店主の弥光で御座います。
世間では長期休暇の時期となりましたが
機械には休む暇などないようです。
朝な夕な人々の生活を支える
彼らは生み出されたのですから。
以前も訪れた機械要塞都市のお話です。
https://minne.com/@nonamikorin/letters/49861
やはり今日も、休むことなく
機械音と蒸気、煙の匂いに溢れています。
さて、この機械要塞がどのようにして
どんな理由で出来上がったか…
そこまで遡って調べるには
余りにも時間がかかりますので
それよりもう少し後の歴史について
少しだけ本で読んでみますと
ちょっと面白いことが書いてありました。
およそ200年前…
「要塞」になる少し前です。
この地域には、とある理由で
捨て去られた鉄屑が山ほどあったので
それを産業に利用できないかと
考えた女性たちが三人いました。
ひとりは炎の館の娘
ひとりは水の館の娘
ひとりは金の館の娘…
ただ、こう呼ばれるのは後々の時代からです。
機会を作るには欠かせない鋼の部品。
その鋼を溶かす炎、冷やす水、繋げる金。
彼女たちは歳も産まれた身分も違いましたが
各々得意とする分野の資源を持ち寄って
一生を賭けた一大研究を始めました。
そうそう
言い忘れていましたが
機械要塞では女性たちが政治や産業の場で
多く活躍して名を轟かせています。
その理由は長く続けられた戦争。
徴兵された男性たちが不在であったのと
そして彼らの多くを喪ったことで
自らの暮らしを守っていくために
あらゆる場に女性が進出したのです。
前述した三名の女性もそういう人たちで
始めは小さな歯車から作り始めて
徐々にこつこつと財産を大きくしていき、
いつしか「三原始の家系」と
呼ばれるほど有力な名家、
機械要塞の富の柱となりました。
今でも大通りにはそれぞれの家系の紋章が
刻まれた旗が赤青黄色と街を彩ります。
さて、時を経て…今から何十年か前。
彼女たちの功績が改めて評価されると
その生涯に憧れる若い女の子たちが
ファッションに取り入れ始めました。
煌びやかなドレスには歯車透かしのレース、
花を歯車に見立てた流麗な柄の布や雑貨も
多く国中へと出回りましたし、逆に、
歯車を花の形にしたスケルトンの
可愛らしい時計や電話も大流行しました。
最近、レトロブームによって
また甦りつつあるファッションムーブメント。
所謂インフルエンサー的な女子たちが
果たして歴史のどこから見つけてきたのか、
その魅力に惹かれ始めたようです。
流行は何年か経つと元に戻る…と言いますが
例えば歴史が大きな時計のようだとしたら
10年、いえ100年に一度しか動かない
歯車も存在しているかもしれないと
機械要塞にいると漠然と感じます。
人の歴史は何故か別の時代でも
同じことを繰り返しがちだからです。
人口の減少による人手不足を埋めるために
簡単な歯車から細々と作り始めた女性たち。
まさかこんなことになるとは…ですね。
必要は発明の母とはよく言ったものです。
今彼女たちがこの流行を見たら
「あら、ちょっと照れるわね」と
笑顔になるかもしれません。
其れでは、又。