++両極の書斎++

++両極の書斎++

店主の弥光で御座います。 まだまだ外は夏の温度ですね。 体調など崩されていませんでしょうか。 何卒お気をつけ下さい。 読書の秋…という言葉で とある洋館の書斎を思い出しました。 その洋館はかなり古い建物ですが 廃墟化してはおらず大切にされ いつでも美しく整備されています。 黄色く染まった銀杏の並木道の先 鮮やかなこがね色に負けることなく 壮麗な雰囲気で佇んでいます。 洋館の主人は本が好きな方らしく 世界中の数多の物語や学問書 画集や絵本に至るまで 沢山の本が並ぶ大きな書斎があり 多くの人に自分のコレクションを 読んでもらいたいという意向で 書斎に直接ドアを設けられて 図書館のように出入りが出来ます。 自由な空間の割に、物音ひとつしません。 こんなに綺麗に保たれていれば メイドさんの一人もいそうなものですが… 読書に集中するための空間づくりなのか それとも、本当に誰も居ないのでしょうか。 端正な正方形の書斎の四隅には 絨毯と揃いの柄の上質な椅子があり 座って本を読むことが出来ます。 部屋の窓からの光が当たらないひと隅。 椅子のすぐ後ろにある棚の本。 よく見ると、背表紙が風変わりでした。 くっきりと中心で色が分かれているのです。 赤と青の背表紙の本を手に取ると 表は赤、裏は青の表紙になっています。 本には必ず表題があるものですが、 どこにも書かれておらず 革の色が美しい装丁のみでした。 どちら側から読めばいいのか… 迷いましたが、とりあえずは 一方の表紙を開きました。 こちら側が始まりだと思える 軽快な書き出しでしたが 数ページ読んでみてから念の為に 試しに裏側から読んでみると こちらもまた別の物語の始まりのように 感じられる書き出しでした。 そして同時に終わりにも見えるのです。 まったく雰囲気の違う お話になっているため どちら側から読んだとて 一体この間に何が起きたのかと 好奇心をそそられる本の数々。 作者を確認しましたが、 そういえば表紙は装丁だけで 文字が書かれていないのでした。 窓の外には銀杏がハラハラ落ち いつの間にか紫の夕焼けでした。 時間を吸い取られた気持ちで 書斎のドアを出て行きますと 入った時にはなかったテーブルワゴンに 紅茶が一杯淹れられていました。 「ありがとうございました」とメモを添えて。 紅茶は大変おいしいものでしたよ。 もちろん、誰もいませんでしたが…。 それでは、又。

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石と硝子を紐で編む店

弥光商店
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