963hanko
押した人が「ほっこり にっこり」するような、温かみのある消しゴムはんこをひとつひとつ制作するハンコ作家さん。日常に小さな幸せを添える作品を生み出しています。
https://minne.com/@woody-963「遠いところまでありがとうございます」と、笑顔で迎えてくださった963hankoさん。さっそく、制作途中の作品を見せていただきながら、お話をうかがいました。
SNSやminneで拝見していた作品を、やっと実際に見ることができました。ひとつひとつ丁寧につくられていて、温かみが伝わってきますね。

963hankoさん
ありがとうございます。手彫りの消しゴムはんこならではの風合いを感じていただけたら嬉しいです。
ブログから始まった、はんこ作家としての道

まず、作家活動を始められたきっかけを教えてください。
963hankoさん
もともと絵を描くのが好きで、大学時代に友人がやっていたのを見て、消しゴムはんこを真似てつくってみたのが始まりです。自分の絵がはんこになるのがしっくりきて、何より彫る作業が楽しくて!気づけば15年以上経ちますが、いまだに飽きないんです。
つくった作品をご自身のブログで紹介していたところ、「販売はしないんですか?」という問い合わせが来るようになったそう。初めて販売に至ったのは、お米農家さんからのオーダーでした。

963hankoさん
最初は消しゴムはんこでお金をいただくなんて考えてもみませんでした。名刺サイズの地図や、宛名とイラストを組み合わせたものなど、「こんなはんこでも依頼してもらえるんだ!」と、驚きと同時にすごく嬉しかったのを覚えています。
消しゴムはんこも、ラバースタンプも。手彫りの「味」へのこだわり

963hankoさんの作品は、消しゴムはんことラバースタンプがありますが、こだわりについて教えていただけますか?
963hankoさん
つくるのも押すのも、消しゴムはんこが大好きなんです。あの、押したときの “むにゅっ” とした独特の押し心地がたまらないんですよ(笑)。ぜひ体験していただきたいくらい。

そういって、実際に試し押しをさせてくれた963hankoさん。インクをつけて紙に押すと、たしかにやわらかく、それでいてしっかりと印影がのこる独特の感触があります。

963hankoさん
ラバースタンプは、消しゴムはんこよりも丈夫でたくさん押せるのが魅力です。2022年から人気の図案を中心に、ラバースタンプの販売も始めました。他にも消しゴムはんこの印影をデザインに活かしたマスキングテープやポストカード、ロール付箋などもつくっています。

ラバースタンプをつくる際も、まずは必ず消しゴムはんこを制作し、その印影をもとにデータを作成して発注するというこだわりよう。
963hankoさん
イラストレーターなどで直接データをつくることもできるんですが、消しゴムはんこ特有の、彫るときに生まれるちょっとした線の歪みや温かみが、私の作風になっていると思うんです。だから、すこし手間はかかりますが、この工程は大切にしています。
消しゴムはんこをつくりつづける理由は、押し心地や作風以外にもあるのでしょうか?

963hankoさん
やっぱり、手を動かして “つくる” こと自体が好きなんですよね。それに、消しゴムはんこだからこそお応えできるリクエストもあります。以前、「コアラが好きなんです」というお客様の声を受けてコアラのはんこをつくったのですが、それが今では人気の図案になり、ラバースタンプとしてもたくさんの方にお届けできています。消しゴムはんこだと数は多くつくれませんが、自分でつくるという手作業の部分は、これからも大切にしていきたいと思っています。
手彫りならではの「味」も、963hankoさんの作品の魅力のひとつ。

963hankoさん
ほかの作家さんの作品を見ると、本当に細かくて綺麗に彫られていて、もっと技術を上げたいなと思うこともあります。でも、ある日父に「綺麗な線は機械が彫ればいい。人がつくるんだから、そのままでいいんだよ」といわれて、すごく腑に落ちたんです。彫刻刀のちょっとしたズレで線が歪んだり、予期せぬ表情が生まれたりする。でも、お客様からは「963hankoさんの雰囲気が好き」といっていただけるので、それも私の味なのかなって思えるようになりました。

持ち手となる木材も、手に馴染むように角をやすりで丁寧に面取りするなど、細やかな部分にまで使う人への思いやりが感じられます。
日常にあふれる「かわいい」が、はんこになる

作品のモチーフは、どのように生まれるのですか?
963hankoさん
子どもたちとの日常の会話や、ふとした表情、仕草からひらめくことが多いですね。娘と「山の音楽家」の歌を一緒に歌っていたときに、「楽器を演奏するクマを描きたい!」と思って生まれたのが、「
山の音楽家に入りそびれたクマ」のはんこです。つくり終わってから、歌にはクマが登場しないことに気づいて、この名前になりました(笑)。

963hankoさん
あと娘の歯が抜けたとき、なんともいえない愛らしい表情をはんこにしてSNSに載せたら、「うちの娘にそっくり!このはんこが欲しい!」という声をいただいて。それがきっかけで作品になったものもあります。子どもの「かわいい!」と思う瞬間って、きっとどの親御さんも同じなんだな、と嬉しくなりました。
日常の何気ない、でも愛おしい瞬間をとらえた963hankoさんの作品。その背景には、ご自身の「好き」が詰まっています。

963hankoさん
影響を受けたイラストレーターさんはたくさんいます。100%オレンジさん、エリック・カールさん、tupera tuperaさん、升ノ内朝子さん…。あとはminneでも活躍されているハンコ作家の
Nico-Recipeさんや、
cotori cotoriさんも大好きです。皆さん、ゆるくてかわいかったり、ちょっとユニークだったり。イベントでお会いすると、その方の人柄が作品にそのままあらわれているんですよね。
大切にしたい、お客様とのつながり
ものづくりをするうえで、大切にしていることは何ですか?
963hankoさん
「自分が、自信をもって “かわいい!” と思うものを世に出すこと」。そして、「お客様とのつながりを大切にすること」です。
minneでは、北は北海道、南は沖縄まで、全国各地から注文が入るといいます。

963hankoさん
本当なら直接お会いしてお礼をいいたいのですが、なかなかむずかしいので、発送の際には自分で制作したミニカードに、手書きで一言メッセージを添えるようにしています。以前、お届け先の住所に「いちょう並木」とあったので、「いちょうが綺麗に咲くところなんですか?」と書き添えたら、後日お客様からいちょう並木の写真と一緒にメッセージをいただいて。そんな風にコミュニケーションが生まれるのが、とても温かくて嬉しいんです。
ネットショップだけでなく、イベント出展も大切にしている963hankoさん。

963hankoさん
ネットで購入してくださったお客様が、イベントに会いに来てくださることもあって。実際に作品を見ながら感想を伝えてくださったり、どれにしようか真剣に悩んでいる姿を見ると、本当に嬉しくて感激してしまいます。母が手伝いに来てくれるのですが、お客様が「かわいい!」といってくださる反応を、自分のことのように喜んでくれるのも嬉しいですね。
朝4時起き。仕事・子育てと両立するものづくり
作家活動の楽しみや、やりがいについて教えてください。
963hankoさん
やっぱり、自分の好きなことで誰かが喜んでくれるというのは、とても幸せなことだと思います。そして、ものづくりを通して、お客様や他の作家さんたちとご縁がつながっていくのも、大きな楽しみです。つくりたいものが形になる瞬間も、毎回ワクワクしますね。私自身もはんこを押すのが好きで、手帳はもちろん、子どもの宿題チェックにもよく使っているんですよ。

お仕事や子育てと両立しながらの制作はたいへんなことも多いかと思いますが、どのように時間をやりくりされていますか?
963hankoさん
時間のやりくりは、正直毎日たいへんです(笑)。パート、子育て、家事の合間を見つけて制作しているので、毎日楽しくバタバタしていますね。制作時間に充てているのは、基本的に早朝です。早いときは4時に起きて、家族が起きてくる6時半頃まで、彫る作業や発送準備を進めています。

朝4時起き! その早さに驚くと、「朝の静かな時間はすごく集中できるし、だんだん空が明るくなっていく様子も好きなんです」と笑顔で話してくださいました。
minneがつなぐ、全国の笑顔との出会い

minneとの出会いや、活動でのエピソードがあれば教えてください。
963hankoさん
minneで販売を始めたのは2015年です。出店されている作家さんの雰囲気や、アプリの使いやすさに魅力を感じて、「ここで販売したい!」と思いました。一度、フルタイムの仕事が忙しくなり活動をお休みしていたのですが、仕事をやめ、子どもと一緒に過ごす時間が増える中で、やっぱりつくりたい気持ちがむくむくと湧いてきてしまって(笑)。2022年に
Instagramでの発信を再開し、その後minneでの販売も再開しました。今は月に1回、期間を決めて販売しています。
minneのハンドメイドマーケットにも2023年、2024年と出展。

963hankoさん
スタッフの方々にたくさん助けていただいて、皆さん本当に良い方ばかりでした。オンラインでのお客様が実際に会いに来てくださるのも、すごく嬉しかったです。またぜひ参加したいです!
実店舗を持たなくても、自分のペースで全国のお客様に作品を届けられるminneは、963hankoさんの作家活動にとって「なくてはならない存在」だと語ります。
好きなことを仕事にする、ということ
最後に、今後の目標や、minneの読者に向けてメッセージをお願いします。
963hankoさん
これまでは関東圏のイベントに出展することが多かったので、これからはもっと日本全国のイベントに参加してみたいです!
そして、作家活動を通して実現したいことについて、すこし照れながらこう話してくださいました。

963hankoさん
質問の意図とすこし違うかもしれませんが…私が好きなことをして活き活きと働いている姿を子どもたちに見せることで、子どもたちにも将来、自分の好きなことを仕事にしてほしいな、と思っています。実は私の祖父も絵を描くのが好きで、小さい頃よく隣で一緒に描いていたんです。その姿が、今も印象にのこっていますね。

アトリエには、娘さんが彫ったというかわいらしいはんこも飾られていました。朝、963hankoさんが作業をしていると、「つくってみてもいい?」と一緒に彫ることもあるのだとか。ものづくりの楽しさは、着実に次の世代にも受け継がれているようです。

963hankoさん
いつも作品を見てくださり、本当にありがとうございます!なかなかすべてのご要望にお応えするのがむずかしい状況ではありますが、使いたい!と思ってくださる方に届けつづけていきたいと思っています。気長に、ごゆるりとお付き合いいただけたら嬉しいです。
新作はマスキングテープとラバースタンプ

月1回ほどのペースでminneのショップをオープンしている963hankoさん。今月は4月24日21:00〜販売がスタートします。新作のニャーニャーマステや消しゴムはんこを元に制作したラバースタンプは963hankoさんらしさあふれるデザインです。ぜひこの機会にご覧くださいね。
取材・執筆・撮影:真田英幸
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