機でものづくりを始めたのは、いつ頃からですか?
圭一郎さん
もともとは漫画が好きで漫画家になりたくて、芸大のグラフィックデザインコースに進みました。ある時、大学が当時最先端のレーザー加工機を導入したのですが、誰も使い方がわからず、そこで院生になった僕に当時の先生が「ちょっと使い方をマスターして」と。それがきっかけで、グラフィックの人間なのにプロダクト向けのレーザー加工機を使えるようになったんです。
工房の壁にはお気に入りの漫画やデザインの本がずらり
なんと!もともとは出会うはずのない機械だったんですね。
圭一郎さん
そうなんです。その後も助手として大学に残るのですが、レーザー加工機を使えるということで、プロダクトデザインコースの担当をすることになったんです。想像もしていなかった展開でしたが、そのおかげで学生に使い方を教えつつ、私自身もレーザー加工機の技術を磨くことができました。
レーザー加工機で立体のものを制作されているというのに最初驚きました。
圭一郎さん
レーザー加工機はあくまで平面の加工しかできないという制限があるので、それをどう立体にするのかを考えるのがすごく面白いんです。昔から算数は苦手だったのですが、立体を平面に展開するのは得意だったので、その特性とグラフィックの経験から他とは違う発想ができたのかもしれません。
レーザー加工機に出力するための展開図。たくさんのパーツが必要だということがわかります。
平面を立体にする。まさにグラフィックとプロダクトの組み合わせですね。
圭一郎さん
学生にレーザー加工機を教えたりすると「すごい機械だ!」とみんな感動するんですけど、自分のグラフィックをアクリル板に彫刻したりして、平面の加工だけで満足して完成してしまう。それが悪いわけではないのですが、レーザー加工機がすごすぎて、使う側が性能を活かしきれていないことが多いんですよね。機械の特性や制限を理解して上手に活用する。そのうえでさまざまな素材を使ってこれまでにないものを生み出す喜びは、何物にも変えられない楽しみがあります。それがモチベーションにも繋がっていますね。
小さな世界ができるまで
minimumsの代名詞となったサーカステント。
minimumsとして活動を始めたきっかけは?
圭一郎さん
芸大に通っていた頃、友人たちとハンドメイドイベントに出展したのをきっかけに、院生の頃に革と雑貨のブランドを立ち上げました。その後、大学の教員になってからは学生を中心としたハンドメイドブランドをプロデュースしていたのですが、自分自身の腕だけを頼りに作品・ブランドをつくってみたいと思い、独立してデザイン事務所を設立し、minimumsを立ち上げました。
サーカステントや観覧車といった、眺めているだけでもわくわくするようなモチーフはどのような発想から生まれたのでしょうか?
圭一郎さん
最初はブタさんのフィギュアとかをつくっていたんです。それでイベントに出展していたのですが、そのときのブースづくりがすごく楽しくて。大きな灯台をモチーフにしたブースをレーザー加工機でつくったのですが、じゃあその灯台の小さいのもつくってみようか?となったのが始まりでしたね。
すごく大きな灯台ですね!これをレーザー加工機でつくられたとはびっくりです。
圭一郎さん
当時はまだブースづくりに力を入れている作家さんは少なかったのですが、どこにいても目立つようなブースを目指そうと考えてつくり込んだのがこの灯台だったんです。
灯台からサーカステントや遊園地のモチーフにはどのように繋がっていったのですか?
圭一郎さん
灯台の他にもうひとつ作品を考えるときに、奥さんに「どんなのがいい?」って聞いたら「くるくる回したい」とか概念的なものを答えてくれるんですよね。そこからわたしが「くるくるだと観覧車かな?」って、形を具現化していくんです。観覧車だけじゃなくてメリーゴーランドもくるくるするな。そうするとなんだかサーカスっぽい感じもするな。となってサーカステントをつくって。
連想ゲームみたいだ。
圭一郎さん
まさにそんな感じです。ただ良くも悪くも現実的過ぎないところっていうのはすごく意識していますね。やっぱり今までにないものをつくるのが作家の使命だと思ってるので、現実にありそうで、実はないよなっていうものをつくっていきたいなと。
あぁ、たしかに。「こんな遊園地に行きたいなぁ」みたいな憧れを感じさせてくれますよね。
圭一郎さん
今は日頃見かけた好きなものや気になることにアンテナを張って「こんなのあったら良いよね!」と夫婦で話し合って、時代や流行は気にせずにつくりたいものをつくっています。アイデアを足して引いて、掛けて練って、新作は半年から1年かけて開発しますね。つくりたいものを見つけた瞬間が一番楽しくてわくわくするんです。
レベルの高い良いものを、たくさんつくる
つくり手として大切にしていることはありますか?
圭一郎さん
良いものをつくり続けていれば、きっと人はついてきてくれると信じてここまできました。
まわりの情報や要望に捉われることなく、ただただ、つくりたいものをつくっているので、作品づくりの最初の段階では売れることや買ってくれる人のことはあまり意識していません。
まわりの情報や要望に捉われることなく、ただただ、つくりたいものをつくっているので、作品づくりの最初の段階では売れることや買ってくれる人のことはあまり意識していません。
自分たちがつくりたい、いいものをつくる。ものづくりの原点ですよね。
圭一郎さん
例えば、音楽でもミュージシャンに期待することって、毎年一枚アルバム出しつつ、ライブツアーやってもらうこと。そのアルバムやパフォーマンスが毎回レベル高いみたいなのが、結局一番望んでることだったりしますよね。わたしたちがminimumsのファンのためにできることは、「レベルの高い良いものを、たくさんつくること」だといつも考えています。
レベルの高いものをつくればファンはついてきてくれるし、次を楽しみにしてくれますね。
圭一郎さん
「レベル」は知識や経験の積み重ねで上がっていくものだと思います。高いレベルの作品であれば、たとえレーザー加工機を使った作品に興味がなくても「凄い!」と思わせることができると信じています。ファンの方々に「わたしの好きなminimumsは凄いんだぞ!」と胸を張ってもらえるよう、ファンに恥じない作品づくりをこれからも大切にしていきたいですね。
イベントで聞ける生の反応
イベントにも積極的に出展されていますよね。
圭一郎さん
昔はハンドメイドの作品を販売するとなるとイベントに出展するぐらいだったんですよね。だから、ほとんどイベントしかやってこなかったんです。イベントは良い反応も悪い反応も、お客さんの生の反応を見られるのが醍醐味ですね。
悪い反応もですか。
圭一郎さん
むしろそっちの方がすごくリアルで大事というか。minneだと買わなかった人の反応は作家からは全く見えないじゃないですか。イベントだと興味がない人の、その瞬間の顔みたいなものも見ることができる。だから大学に居た頃も学生には「イベントに出しなさい」「展覧会をやりなさい」と話をしてきました。やっぱり学校の中だったり、基本的に褒められる状況での経験ってそこまで身にならないと思うんですね。否定されたりだとか、厳しい意見が結果として良い経験になると思うので、生の声はすごく価値が大きいなと思います。
作品を売るだけの場所ではないってことですね。
圭一郎さん
来場者の反応を元に作品を改良したり、新たな作品に挑戦したりして、次の出展やminneでの販売に備えています。イベントでは「なぜ売れなかったんだろう」に対する答えがお客様の反応や売り上げにダイレクトに繋がるので、出展するたびに自分のセンスを磨くことができますね。
9月のminneのハンドメイドマーケットにも3日間ご出展いただけるということで、ありがとうございます。
圭一郎さん
コロナ禍を経て久しぶりの開催ということで、出展者側としてもとても楽しみにしています。
イベントにお越しいただくファンのみなさんに伝えたいことはありますか?
圭一郎さん
以前、名古屋のイベントでメインビジュアルを担当したときに「つくりたいもの、ほしいもの、きっとみつかる」というキャッチコピーを付けました。
来場したお客さんに、欲しいものを見つけた瞬間の喜びをぜひ体感してほしいという意味もあるのですが、ものづくりをする方にも作家としてつくりたいものを見つけてほしい。ハンドメイドイベントにはそんな喜びがあふれているので、9月のハンドメイドマーケットにもぜひさまざまな方に来てほしいです。
来場したお客さんに、欲しいものを見つけた瞬間の喜びをぜひ体感してほしいという意味もあるのですが、ものづくりをする方にも作家としてつくりたいものを見つけてほしい。ハンドメイドイベントにはそんな喜びがあふれているので、9月のハンドメイドマーケットにもぜひさまざまな方に来てほしいです。
新作には新たな機能性を
イベントを前に、本日9月10日から新作販売も始まりますね。
圭一郎さん
置き時計を新作として販売します。ただ可愛いだけでなくなにか機能を持たせた作品はできないかと考えている中で、minimumsのレトロ感のある作風にマッチする時計素材と出会い、制作することにしました。
時計という実用的な機能を持たせたのは、これまでの作品とすこし違うところですね。
圭一郎さん
これまで階段1/12スケールなどのドール向け雑貨やアンティークシェルフなどのレトロかわいい作品がminneで人気がある一方、イベント出展では飾るだけでなくそこに置くだけでなにかしらの役割を持つような、使用目的が明快な作品も求められているなと感じてきたので。
幅広い方にminimumsを知っていただくきっかけになりそうですね。
圭一郎さん
そうですね。デザインもレトロ感を持たせつつ、現代の使用シーンにも調和するよう、複数の時代背景をミックスさせてみました。サイズも持ったことがある人には分かる、あるサイズに合わせて設計していて、手や卓上に馴染むよう仕上げているんです。
今後、つくりたい作品や挑戦してみたいことはありますか?
圭一郎さん
新作の時計のように、なにか機能を持たせた作品や、コレクションとコレクションを繋げるお手伝いができるような作品を今後も展開できたらなと思っています。つくりたいこともやりたいことも本当にたくさんあって。ホテルもつくってみたいなぁ。アイデアはたくさんあって向こう5年分はストックがあります。笑
5年分ですか!それは楽しみです。minimumsさんの世界観が広がっていくことにファンとしてもわくわくします。
圭一郎さん
あとはファンのお客さんともっと接点を持ちたいとも考えていて、ワークショップといった活動も増やしていけたらいいなと思っています。教育現場で学生と接することも楽しかったので、また戻ってみたいですし、作品づくりの楽しさやハンドメイド業界がもっと前向きになれるようなことも伝えていきたいです。まずは9月のminneのイベントでお会いできるのを楽しみにしています。
僕もminneのイベントにminimumsさんの作品が並ぶのを楽しみにしています。
2023年9月10日(日)21:00〜 記事でも紹介した新作「置き時計」の販売がスタートします。それに合わせ、これまでの作品も再販されますので、ぜひこの機会にご覧ください。
「minimums」さんのショップページはこちら
minimumsさんも出展する「minneのハンドメイドマーケット2023」は9月16日(土)〜18日(月・祝)の3日間、東京ビッグサイトで開催します。
当日は全国からたくさんの作家・ブランドが集まります。さまざまなものづくりに触れながら、新しい「好き」に出会える旅をお楽しみください。
出展者やチケット情報など詳しくは公式サイトをご覧ください
取材・執筆・撮影:真田英幸