monocircus(モノサーカス)さんの特色ともいえる、3Dプリンターから生みだされる繊細なデザインのアクセサリーたち。身につける人と重なって、はじめてアートが完成するのだと言います。実際にアトリエにお邪魔し、ご夫婦で活動するmonocircusさんに、作品づくりをはじめたきっかけや、ものづくりと向き合う中で大切にする想いをうかがいました。
自然とふたりではじめたものづくり
おふたりで作家活動をはじめることになった経緯をおしえてください。
シン 私はもともと彫刻や油絵を専門としたアーティストとして活動していたんですが、みなさんに作品を見ていただくにはアートギャラリーなどで展示をする方法しかなかったんです。アートというだけでも敷居が高いうえにギャラリーともなると、もともとアートに興味がある方たちにしか見てもらうことができず、もっとたくさんの人に届けられる方法はないか、とずっともんもんとしていました。
一憲 ぼくはもともと建築家でした。建築の場合はひとつの契約をとってようやく仕事ができるけど、それがなければ表現の場はありません。アートも建築も、客観的に見れば敷居が高いもの。ギャラリーに展示されるものだけがアートではなく、日常的に“美しい”と感じるものがアート、それでいいじゃないかっていうところに行き着いたんです。
一憲 そんなことを夫婦で話しているときに、ちょうど海外で3Dプリンターの技術が話題になりはじめていて、この技術を自分たちの表現の方法として活用してみてはどうだろうかと思ったんです。ぼくは会社を退職して、夫婦2人でmonocircusをやっていくことを決意しました。
それはすごい決断ですね!
シン 自分でもそう思います(笑)「今やらないと、もう絶対やらないだろう」と思って決意しましたね。当時は2人の子どもたちがまだ小さかったので今のようなアトリエ部屋もなく、リビングの片隅で子どもたちの相手をしながら、ちょっとした隙を見つけて制作をするという毎日で、本当にてんやわんやでした。
アクセサリーに行き着いたのはどうしてですか?
シン 実は私たちは自分たちのことをアクセサリー作家だとは思っていないし、アクセサリーがつくりたくてmonocircusを立ち上げたわけでもないんです。「アクセサリーをつくろう!」と、最初から考えちゃうと新しい発想が生まれにくくなると思うので、私たちは常に表現したいものを形にするようにしています。
一憲 そう、まず自分たちが表現したいものが先にあって「このデザインならアクセサリーにいいんじゃない?」「このスケールにすればブローチにできるね」という感じで制作しています。必要以上に造形しているといわれたらそうかもしれません。けれど半分くらいはアートの部類というふうに考えているので、表現したいもの、そして3Dプリンターでしかつくれない形というのを意識してデザインしています。
夫婦だからこそ突き詰められる
立体的で複雑なデザインはどのようにして考えているんですか?
シン 夫婦2人でやっているブランドですが、緊張感を保てるように月曜日の朝は必ず2人で会議をして、新作も月に1つは制作しようと自分たちなりにルールを定めてやっています。「さっ、会議するよ」って一応声がけしてみたりして(笑)
一憲 壁には「会社っぽく」ホワイトボードもあります。そこにお互いの進捗や今後のスケジュールを書き込んでいます(笑)デザインについては、前回はこんなのつくったから次はこういうのはどうだろう、というような感じで話し合いながら固めていきます。ぼくがスケッチを取りながら、2人の頭の中にあるものがしっかりと共有できるまで、図面にはおこしません。もしこれが会社だとしたら、とりあえず図面に起こしてみて、後から話し合いを重ねてブラッシュアップしていくことが多いのですが、最初から突き詰めて話し合える、そういうところが夫婦でやっていることの良さなのかもしれません。
何からインスピレーションを得ることが多いんですか?
シン すべて自然のものですね。monocircusの作品を見て“和の雰囲気のものが多いですね”と言われることがあるのは、身のまわりのものを参考にしているからかもしれませんね。
一憲 実は、「和」の美しさは意識しているところではあります。直接的な“和っぽさ”ではないのですが、強烈な印象を与えるようなインパクト勝負のデザインではなく、どこか控えめで繊細なデザインを心がけています。やっぱり人を選ばずつけられるようなものをつくりたいと思っているので。
洋服がキャンバスに
同じモチーフでも色味でがらりと印象が変わりますよね。
シン そうなんです。最初は染料のまま染色していたので原色が多かったのですが、だんだんと色の表現のバリエーションが増えてきました。アクセサリーは身につける人がキャンバスになると思っているので、“作品の色”と“人や洋服”の組み合わせによって生まれるアートがとてもたのしいです。
minneはいつごろからご利用いただいているんですか?
シン ブランドを立ち上げたはいいけど、自分たちでつくったホームページを広げる術もない、販路もない…というときに偶然minneを見つけたんです。それが2012年でした。
一憲 3Dプリンターの誕生・自分たちの独立・minneのサービス開始がほぼ同時期だったんです。だから本当にタイミングがよかったですね。やっぱり自分たちでいちから販路を見出すのってすごく難しいことですし、「これはいい」と思ってすぐに登録しました。
minneで作品を販売されている中で、印象に残っている出来事はありますか?
シン やっぱりメッセージのやりとりが印象的ですね。「今日はこんな風につけてみたよ〜」って写真を添付してくださったり、友だちのようにメッセージをくださる方もいて。
一憲 メッセージ機能すごくいいですよね。レビューだけだとやっぱりどうしても堅苦しくなってしまう部分もありますからね。
シン 実際にハンドメイドマーケットで、購入したアクセサリーをつけて来てくださる方もいたりして。その瞬間がアクセサリーをつくっていて1番うれしいと感じるときかもしれません。アート作品とちがって、私たちの手から離れたところで作品が愛されている様子を見ることができるのは、私たちの理想のかたちでしたからね。
では最後に、今後の夢をおしえてください。
シン とにかく続けていくこと!6年かかりましたが、ようやく2人でやっていく土台が整ったところなんです。だから今の感じをずっとキープしていければと思っています。
一憲 アクセサリーにとらわれることなく思いつくアイデアは、なんでも形にしていきたいですね。いつか建築までできればいいな、とぼんやり思っていたりします。