商品のメインテナンスについて

商品のメインテナンスについて

わたくしどもは、商品であるすべての時計について、 出品前にかならずメインテナンスをおこないます。 たとえそれがデッドストックや未使用の品であっても同様です。 長らく使われずに保管されていたことで、 むしろオイルの固着や、パーツの劣化が進行している可能性もあり、 使い古されたアンティーク時計と同等のケアが必要です。 お客さまにお求めいただく精密機器であるかぎり、 事前のメインテナンスは絶対に不可欠なプロセスであると考えています。 わたくしどもが、かならずおこなうメインテナンスは、  ・オイリング(=注油……裏蓋側/文字盤の裏側 双方向)  ・タイミング(=精度調整……タイムグラファーによる姿勢差の測定と是正)  ・ケース(ボディ)の超音波洗浄 の3項目です。 ( *超音波洗浄について* 金属ブレスレットが付属する場合はそれも超音波洗浄にかけます。 クロック=置時計は洗浄器への収納が困難につき、 専用の中性洗剤を用いたクリーニングにとどめています。) 上記は製品が入荷したさいに無条件でおこなうメインテナンスですが、 とくに故障箇所がみとめられたり、 大がかりな調整を要する時計には、  ・オーバーホール(完全分解整備) を実施しています。 これは時計の構成パーツをすべて不可分の状態にまで解体したのち、 洗浄や注油、修理や部品交換等、 しかるべきサービスをほどこしながら、 ふたたび組みあげるという抜本的な再構築に等しい施術です。 通常、わたくしどもでは、 遠くない過去にオーバーホール歴があり、 現状しっかり駆動している時計については、 上記3項目のメインテナンスを実行。 それでは不足と判断した場合にはオーバーホールをほどこす。 ーーそのような原則にしたがって店舗を運営しています。 つまり、出品しているすべての時計が、 「整備済み」とうたえる状態にあります。   ・ー・ー・ー・ー・ フリマサイトやネットオークションなどを拝見していると、 「クリーニング済み」や「動作確認済み」、 なかんずく「オーバーホール済み」といった触れこみで、 時計が比較的安価な値で売られていることがあります。 ある業者さんの自己紹介文によると、 時計をアルコールティッシュで拭くことが「クリーニング」、 10分間ひとまず動けば「動作確認済み」だということです。 また「裏蓋を開け、厳選された潤滑油を投入する精緻な匠の技」が、 〝完全オーバーホール〟の全容であることもわかりました。 オイルだって、ただやみくもに差せばいいというものではありません。 まちがった箇所に「厳選された潤滑油を投入」されて、 むしろとりかえしのつかないダメージをこうむった時計を、 わたくしどもは何度も目にしてきました。 弊店でいう注油でさえ、もう少し「精緻」な気がいたします。 それが個人売買における牧歌的なエピソードであれば、 笑ってすませたいところなのですが、 不用品買取業者や転売業者といった〝セミプロ〟のような勢力が、 そうした我流の「メインテナンス」をうたうのはかなり問題です。 安価な値段につられて購入してしまった方がたが、 ちゃんと機能してくれない機械時計に 絶望してしまうことが目に見えているからです。 せっかくアンティーク時計に目を向けてくれた方がたを落胆させ、 かれらを古い時計から遠ざけてしまうことになります。 それが困ります。 一見安価な時計が、じつは「高い買いもの」になることも。 それはお客様ばかりか、時計商や古物商にとっても、 高い代償といえるでしょう。 長いお付きあいができたかもしれないご新規さんを、 業界をあげて排除したも同然だからです。   ・ー・ー・ー・ー・ 「オーバーホールという概念や定義そのものが歪曲されている。」 これはわたくしどものかかえる1級時計修理技能士が、 先日何気なくつぶやいた言葉です。 わたくしどもが、まっとうと思える価値観にしたがって、 まっとうに仕事と向きあえるのは、 同じ意識を共有できる、 お客さまや職人がいてくれるからにほかなりません。 そんな幸せをあらためて実感させてくれた意味では、 転売ヤーさんたちに感謝しなければなりません。 心の「メインテナンス」をしていただきました。☺︎

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