アンティークやヴィンテージ時計の愛好家の方がたが、
よくこんなことをおっしゃいます。
「アンティーク時計は進んだり遅れたり止まったり……。
そんなところが、また可愛いんだよね」と。
お褒めにあずかり、とても光栄なのですが、その一方で、
「うーん……」
と、なんとも言えない気持ちになります。
なぜなら、きちんとした売り手が、
しかるべき整備を施してお渡ししたアンティーク時計なら、
進んだり遅れたり、ましてや止まったりなど、
あってはならないことだからです。
それはどうも素性のよろしくない品を「つかまされた」か(失礼)、
すぐに修理をしてくれと「時計が悲鳴をあげている」か、
そのどちらかしかありません。
本来、時計はーーとくに機械式のそれはーー長持ちするようにつくられています。
手入れが行き届いていれば、
大幅に進んだり遅れたりすることはありません。
頼りないけど可愛いヤツ……それは誤解に満ちた、
ちょっぴり的はずれな〝褒め言葉〟なのです。
かつて時計は代々引き継ぐべき家宝と見做されていました。
「家宝」が一世代や二世代で使用不能におちいってしまっては意味がありません。
それなりの気遣いやメインテナンスは要するものの、
じっさい「100年休まずに」(大きな古時計) 動きつづけることを想定したうえで、
往時のメーカーは時計づくりに臨んでいたそうです。
それゆえ、確かな技術をもつ職人が定期的に、
しかるべき部品と手法を用いてメインテナンスにあたっていた時計は、
今なお正確に時を刻みつづけています。
そんなわけで……。
わたくしどもは、もっぱら
可愛くないほうのアンティーク時計をあつかっています。