明暗。そして再会

明暗。そして再会

ここに1970年代からやってきた2本の時計があります。 同じモデルの色ちがい。 セイコー発行のカタログでも隣同士。 いずれも東京は亀戸工場出身の下町っ娘です。 もちろん誌面に掲載の実物ではありませんが、 「同門」にして「同期」、 そして「同型」にあたる2本のレディースウォッチは、 その後、対照的な道を歩むことになります。 向かって左、 ピンクゴールドのフェイスが印象的な1本。 傷の少なくないボディや、 文字の消えかかったフェイスが物語るように、 相当ヘヴィに使いこまれた様子。 本来のブレスレットも散逸してしまい、革ベルトに代わっています。 じつは、わたくしどもが入手したさいには、 湿気による錆で内部の機械が〝壊死〟した状態……。 中身のメカをそっくり同型のスペアに入れ替えるという、 「大手術」をおこなっています。 かたや右側のゴールドに輝くモデル。 製造から約半世紀……。 何びとにも求められず、 一度たりとも使われることなく、 とある時計店の片隅で、 ただただ長い年月をやり過ごしていました。 いわゆるNOS(ニュー•オールド•ストック=新古品)という代物です。 そこには「明暗」という単純な言葉では表現しきれない、 複雑なドラマがあるような気がします。 「明暗」も「良し悪し」も、 けっしてひとつの物差しでは測れないものだと思うからです。 役目をまっとうし、ボロボロになった時計。 50年間、誰にも振り向かれなかった美しい時計。 ーー時計としてどちらが幸運もしくは強運だったのかは、 判断の分かれるところではないでしょうか。 わたしたちの人生に紆余曲折があるように、 物言わぬ時計たちも、 きっとさまざまな景色を目にしてきたにちがいありません。 それぞれの来歴がどんなであれ、 わたくしどもは同じ時代を生き抜いた尊いサバイバーとして、 等しく丁重に「おもてなし」をしたいと思っています。

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