ご無沙汰しております。店主の弥光です。
陽が落ちるのが少しずつ早くなり
星が見える時間も増えてまいりました。
今日は天文台のお話をしたいと思います。
神話の時代からそこにあったとされる
上にも高く横にも広い古城から
いくぶん離れた所にある円柱型の塔。
城からは渡り廊下で繋がっていますが
その下にはかなり大きな湖が広がり
塔は湖畔から続く林の中に建っています。
ここは天文台。
星を見るのに必要な暗さを得るため
校舎の灯りが届かないような
少し離れた場所に作られているのです。
古き良きは残して新しいものは取り入れながら
星の観測、記録、占星術、学問が
ずっと続けられてきた天文台には
三人の老人が住んでいます。
彼らは老いて死ぬまでここに住み
星を見続けることを望んだ「星見の者」です。
星見の者になるには弟子入りが必要で、
認められると、側に仕えます。
星見の者たちの住まいの下階に暮らし、
その生活や習慣を共にするなかで
書物では学ぶことのできない多くのものを
五感でとらえ言葉を交わして習得し
師が命絶えると後を継ぎます。
屋上にある大きな木造の天体望遠鏡。
野外にあるから小さな傷が…と思いましたが
よく見ると文字と線が望遠鏡の高さの調節部に
規則正しく並んでいるようです。
これは歴代の星見の名が木彫りで刻まれた跡。
人それぞれ背丈が違いますので、
自分が良く見える位置を記しています。
自らの手で名前を刻む瞬間は
さぞ誇り高い思いだったことでしょう。
そのようにして重ねてきた星見の記録書は
文字と絵が毎日詳細に書かれて描かれて
この塔の螺旋階段を囲む長い長い本棚に
ぎっしりと詰まってきます。
いつから書き付け続けたものなのか。
しかし、まじないや縁起事で必要になると
どの時代のどんな記録でも存在するので
各国の重要人物や学者が数多く足を運び
記録を求めて星見の者を訪ねてきます。
さて、この天文台は
城からの渡り廊下だけでなく
実は湖畔側に水車を使った昇降装置があり
そちらからでも上がることができます。
なんでも今の星見のひとりが
星を見るのは大好きなのに
高いところが怖かったのだそうで
渡り廊下を歩くのが嫌だからと
あとから作ったものなのだとか。
髭も髪も伸びてほとんど話さなくなり
まるで育ちの止まった老木みたいに
人間離れした外見の星見の老人。
しかし、やはり人は人なのです。
それでは又。