インタビュー

刺繍作家うめだゆみさん「“つくっているとき”がクライマックス」

2017年の11月。128名の作家さんといっしょにつくった、minneの「クリスマスCM」が放映開始となりました。全528カットからなるコマ撮り手法で制作された同CM。その中で、ヒロインの恋する心の動きを刺繍で見事に表現してくださった、刺繍作家・うめだゆみさんにお話を伺ってきました。うめださんは言います、「わたしの作品づくりは、制作途中がすでにクライマックスなんです」。

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全163作品が登場するテレビCM



minneで活躍する総勢128名の作家さんによる、163点もの作品が登場するCMが放映開始されました。CGを一切使用せず、全528カットからなるコマ撮り手法で丁寧に描いたのは、クリスマスにぴったりの、心あたたまる恋のはじまりのお話です。

163作品の中には、今回のために制作いただいたオリジナルデザインや製作期間1ヶ月以上に及ぶ大作も。作家のみなさんと一緒につくりあげた90秒間となっています。

恋する心の動きを糸とフェルトで表現

うめだゆみさんが担当してくださったのは、まさに物語が動きはじめる「ヒロインと男性の出会い」、そして生まれた心の動きです。

くるくると動く表情と、高まる気持ちをあらわすような刺繍のあしらいで、恋するヒロインをいきいきと見事に表現してくださいました。その完成度の高さと愛らしさ、感じる手間に、思わずため息がこぼれます。




そして、この圧巻のシーンの裏側にあるもの。

 
実は、この刺繍作品をうめださんは合計60枚もつくってくださっています。そしてなんと、この撮影は完成品の糸をその場でチョキチョキと裁断し、解(ほど)いていくことで実現したものなのでした。

裁断も撮影もその場で立ち会ってくれたうめださん。忍びない気持ちで「平気でしたか?」とたずねると、「まったく問題ないですよ(笑)とってもたのしかったんですから」とにこやかに話してくれました。

名前をつけて、命を吹き込む

うめださんの作品制作は、基本的に休日や平日の夜。




うめだゆみ
普段は働きに出ているので、作品づくりは自然とその時間になってしまいます。クリーニングの仕事や絵本の挿絵の仕事、そしてこの針仕事があるんですが、時間が許すならずっと続けていたいぐらい、いま作品づくりに夢中なんです。

作品のキャラクターにはひとつひとつ名前をつけられているんですね。


うめだゆみ
そうなんです。この人なら「レーナ」「ルル」、といった具合ですね。以前から自分の中では、つくりながら膨らんでいく人物像やイメージがあったんですが、特に公表していませんでした。個展がきっかけで、「この方が興味を持っていただけるかな」と題名につけるようになりましたが、これはあくまでわたしのイメージなので。買ってくださった方が自由に考えてくださるのも、すごくうれしいんですよ。

ノートにアイデアをためて

ひとつひとつ、いろんな技法や材料で表現されていますが、それぞれのデザインはあらかじめ決め込んで制作されているのでしょうか?


うめだゆみ
大枠は最初に決めていますね。普段から「この色とこの色の組み合わせ」とか「この色の刺繍糸を使う」などの簡単なアイデアをノートに書き溜めているんです。自分の中でつくりたいものがどんどん溢れてくるので、制作がなかなか追っつかなくて(笑)。忘れないためのメモですね。

「うらやましい」と感じる方がたくさんいらっしゃるかもしれません(笑)。イメージは「色」をベースに考えられているんですね。


うめだゆみ
そうですね。表現したい色の組み合わせから考えはじめることが多いですね。糸やフェルトを重ねながら「これはどうだろう」とか「こっちのほうがいいかな」とか決めている時間がいちばん長いですし、たのしい時間です。

刺繍で表現すること

なんと驚くことに、うめださんが刺繍を本格的にはじめたのは2年前なのだそう。




うめだゆみ
刺繍の本を買って、「こうやってやるのかー」と自分で勉強してはじめましたね。ものづくりは好きで、いろいろとやってきたんですが、特に自分の個性のようなものがあるわけでなく。ようやく刺繍と出会えて「わたしらしさ」みたいなものが表現できるようになった気がします。

うめだゆみ
ずっと絵を描いてきましたが、紙の上に線で描く絵だと遊びが少なくて、「決まりすぎてしまう」のが気になっていました。それを糸を使って刺繍で表現すると、ちょっと「不細工」になってくれる(笑)。それがいいんですよね。遊びの部分やちょっと上手くいかなった部分が「味」になる。そこがわたしらしさになっていったんだと思います。

制作途中がすでにクライマックス

そんな、たのしい制作時間とこだわりが詰まったうめださんの作品。今回そんな60枚もの大作の糸を撮影の場で解かせていただいたわけです。




素敵に仕上げてくださっていたので、心苦しい思いでした。

うめだゆみ
とんでもない!制作も本当にたのしんで取り組ませていただきましたし、撮影も立ち会わせていただいて、とてもたのしかったですよ。ただ解いていくだけなのかと思っていたら、糸を裏から出してつなげたりと、想像を超える仕掛けをたくさん見ることができて、とってもおもしろかったです。

うめだゆみ
わたしは完成品を愛でるタイプではないんだと思います。興味がないと言ってしまうと大げさですが、つくり終えたものは、買ってくださった方や手にしてくださった方の好きに使っていただいて問題ないんです。とにかく、つくっているときがたのしくてたのしくて。わたしにとっては、きっと制作途中が「クライマックス」で「頂点」なんですね。全貌が徐々に見えてくるのが、たまらなくおもしろいんですよ。そんな工程を経てつくりあげたものを使って、こうしてまた新たな作品が生まれたんですから、とってもうれしい経験になりました。

 

「どうか気にしないでくださいね」と笑顔で答えてくださった、うめださん。

作品を生み出すよろこびと制作過程を丁寧に愛する想い。おだやかな物腰ながら、そこに込められた熱さ感じ、「つくる」ということを改めておしえていただいた心持ちがしました。

わたしらしさで、アイデアをひとつひとつ形に

うめだゆみ
完成したCMを見たときは、本当に感激でした。以前から「コマ撮り」の映像作品は好きで、よく見ていたんですが、あまりにもすごくて。自分の作品が動いてる!と鳥肌が立っちゃいました。うれしくてしょうがなかったです。

うめだゆみ
実はパーティのシーンの背景でもある「まわりの人々」は一部、母にハサミで切る工程を手伝ってもらったりしました。時間との戦いだったのでお願いしたんですが、母の手もすこし加わっているのが、またちょっとおもしろいですよね。母もうれしいと思います(笑)。時間が許すなら、ずーっと続けていたいぐらい本当にたのしい作品づくりでした。こんな経験をありがとうございました。

今後、挑戦されたいことをおしえてください。

うめだゆみ
今後はどなたかとコラボで作品をつくってみたり、新しいことにも挑戦してみたいですね。アイデアノートのアイデアも、ひとつずつかたちにしていかないといけないですし、時間が足りないぐらいですね(笑)。

これから紡がれていくお話もたのしみにしています。素敵な作品を本当にありがとうございました。

うめだゆみ
刺繍糸とフェルトで生み出す、カラフルで個性的な作品が人気の刺繍作家。
https://minne.com/@yumyumyum

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